2017年5月30日火曜日

室内楽の傑作 ブラームスとドヴォルザークのピアノ五重奏曲


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こんにちは、MUCHOJIです。
初めて当ブログをご訪問の方は、「はじめに」をお読みください。
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2017年5月14日

室内楽の傑作
ブラームスとドヴォルザークのピアノ五重奏曲
@コシチュシコ・ファンデーション 
The Kosciuszko Foundation 


久しぶりにコシチュシコ・ファンデーションで
リサイタルを聴きました。

East 65th Streetにあるコシチュシュコ・ファンデーションは、
ポーランド・リトアニア共和国の将軍にして政治家、
アメリカ合衆国の軍人で、
1794年の蜂起の指導者として
ポーランドとリトアニアでは国民的英雄だったという、
タデウシュ・コシチュシュコの名前を冠した協会。 


いかにも19世紀的なサロン風のホールで、
壁には主にポーランドの作家たちによる絵画が
ところ狭しと並び 美術館かギャラリーのようです。


写真は弦楽四重奏の公演時のもの。

本日はブラームスとドヴォルザークの
ピアノ五重奏の傑作2曲。
ニューヨークの若手演奏家たちによる演奏です。 

演奏者は若手とはいっても、プログラムは、
ブラームスのピアノ五重奏曲 作品34、
ドヴォルザークのピアノ五重奏曲 作品81と、
どちらも途方もない大作。

それをなんと無料で聴けるのです。



前半はブラームスのピアノ五重奏曲 作品34。

29歳のときに弦楽五重奏曲として構想したものの、
友人のヴァイオリニスト ヨーゼフ・ヨアヒムの
「男性的な力と活気に満ちているが・・・
しかし演奏は難しく、 弦楽五重奏では響きが不明瞭になってしまう」
という意見を受けて、2台のピアノソナタに改作。 

しかし、それを聴いたクララ・シューマンから今度は、
「作品の内容は素晴らしいけれども、
ピアノだけでは表現しきれない」
と言われてしまいます。

最終的に弦楽器とピアノの両方の良さを持つ
ピアノ五重奏として完成した
というエピソードを持っています。

ピアノ五重奏として初演されたのは、
構想から6年。 

それにしても、
どういう楽器で演奏するかが決まらないままに
音楽の構想だけがブラームスの頭に存在していた、
と考えるととても面白いです。



後半は、ドヴォルザークのピアノ五重奏曲 作品81。
第2楽章には「ドゥムカ」、
第3楽章には「フリアント」の名称がつけられていて、
どちらもスラヴ・ウクライナの民族舞曲に由来。

民族色溢れる曲を聴くと、
いつもドヴォルザークの
育った環境が思い浮かびます。

肉屋兼宿屋の息子に生まれ、
幼い頃から音楽好きの家族と
各地から訪れる旅人たちが歌う民謡に
囲まれて育ったドヴォルザーク。

室内楽にそうした民謡が入るのも、
室内楽にひときわ彼らしさが溢れているのも
そうした幼い頃の環境によるのでは、
と思わずにはいられません。

有名な第2楽章はこの作品の白眉といえるでしょう。
メランコリックな部分と情熱的な部分の交錯、
静と動の対比が秀逸。

ただしドヴォルザークは
本来の民族舞曲のドゥムカの特徴を
正確に用いているわけではなく、
むしろチェコ語で「瞑想」を意味する
ドゥムカを念頭に置いていたと言われています。



本日の演奏は、
知り合いのポーランド人ピアニスト
Malgorzata Goroszewskaさんと
彼女の演奏仲間によるもの。

ポーランド語の発音が難しいので
ガーシャと呼ばれていますが、
彼女はルノワールとかミュシャの絵から
飛び出してきたようなスラブ系色白美人。 
ショパンを彷彿とさせる 憂いを帯びた表情で
ピアノを弾く様子は絵のようです。

