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カタコンベで現代音楽!
8月25日 Christina & Michelle Naughton
メシアン:2台のピアノのための作品《アーメンの幻影》
@Crypt Chapel of The Church of the Intercession
「クラシックコンサート予習講座〜現代音楽の楽しみ方」に
お越しいただいた方、 ありがとうございました!
予習講座でメシアンとその作品の特徴について
30分ほどお勉強したあと、コンサート会場へ。
アッパーマンハッタン、West 155th Streetの高台の上の
広くて美しい墓地の傍にある Crypt Chapel of The Church of the Intercession
このコンサートシリーズ、ワインとチーズ、フルーツ、スナックなどを手に
おしゃべりを楽しんだ後で、コンサートを聴くスタイル。
ワインとチーズも教会の中庭の回廊でいただきます。
暗くてすでに雰囲気たっぷり。
ニューヨークでも日本と同じようにクラシック音楽のコンサートでは、
シニアのお客様が中心ですが、The Crypt Sessionsのシリーズは
お客さんのほとんどが、普段はSoHo, NoLItaで見かけるような
20〜30代のお洒落な若い方々。
演奏される曲目は、宗教曲であったり、現代曲であったり、と
決して聴きやすい音楽ではないのに、これだけ若いお客さんが集まるのは、
やはりこの場の特別感でしょうか。リピーターも多いです。
さて、ずらりと並ぶお墓の脇を通って、
いよいよ地下のカタコンベに移動します。
今日のピアノの配置はこんな感じ。
天井を外したピアノが、両脇の客席に挟まれるように中央に。
地下であることに加え、当日は夕方に夕立がありました。
湿気がすごくて調律師さんの苦労が忍ばれます…
そもそもピアノを運び入れるのには地上からの急な階段しかない...!
プログラムノートも麻の紐で結ばれた巻き物になっていて、凝っています。
本日の曲目は、メシアン作曲《アーメンの幻影》。
2台ピアノのための作品です。
作曲者のオリヴィエ・メシアンは、20世紀、フランスの作曲家。
フランス、アヴィニヨン生まれで、
父ピエールはシェイクスピアの全作品を仏訳した英語教師、
母セシル・ソーヴァージュは女流詩人と、芸術家気質の家に育ちます。
こどもの頃にクリスマスプレンゼントで、
ドビュッシーのオペラ《ペレアスとメリザンド》を贈られて
それをぼろぼろになるまで勉強したことは、
彼の作曲家としての人生を決めるきっかけになったと言われています。
《アーメンの幻影》は、ドイツ軍の占領下の真っ只中、
1943年のパリで初演された作品。
1941〜42年のドイツのゲルリッツでの捕虜生活から解放されてから
初めて書いた作品です。
ちなみに捕虜生活の中で書き上げたのが、
あの有名な《世の(時の)終わりのための四重奏曲》。
2台ピアノの作品ですが、2人のピアニストの掛け合いが
まるでお互いに挑みかかるように激しく、圧倒的な流れの音楽。
第1ピアノは、彼の2番目の奥さんでピアニストのイヴォンヌ・ロリオが、
第2ピアノはメシアン自身の演奏で初演されました。
曲は7楽章構成。 メシアンは情熱的・献身的なローマカトリック教徒。
彼の作品は全てその信仰と関連しています。
パリ高等音楽院を卒業してから、60年以上、
パリのサントリニティー教会でオルガニストを務めたことに
深い喜びを感じていたそう。
1 創造のアーメン
/ "Amen de la création"
2 星たちと環のある惑星のアーメン
/ "Amen des étoiles, de la planète à l'anneau"
3 イエスの苦しみのアーメン
/ "Amen de l'agonie de Jésus"
4 願望のアーメン
/ "Amen du désir"
5 天使たち、聖人たち、鳥たちの歌のアーメン
/ "Amen des anges, des saints, du chant des oiseaux"
6 審判のアーメン
/ "Amen du jugement"
7 成就のアーメン
/ "Amen de la consommation"
それぞれの楽章のストーリーが、
絵のように音に描写されている曲なのですが、
カタコンベの薄暗い空間の中で聴くといっそうその世界に惹き込まれます。
1. 創造のアーメン
[「創造の主題」が暗黒の深淵から、着実に厳粛に聖歌のように生起する。光が徐々に差し込んで広がっていき、鐘の音のような和音がクレッシェンドしながら鳴り響き、光の中で輝いている。]
低音のくぐもった響きの中から、徐々に中・高音が現れて、
暗い闇の中に光が差してきます。
