2016年10月12日水曜日

ドゥダメル指揮 シモン・ボリバル・オーケストラ・オブ・ベネズエラによる メシアン作曲「トゥーランガリラ交響曲」


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シモン・ボリバル・オーケストラ・オブ・ベネズエラ
@カーネギーホール


カーネギーホールの今シーズン開幕公演の一つ、シモン・ボリバル・オーケストラ・オブ・ベネズエラを聴きにいきました。

指揮は飛ぶ鳥落とす勢いのグスターボ・ドゥダメル。35歳。

彼も含め、オーケストラの団員は「エル・システマ」の実践者たち。

南米ベネズエラの独創的な社会教育プログラム「エル・システマ」は、もともとは、主に貧しい地域の子どもたちにヴァイオリンなどオーケストラの管弦楽器を無償で与えて音楽を教えるために考案されました。

「エル・システマ」は音楽教育であると同時に、職業訓練でもあり、世界的に活躍する音楽家になった実践者も少なくありません。子どもたちの中にはストリートチルドレンもおり、そうした子どもたちを犯罪やドラッグの道から救うことにも役立ちました。

シモン・ボリバル・オーケストラ・オブ・ベネズエラは、「エル・システマ」の教育を受けた25歳以上の演奏家で編成されていたオーケストラ「シモン・ボリバル・ユース・オーケストラ・オブ・ベネズエラ」がもともとの団体。

団員の年齢が高くなったことから、「ユース」をとって現在の形に。
さらに、グスターボ・ドゥダメル音楽監督のもと、「エル・システマ」を実践した若い演奏家のうちトップ集団が一定期間だけ従事するオーケストラから、もっと永続的なオーケストラへと変わり、活躍しています。

今日のコンサートはいつもとちょっと客層が違い、ベネズエラ人や若い人もたくさん。

国家が危機的な状況にある最中、国の誇りであるオーケストラがニューヨークのカーネギーホールで演奏するのを見る。それがいかに彼らの愛国心を高揚させるか、想像に難くありません。


大編成 / たくさんの打楽器, ピアノやオンド・マルトノも。



演奏曲は、メシアン「トゥーランガリラ交響曲」1曲のみ。演奏時間75分。

この作品は、私の主観で表現すると、フランスの作曲家メシアンが書いたちょっとピンク色のエッチな音楽、とでもいいましょうか。 中世の伝説「トリスタンとイゾルデ」からインスピレーションを受けた、愛と死を主題とする交響曲です。

「トリスタンとイゾルデ」といえばリヒャルト・ヴァーグナーのオペラが有名ですが、メシアンもこの伝説に魅せられて、三部作を書いています。そのひとつが「トゥーランガリラ交響曲」。 

「トリスタンとイゾルデ」は オペラや交響曲などクラシック音楽の領域では、至高の芸術作品を生み出す題材として認められていますが、現代的にわかりやすく言うと、実は不倫と三角関係のお話。そういう意味でちょっとエッチな内容なのです。

この「トリスタンとイゾルデ」に基づく「トゥーランガリラ交響曲」のタイトル「トゥーランガリラ」は、サンスクリット語の“turanga”と“lîla”からの造語。
いろんな意味がありますが、おおよそ「愛の賛歌」という意味。

でも、聴いてみるとわかるのですが、宗教的なストイックさはなくて、むしろ 放恣な恋愛が高らかに語られる感じ。大胆に性が歌われ、思わず吹き出してしまうほど。 

メシアンは敬虔なカトリック教徒でしたが、寒い北ヨーロッパの厳格なカトリックからのイメージとは程遠い音楽に聴こえます。

フランス南部アヴィニョンに生まれたメシアンだからこそ、ラテン的な地中海的明るさを備えているのかもしれません。 


曲にはどこかで聴いたことのあるフレーズが至るところに現れ、パロディのようになっているところも笑いを誘います。

特にガーシュウィンの「パリのアメリカ人」にそっくりな第4楽章、ヴァーグナーの「トリスタンとイゾルデ」の前奏曲にそっくりな第6楽章は、オマージュなのかパロディなのかわからず、真面目に聴くべきか笑っていいのか、悩みます。

さらに「音の曼荼羅」と言われるように、ありとあらゆる音が画面いっぱいに並べられたような音楽です。しかも、わかりやすいリズムやメロディーを大胆に使うので俗っぽい響きもたくさん。正直、下品スレスレです。

