2016年2月13日土曜日

清潔感が心地よい! ドーヴァー・クァルテット


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こんにちは、MUCHOJIです。
初めて当ブログをご訪問の方は、「はじめに」をお読みください。
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2016年2月11日
ドーヴァー・クァルテット 

from Dover Quartet website


おそらくニューヨークにいる音楽愛好家は、
同じ日の同じ時刻に2つ以上行きたいコンサートがある、という
嬉しくも悲しい発見をすることが結構頻繁に起こるのではと思います。 

2月11日はホーリー・トリニティー教会Horry Trinity Churchで
ジュリアード弦楽四重奏団のコンサートが、
同じ時刻にリンカーンセンターの
デイヴィッド・ルーベンシュタイン・アトリウムDavid Rubenstein Atriumで
ドーヴァー・クァルテットノコンサートがあり、
どちらに行こうか迷いながらも、
初聴のドーヴァー・クァルテットの方に行ってきました。
こちらは無料だったし、ジュリアード弦楽四重奏団の演奏は来週も機会があるので。

リンカーンセンターの
デイヴィッド・ルーベンシュタイン・アトリウムDavid Rubenstein Atriumでは
毎週木曜日の夜7時30分から無料のコンサートが開かれています。

ヒップホップ、ポップス、ラテン、ロック、ソウル、カントリー、
ジャズ、ワールドミュージック、クラシック、などなど
ジャンルは様々なのですが、
クラシックも結構良いプログラムのものがたまに見つかります。

壁一面が緑に覆われた「緑の壁」の雰囲気がよくて
コンサートがなくてもたまに休憩しにくるだけでも気持ちいスペースです。
そもそもここはリンカーンセンターのディスカウントチケットなどを扱う場所。
そこにカフェなどの休憩スペースが作られていてくつろげるようになっています。




 2月11日のアトリウム・コンサートは、
アメリカの若手弦楽四重奏団ドーヴァー・クァルテット。

プログラムにショスタコーヴィチの弦楽四重奏曲が含まれていたりして、
ニューヨークはクラシック音楽の敷居が低くて本当にすごいと思います。
本格的な弦楽四重奏のプログラムが無料で楽しめるコンサートです。

ちなみに来年には以前紹介したミンゲット・クァルテット
コンサートも予定されていて、
若手だけでなく北米ツアー中の中堅まで無料で聴けてしまうお得さ。

ドーヴァー・クァルテットは、
ハイレベルな戦いとなった第11回バンフ国際コンクール(2013)の覇者。
私はコンクールおたくではないので、
それぞれのコンクールの目指すところには詳しくはありませんが、
バンフ大会は、優勝クァルテットがその時点でもっとも成熟した
クァルテットとは限らない、ともいわれるコンクールだそう。
20代前半から30代まで出場しているので、結成まもないクァルテットから
プロとして活躍しているクァルテットまで出場します。
何を基準にするのか審査が難しそう。

第11回のバンフ大会では、
まだ20代前半の結成間もない若手弦楽四重奏団の優勝に、
ある人は異議を唱え、別の人はこれからの彼らの成長に期待を込めたそう。

たしかにその時のファイナル出場クァルテットをみると、
アタッカ・クァルテットや、シューマン・クァルテット、など
すでにここでも紹介した、ユニークで、自分たちだけの音楽を持った
クァルテットが並びます。

コンクールに結果はつきものですが、ハイレベルなコンクールでは、
技術力の高さは無論のこと、もはや音楽の好みのレベルで審査をしなければ
ならないのでは...
審査員の苦労が窺えます。 

昨日のドーヴァー・クァルテットの演奏は、
とても真面目できっちりとした清潔感のある音楽を奏でる
クァルテットという印象。

さわやかで気持ち良く聴けますが、逆にいえば、
強烈な個性は感じられないので、
歌心に満ちたクァルテットとか、「なにこれ、おもしろいじゃん」
という驚きをもたらしてくれるようなクァルテットが好みの私には、
優美な流れとか、ひとひねりがあればなもっと好きになるかも
という感じがしました。
でも、これは完全に好みの問題です。