ぼんやりとした音が渦巻く暗い世界から徐々に音楽が明確になっていく様が、
何かが徐々に姿を現していくようで、まさに「創造」の音楽。
2. 星たちと環のある惑星のアーメン
[止まることない宇宙の回転、猛烈なエネルギ-のダンス。複数の環を持つ土星、他の惑星、止まることなく回転している星星が、全て創造主に対して賛同のアーメンを叫んでいる。]
一般的に私たちがイメージする、キラキラ輝く「星」のイメージとは
随分異なります。
シャープで重量感のあるモティーフが執拗に繰り返され、
むしろ宇宙の中で、巨大なエネルギーをもつ星たちが、
爆発を繰り返しながら回転を続けていく様を現したような音楽。
ゴツゴツした厳つい低音の響きに対して、
雪の結晶のように輝く音が散りばめられた高音が対照的。
モティーフの対位法的な展開が宇宙の「秩序」のようなものを
形作っているように聴こえます。
3. イエスの苦しみのアーメン
苦痛に満ちた突き刺さるような旋律と不協和な響きが
イエスの苦しみを表しています。
イエスの血と汗のしたたり、と言われるバスの単音の響きは
寒気がするほど。
そして終盤の突然の沈黙。会場が恐ろしいほどに静まり返ります。
4. 願望のアーメン
[神に捧げた愛が、魂から湧き起こるアーメンを喚起する。神との結合への欲望。調和的なパラダイスの深い優しさと静けさ、栄光に満ちた成就への激しく情熱的な人間の願望]
うっとりと夢の中でまどろんでいるような部分と、
2人のピアニストがお互いに挑みかかるように前のめりになって奏する
激しい部分とが対照的。
5. 天使たち、聖人たち、鳥たちの歌のアーメン
[透きとおるように、力むことなく、ピュアな歌によって、神への賞賛のアーメンを天使と聖人が唱える。ナイチンゲール、ブラックバードなど、鳥たちの愉悦的な歌声のコーラス]
ユニゾンで聖歌を思わせるメロディーが歌われたあとに、
「創造の主題」が奏でられます。
ナイチンゲールのさえずり、ブラックバードのはばたき、などが
色彩豊かに聴こえて、とても描写的な音楽。
鳥の専門家でもあり、77種類もの鳥が登場する《鳥のカタログ》を
作曲したメシアンの得意とする作曲法の一つを感じられる楽章です。
6. 審判のアーメン
[最も短い楽章。"Let it beは審判の形になる。神の愛を拒否したものに対するこの判決の厳しさは、リズミカルな厳格さ、透明性と全体的な明晰さをもって演奏される]
重苦しく、法廷で打ち鳴らされる槌のような無慈悲な響きの
和音の繰り返しに、戦慄を覚えます。
判決の峻厳さを表した音楽。
7. 成就のアーメン
[キリストにおいて約束された世界が成就した至福の時。神の最後の"Let it be"。「創造の主題」に回帰して、子供のような歓喜の波が次か次へと変形していく]
生気と輝きに満ちた「創造の主題」が繰り返し奏されますが、
ここでは、面食らってしまうほどに、調性的。
これまでの楽章に現れてきた、不協和な響き、厳つい和音、
断続的でシャープな旋律、と打って変って
調性的にメロディアスに演奏することは、
歓喜の歌を表すのにとても効果的だと思いますが、
あまりにも喜びに満ちていて、裏読みしたくなるほど。
講座に参加してくださった方が、
「最後の調性的なところはとても明解でしたが、
実は、神の世界ってそんなに単純ではないかも…」
とおっしゃっていたのが印象的でした。
その明るさの裏には何かあるかも… なるほど、
そういう解釈もあるかもしれません。
こうしてお互いの気づいた点を話したり共有できるのが、
講座を開いたり何人かで一緒の音楽を聴きにいく醍醐味だと思います。
会場の雰囲気と相まって、まさしく、日本では絶対味わえない経験。
2台のピアノの上を極彩色の音が飛び跳ねているようで、
でも、その中に、近寄りがたい怖さ、超越的な存在を感じさせるものがありました。
ユニークな空間と、素晴らしい音響、雰囲気たっぷりの音楽。
隠れ家的な場所で、ニューヨークならではの体験をしたい方には
おすすめのコンサートシリーズです。
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2016年8月25日
Christina & Michelle Naughton
@Crypt Chapel of The Church of the Intercession
メシアン:2台のピアノのための作品《アーメンの幻影》
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The Crypt Sessions: Christina & Michelle Naughton
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