2016年2月22日月曜日

バッハ21世紀の響き? フィリップ・クイント&マット・ハーシュコヴィッツ「バッハXXI」


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こんにちは、MUCHOJIです。
初めて当ブログをご訪問の方は、「はじめに」をお読みください。
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2016年2月18日
フィリップ・クイント&マット・ハーシュコヴィッツ・トリオ 「バッハXXI」 

もはやフィリップ・クイントをクラシック音楽の演奏家だと認めない人も
多いかもしれないですが、彼は1974年生まれのロシア出身のヴァイオリニストで、
モスクワ音楽院でアンドレイ・コルサコフに学び、
9歳にしてコルサコフのオーケストラでソロ・ヴァイリニストとしてデビュー。

その後ジュリアード音楽院へ進学。2001年に発売したデビューCDがグラミー賞に
ノミネートされ、一躍注目を集めます。
2010年よりストラディヴァリウス協会より貸与された「ルビー」を使用。 

クイントはストラディヴァリウスのヴァイオリンをタクシーに置き忘れて
紛失した演奏家としても有名ですけど。
(正直者のタクシードライバーだったおかげでヴァイオリンは手元に戻り、
クイントはお礼にニューヨークのタクシードライバーたちのための特別なライブをニューアーク空港で開いたというおまけつき。) 

ちょうど、彼は先日のバレンタイン・デーに動画をYoutubeにアップしていて、
String Magazineの編集部にピックアップされていました。

Youtube: Valse Triste




彼はロマンティックなアレンジを好むみたいですね。 

2月18日に、リンカーンセンター デイヴィッド・ルーベンシュタイン・
アトリウムコンサートで行われた公演は、
ピアニスト&アレンジャーのマット・ハーシュコヴィッツと彼のトリオとの
ジャズコンサート。

タイトルは「バッハXXI」。
「バッハXXI」は「バッハ21世紀の響き」という大仰にも見えるほどのテーマ。
クイント氏はこのテーマを企画したハーシュコヴィッツ氏に
「21世紀のバッハになるつもりなの?」と冗談まじりに尋ねると、
ハーシュコヴィッツ氏の返事は
「いやいやとんでもない、バッハが墓から幽霊になって現れてくれたら
嬉しいけどね」と。 


ハーシュコヴィッツ氏のアレンジは、彼自身も述べていましたが、
ベースの部分ではバッハの音を一音たりとも変えたり、除いたりしていなくて、
構造はそのまま。

でもその上に流れる音楽はジャズだったり、ラテンだったり、ユダヤ音楽だったり、
ときどき現代音楽っぽいアレンジも。

よくあるジャズアレンジじゃん、と思うかもしれないし、
ぼーっと聴いているとそう聴こえる感じもするのですが、
実際はかなり凝っていて、ベースはそのままでという制約が
ある状態で、時代的には中世から現代まで、ジャンルや国も異なる
かなり多様なエッセンスを詰め込んでいます。

彼が言っていた中でひとつ面白いなと思ったのは、

「同時代にも後世においてもバッハの解釈は様々で、私の考えでは、
19世紀の作曲家たちはバッハをとてもロマンティックな作曲家だと考えていたんだ。
たとえば、ブゾーニ、リスト、ラフニノフ…
皆バッハの影響を受けて演奏したり作曲したり編曲したりしているけど、
彼らはバッハからロマンティシズムを引き出していたんだよ。
そして私の解釈では、バッハはとてもロマンティックだったんだ。」

ということ。

ハーシュコヴィッツ氏は彼独特の21世紀のやり方で、バッハから
ロマンティシズムを引き出して、とてもロマンティックなアレンジで
バッハを演奏していたというわけ。

プログラムは、オールJ.S.バッハで、
・無伴奏チェロ組曲第1番ト長調 BWV.1007より プレリュード
・カンタータ第208番『狩のカンタータ』よりアリア『羊は憩いて草を食み』
・主よ、あわれみたまえ(マタイ受難曲より)
・ヴァイオリン協奏曲イ短調 BWV.1041より 第2楽章 アンダンテ
・2つのヴァイオリンのための協奏曲ニ短調 BWV.1043より 第1楽章 ヴィヴァーチェ
・ゴルトベルク変奏曲より アリア
の6曲。 