インド、南アフリカ、中国、インドネシア… といったありとあらゆるカラフルなオリエンタルな響きにあふれていますが、交響曲という西洋の音楽構造に落とし込まれています。極彩色のオリエンタルな絵画や音楽が、石造りの西洋の巨大なミュージアムに収められているよう。

8人以上も打楽器奏者がいて、ピアノがあり、オンド・マルトノ(電子楽器)があり、ジュ・ド・タンブル(鍵盤式グロッケンシュピール)があり、チェレスタがあり… 総勢100人超の演奏者が奏でる音楽。過剰の極致もいいところ?

メシアンの愛弟子の一人、ピエール・ブーレーズは、師匠メシアンについて「彼は作曲(compose)したんじゃなくて、並べ立て(juxtapose)たんだ」と述べています。実際、ごたまぜ感満載の曲です。

現代の私たちが聴くと、あまりの仰々しさと華々しさが時代にそぐわない感じに聴こえますが、そもそもこの曲が書かれたのは、悲惨な戦争が終焉をむかえた頃の1946~48年。

死が身近にあり、陰鬱な空気に満ちた当時には、まさに、生命の息吹そのものを謳歌するようなこの音楽が必要だったのでしょう。

曲は10楽章構成。 

第1楽章 序章 Introduction
第2楽章 愛の歌1 Chant d'Amour 1
第3楽章 トゥーランガリラ1 Turangalîla 1
第4楽章 愛の歌2 Chant d'Amour 2
第5楽章 星たちの血の喜び Joie du Sang des Étoiles
第6楽章 愛のまどろみの庭 Jardin du Sommeil d'Amour
第7楽章 トゥーランガリラ2 Turangalîla 2
第8楽章 愛の敷衍 Développement d'Amour
第9楽章 トゥーランガリラ3 Turangalîla 3
第10楽章 終曲 Final


もともとは、4楽章構成が念頭に置かれていたそう。

でも、そこに「5. 星たちの血の喜び」が加わり、さらに3つの「愛の歌」と3つの「トゥーランガリラ」が主要な楽章を交互に挟む形になります。

4つの楽章+第5楽章「星たちの血の喜び」だけでもいいのでは、と思うのですが、メシアン若気のいたりなのか(40歳頃の作品)、あふれんばかりの創作意欲に掻き立てられてなのか、これでもかというくらい多種多様な要素が詰め込まれて、巨大なマンモス作品に仕上がっています。

3回登場する「トゥーランガリラ」の印象的なメロディーはもちろん、有名な第5楽章以外に、オンド・マルトノが大活躍する第10楽章も聴きどころ。

特に第10楽章は、シモン・ボリバル・オーケストラの得意とするダイナミックな演奏が炸裂。最後は強烈な音の波が観客席に押し寄せてきました。

音の波が見えるような迫力の演奏を聴くのは久しぶりです。

ただ、ユース・オーケストラでなくなったことは、同時にこのオーケストラの課題をも明確にしました。ユースであるからこそ許されていたことはたくさんありますが、世界レベルのオーケストラになるには、演奏レベル、演奏者としてのモラルなど課題は多そうです。

指揮者ドゥダメルはジャンプしたり、ダンスするように指揮したり… 指揮者を見ているというよりは、エンターテイナーを見ているようでした。



さて、本日もプチ予習講座を開演前に開催しました。

クラシック音楽をこれから聴こうかなと思っていらっしゃる方に、コンサートに行く前に簡単な予習講座を開催しています。当日演奏される 作品の解説や、その作品にまつわる作曲家のエピソードなどを20分〜30分程度お話いたします。

クラシック音楽は曲の背景や構造をちょっと知るだけで聴き方が変わり、楽しめるようになります。解説のあとには一緒にコンサートを楽しみましょう!

予習講座はコンサート会場のホワイエもしくは近くのカフェなどで開催していますが、コンサートの内容や参加者の方のご都合に応じて、場所や時間も調整可能です。

解説は無料ですので、興味のある方はぜひご参加ください。


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2016年10月8日 
シモン・ボリバル・オーケストラ・オブ・ベネズエラ
@カーネギーホール

メシアン:トゥーランガリラ交響曲

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