19世紀のサロンはこんな感じだったのかな
と親密な雰囲気を楽しみながら聴きました。
終演後は音楽でお腹いっぱい。



いろんなところで幾度となく書いていますが、
若い人の真剣な演奏を聴くのは大好きです。

ひたむきに音楽に向かう姿勢に惹かれるのはもちろん...
将来大きくなった彼らの演奏を聴いて、
「ああ、昔、あの人の若い頃の演奏を聴いたよ。」
と振り返る楽しみがやってくる...
そうして昔を振り返って聴くのも
音楽の楽しみ方のひとつだと思うからです。


それにしても、若手の演奏とはいえ、
こんな大作を無料で聴けるようなヴェニュが
方々に存在するニューヨークは
本当に恐ろしいところです。



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2017年5月14日
室内楽の傑作

@ The Kosciuszko Foundation

Malgorzata Goroszewska, Piano 
Sheng-Ching Hsu, Violin 
Patrick Yim, Violin 
Mujan Hosseinzadeh, Viola 
Benjamin Larsen, Cello


2017年5月18日木曜日

【日本の美に思わず涙ほろり】ソプラノ服部愛生さんによる“雅”な和の世界


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ソプラノ服部愛生リサイタル “雅 Miyabi” with ゲストアーティスト 

今年になってからご縁がありお会いしたアーティストさんの
リサイタルのお手伝いで、
ニューヨーク郊外のスカールスデールまでお供しました。

新緑が美しい閑静な高級住宅街にある
Greenville Community Churchで行われた
「雅 Miyabi」をテーマにしたリサイタル。

当日は雨模様でしたが、
美しいお庭のしっとり濡れた木々の葉や
ハナミズキの花は雰囲気たっぷり。

晴れの日のお庭の様子

リサイタルでは、ソプラノ服部愛生さんが、
ゲストアーティストのテノールSean Fallenさん、
ピアノ岩尾麻梨菜さん、
箏 木村伶香能さんとともに、
春の優雅な雰囲気に満ちた音楽を奏でました。


前半は百人一首をテーマにした作品を、
ピアノと箏とのアンサンブルで。

百人一首をテーマにした曲が聴かれる機会は多くありませんが、
当日は、信時潔、山田耕筰、貴志康一などの
珍しい作品を聴くことができました。




プログラム解説によれば、
山田耕筰(1887-1965)の『幽韻』は、
小倉百人一首からの女性の歌のみ5首選んで作曲された歌曲集。

この作品は山田耕筰のニューヨーク滞在中の危機をきっかけに
作られたそう。

1919年、カーネギーホールのリサイタルにおいて
スポンサーからの入金が滞りあわや中止か、
というところで資金援助を申し出てくれた
富豪夫人へのお礼に書かれたものです。

スクリャービンやドビュッシーを彷彿とさせる、
色彩豊かで調性の不安定な不思議な響きの中に、
箏曲や吟唱などの日本的な要素が挟まれて、
短いひとつひとつの曲の中に凝縮された美が
宝箱のように閉じ込められている作品でした。



信時潔(1887-1965)の歌曲集『小倉百人一首』は
『幽韻』と比べると、ずっと親しみやすい雰囲気。

淡く憂いを帯びた色調の音色に包まれて、
アメリカにいる日本人の聴き手にとっては
日本への郷愁の念を感じずにはいられませんでした。



貴志康一(1909-1931)による
百人一首からとられた2曲は、
緊張感のある、かつダイナミックな曲。

貴志は僅か28歳で夭折したとのこと。
春になると桜が一斉に見事な花を咲かせ、
瞬く間に散り去るように、
僅か数分の曲の中で一挙にあらゆるエネルギーを
放出させたような感があります。

彼の人生もそのようなものだったのかもしれません。 



服部愛生さんのソプラノは、
この教会の素晴らしい音響の効果もあるのでしょう、
透き通った声が 高く高く登り聴き手の上に降り注いで
ものすごい臨場感でした。


木村伶香能さんの心のこもった箏の音色とともに
歌われた百人一首は、出色。
日本人にしかなし得ない芸術に、
特にアメリカ人のお客様たちは
食い入るように聴き惚れていました。