ひたすらに音楽にまっすぐに向き合い優等生っぽいところが、
このクァルテットの持ち味で良いところなのかも。
気持ち良く聴けます。そして安定した技術力。

前半に演奏されたのは、シューマンの弦楽四重奏曲 第1番 作品41-1。
1840年の9月に裁判の末、当代きっての女流ピアニスト、
クララと結ばれたロベルト・シューマンが
充実した創作活動を展開していた頃の作品。

特に1842年には、シューマンは3曲の弦楽四重奏曲、
ピアノ五重奏曲、ピアノ四重奏曲をほとんど一気に書き上げた、
もっとも実りある1年です。

同年に書き上げられた3曲の弦楽四重奏曲の中の第1番は、
いかにもロマンティックで、
一見とりとめもなく見える甘美なメロディーを基調に、
音楽の明暗が劇的に変化する曲。

人間の美しい部分もドロドロした部分もすべて正直に音楽で語ってしまう
シューマンらしい作品だと思います。

この作品を聴くと、いつもあちこちにベートーヴェンが
隠れているような気がします。

たとえば、第3楽章の冒頭。
ベートーヴェンの「第九」交響曲のアダージョにそっくりです。

そして終楽章には、バクパイプを思わせる低音の持続音の上に
カデンツ風の華やかなメロディーが2回繰り返し演奏されますが、
ここを聴くと、どうしてもベートーヴェンの弦楽四重奏曲 作品132の第2楽章を
連想してしまいます。

個人的には終楽章がもっとも好きなのですが、その理由は、
終楽章には、第3楽章のテーマを裏返しにして作られた
コラールが数小節だけ登場するから。

儚い美しさをほんのわずかな時間だけ聴かせて名残惜しく思わせる、
シューマンが憎らしくなるほどの美しさです。 

後半に演奏されたのは、ショスタコーヴィチの弦楽四重奏曲 第2番 作品68。
ドミトリー・ショスタコーヴィチはベートーヴェンに匹敵する、
15曲もの弦楽四重奏曲を残しています。

ソビエト連邦体制下のロシアという特殊な環境で、
常に当局の顔色を伺いながら書かざるを得なかった交響曲に対して、
弦楽四重奏曲では、本音のショスタコーヴィチを聴くことができると言われます。

第2番が書かれたのは1944年。第2次世界大戦の最中のこと。

第1楽章は無骨なメロディーが複雑に展開され、
第2楽章は独白のような悲劇的なメロディーが、
まるでそれが書かれた戦時中の重苦しい雰囲気を反映しているかのよう。
第3楽章は不穏な空気を醸し出すワルツ。
第4楽章は光と影が交錯する変奏曲形式。

この曲はイ長調で書かれていながら、
前半に演奏されたシューマンのイ短調よりも暗く聴こえてしまうという
不思議な作品。 

ドーヴァー・クァルテットの演奏は、
シューマンもショスタコーヴィチも、
心がざわめくような音色ではなく、ひたすらきちんと美しい。

どちらの曲も演奏によってはひどく心をかき乱されるので、
こうして落ち着いて演奏が聴けてしまうというのはある意味すごいことかも。

ひとりだけiPadに投影した楽譜を足元のBluetooth操作ペダルで
譜めくりして演奏していたヴィオラの女の子ミレーナさん。

しいていえば、彼女のヴィオラは少し野生的な音色をもっていて、
他の3人の男の子の真面目さの中に色をつけていました。
ショスタコーヴィチはヴィオラが活躍するところが多かったので
殊に耳に残りました。




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ドーヴァー・クァルテット  @リンカーンセンター
                  デイヴィッド・ルーベンシュタイン・アトリウム
第1ヴァイオリン:ジョエル・リンク Joel Link 
第2ヴァイオリン:ブライアン・リー Bryan Lee 
ヴィオラ:ミレーナ・パハロ-ファン・デ・シュタット Milena Pajaro-van de Stadt 
チェロ:カムデン・ショウ Camden Show 

シューマン:弦楽四重奏曲 第1番 イ短調 作品41-1 
ショスタコーヴィチ:弦楽四重奏曲 第2番 イ長調 作品68 



 ● Link 
 Dover Quartet


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