ヴァイオリン協奏曲イ短調 BWV.1041より 第2楽章 アンダンテ
が変わっていて、ブラジルの熱帯雨林にいるみたいな響き。 

2つのヴァイオリンのための協奏曲ニ短調 BWV.1043より 第1楽章 ヴィヴァーチェは、
ゲストヴァイオリニストとして、ララ・セント・ジョンが登場して2人で演奏。

ララ・セント・ジョンは4歳の時にはすでに「神童」扱いされていた
カナダ生まれのヴァイオリニスト。
バッハを得意としているけれども、かなり大胆なバッハ。
彼女はツアー途中でニューヨークにたった1日だけ滞在してクイントの
コンサートに出演してくれたよう。

2人の掛け合いは、演奏というか、遊びというか、バトルのようでも。
偉大な音楽の権威というイメージのバッハではなくて、
もっと純粋に音楽を楽しみ遊びながら表現している感じ。
ちなみにこの曲の演奏でヴァイオリニストの弓の毛がキレまくる、っていうのは
初めて見ました… 最後はプログレッシヴ・ロックみたいに激しいから。

Youtube:Matt Herskowitz Trio with Philippe Quint and Lara St. John Play Bach's Double Concerto




 

そして最後にゴルトベルク変奏曲よりアリア。
ジャズが基本だけど、アクセントはタンゴ風。
アメリカの20世紀の現代音楽作曲家エリオット・カーターみたいな響きも。

すべての曲が2015年にリリースされたCDに収録されていて、
下記のサイトでは録音の様子をみることができます。
In-Studio:Matt Herskowitz Trio with Philippe Quint Bring Jazz to Bach

 聴衆は「バッハって書いてあったから来たらジャズだった」というお客さんから、
「ジャズライブだと思って来たらクラシック音楽コンサートみたいに
席に座って聴かなきゃいけないコンサートだった…」
「ララ・セント・ジョンって誰?」って言っている人までいろいろ。

後ろのクラシック音楽愛好家とおぼしきおばちゃんは、
「ヴァイオリンにマイクをつけるのを今すぐやめさせなさいよ!彼らには必要ないわ!」
と係員に怒りをぶちまけていたけど…

なにはともあれ、かなりクラシック音楽に忠実で洒落たアレンジのジャズを、
安定したテクニックと音楽性を持ち合わせた音楽家の演奏で、
しかも無料で聴けるわけだから、いろんな人が来る。

ジャズライブだと思って来ていた隣のロシア人の女の子は
1曲ごとに曲名をiPhoneで調べていたようだし、
これをきっかけにバッハの音楽を聴いてみる人が出てくるんだったら、
クラシック音楽界には良い効果?

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2016年2月18日 リンカーンセンター デイヴィッド・ルーベンシュタイン・アトリウム
「バッハXXI」
ピアノ:マット・ハーシュコヴィッツ
ヴァイオリン:フィリップ・クイント
ヴァイオリン(ゲスト):ララ・セント・ジョン
マット・ハーシュコヴィッツ・トリオ

J.S.バッハ:
無伴奏チェロ組曲第1番ト長調 BWV.1007より プレリュード
カンタータ第208番『狩のカンタータ』よりアリア『羊は憩いて草を食み』
主よ、あわれみたまえ(マタイ受難曲より)
ヴァイオリン協奏曲イ短調 BWV.1041より 第2楽章 アンダンテ
2つのヴァイオリンのための協奏曲ニ短調 BWV.1043より 第1楽章 ヴィヴァーチェ
ゴルトベルク変奏曲より アリア
  

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