また、ほぼ全編でピアノ伴奏を務められた
岩尾麻梨菜さんは、若手とは思えない
ベテランのような落ち着きと臨機応変な対応が印象的でした。
優しく丁寧に歌い手に寄り添うピアノが心地よかったです。



後半はオペラの有名アリアや歌曲によるプログラム。
春から初夏の花々がたくさん登場する
優雅な曲に包まれる「雅」な世界。



『蝶々夫人』のデュエットの最後では、
ご主人でテノールのSeanさんが
軽々と服部さんを担いでお姫様抱っこで退場。

ご夫婦で交わされる愛のデュエットは
親密でいて切なさに満ちており、思わず涙ほろり。



茶目っ気溢れるご本人が
「みんな感動して泣いちゃうよ」
とおっしゃる通り、服部愛生さんの声は、
しっとりと独特の緊張感のある歌声が
美しいソプラノでした。



さて、このリサイタルは
様々な点で和の心、日本のおもてなしの心に
溢れていたように感じます。


百人一首をテーマにした曲や
春の風情を感じさせるプログラムだけではありません。

たとえば、ドレスの上から振袖と帯を特別に着付けた衣装。
このような着付けの仕方は初めて見ましたが、
和と洋の組み合わせが目にも鮮やかで白い教会に映えました。



また、ロビーには和の雰囲気を感じさせる
会場装花や書があしらわれ、
百人一首や貝合わせ、
茶道のお釜や柄杓などのしつらえで
和の空間が作られていました。



さらに休憩時には「宝石のよう」と評される
ニューヨークで人気の和菓子店「もち凛」さんの桜餅を
お抹茶とともにお客様にお楽しみ頂く趣向。




音楽以外の要素とのコラボレーション企画は
様々な場所で行われていますし、
私も幾度となくそうした企画に携わってきましたが、
いつもバランスの難しさを感じます。

おもてなしというより、集客のために
コラボレーションに力を入れるあまり
メインの音楽がかすれていることもしばしば。

しかし、服部さんのリサイタルでは、
音楽はもちろん、すべてを「雅」な世界でアレンジし
お楽しみ頂こうという服部さんのおもてなしの心が
至るところに感じられ、
お客様もそれを心から楽しまれているようでした。

雨の日であっても、ニューヨークシティから離れていても
お客様が彼女の歌を聴きに訪れるわけです。

彼女の人間的な魅力・アーティストとしての魅力に
共感する方々によって構成されたサポートチームも
素晴らしかったです。


華道、書道、茶道など和の芸術の多くには
「道」という字が充てられますが、
私はいつもこの「道」の意味には、
形や技を重んじるのみならず、
誠心誠意、心をこめて物事を行う意味が含まれている
と思っています。

音楽の「道」を極める服部さんが、
心のこもった歌声で伝える日本の美。
彼女のサポートチームのプロフェッショナル
(メイク、ヘア、ネイル、着付け、会場装花、書、和菓子、茶など)の美。
マネジメントやお客様への気配りもさりげなくきちんと。

「道」を極めようとする様々な分野の方々が
集まって作られたリサイタルで、
現代の日本人が失いかけている
和の心や思いやりの心を再認識できた気がします。

このような機会に参加させて頂けたことに感謝。






※紹介させて頂いたお写真は服部さんの許可を得て、
ご本人のFacebookよりお借りしました。


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2017年5月13日
ソプラノ服部愛生リサイタル "雅 Miyabi" with ゲストアーティスト
@ Greenville Community Church

Manami Hattori (Soprano)
Sean Fallen (Tenor)
Marina Iwao (Piano)
Yoko Reikano Kimura (Koto)

信時潔:『小倉百人一首』より
山田耕筰:『幽韻』より
貴志康一:八重桜、天の原
シューマン:『詩人の恋』より"素晴らしく美しい五月"
メンデルスゾーン:歌の翼に
プッチーニ:『蝶々夫人』より "可愛がってくださいね"  ほか


● Link

【Soka University のコンサートホールがすごい!】

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