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こんにちは、MUCHOJIです。
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2016年2月21日
デンマーク弦楽四重奏団Danish String Quartet
リンカーンセンターでCMSのウィンターシーズンの目玉として開催されていた
「ベートーヴェン弦楽四重奏」シリーズの大トリは、デンマーク弦楽四重奏団。
前日までチケット完売になっていましたが、
予想通り(というか先日CMSに寄ったときに問い合わせておいただけなのだが)
当日になったらチケットあったよ!
デンマーク弦楽四重奏団のメンバーといえば、黒のタイトなスーツに身を包み、
シャギーな金髪をスタイリッシュに逆立てたヘアースタイルのイケメンズ。
形容するならば、ブルックリンのアングラのブティック店員...
完売というから若い女性にもさぞかし人気があるのだろうと思ったら、
室内楽界ではそんなこと起きないらしい。
やっぱりジャンルが弦楽四重奏だから右をみても左をみても圧倒的にお客さんはシニア。
うーん、ニューヨークの室内楽事情を知ることができました。
しかしベートーヴェンの後期の弦楽四重奏曲だけを取り上げた公演で
約950人収容可能な会場が満席になるなんて思っていませんでした。
隣の席の夫妻によれば、室内楽コンサートはたいてい退屈しているシニアでいっぱいになるのだそう。
ほとんどがリタイヤした先生とか暇を持て余したミドルクラスの方々とのこと。
デンマーク弦楽四重奏団といえば、北欧の素朴な民謡の旋律を弦楽四重奏で演奏し、
Dacapo Recordsから発売している録音がとても特徴的です。
Youtube: Arlige brudefolk and Sonderho Bridal Trilogy - part I -
CDにはPart I〜Part IIIまで収録されているのですが、
島国であるデンマークの中の2つの島の伝統的な婚礼音楽をもとに
弦楽四重奏に編曲しています。
憂いを帯びた美しい旋律と、ノン・ヴィブラートの素朴な、透き通る音色の
アンサンブルが心地よいです。
CD情報:Wood Works: Danish String Quartet
でも、今日は北欧の音楽ではなくて、ベートーヴェン弦楽四重奏曲、
しかも最晩年の作品です。
曲目は、
ベートーヴェン:
弦楽四重奏曲 第14番 嬰ハ短調 作品131
弦楽四重奏曲 第16番 ヘ長調 作品135
弦楽四重奏曲 第13番 変ロ長調 作品130 第6楽章フィナーレ:アレグロ
消化しきれないほどの内容の濃いプログラムです。
ベートーヴェンといえば、交響曲第9番が最後の作品と思われがちですが、
実はその後まだ3年の時間がベートーヴェンに残されていて、
その3年がとてつもなく難解で不可思議で深い作品を生み出しています。
彼は弦楽四重奏曲に没頭するのですが、ひたすら心の内面を掘り下げていく、
個人的なダイアリーのような音楽が展開されます。
難解だと言われることも多々あって、クラシック音楽初心者には、
敬遠されがちですが、でもこれらを聴かずに死ぬのは絶対もったいないです!
私も学生の時には聴いても何がいいのかよくわからなかったのですが...
自分が死んだ時のお葬式に流してほしい曲の候補リストに載せたい!
というほどの愛好家もいます。
デンマーク弦楽四重奏団のメンバーも若いころは理解できなかったと言っていたっけ。
ちなみにベートーヴェンの死後行われた弦楽四重奏曲第14番の初演時に居合わせた
シューベルトは感極まって「この曲の後で作曲家は何が書けようか?」
と口走ったとされています。
弦楽四重奏曲第14番はとても精神的に深い曲である一方、
ベートーヴェンの人間臭さを感じさせるエピソードが残っています。
ベートーヴェンは第14番を、甥のカールを軍士官に採用するよう取り計らった
シュトゥッターハイム男爵に献呈しています。
実は本来すでにほかの友人に献呈されていたにもかかわらず、
ベートーヴェンはこの世を去る2週間前に、
「自らの死後、誰が彼の面倒をみるのか」と心配し、ある種溺愛していた
甥のカールのためにシュトゥッターハイム男爵へとこの曲を献呈することにしたのです。
甥の就職のために自分の会心の作の献呈先すら変えてしまうとは、
彼の人間らしさが如実に現れている気がします。
第16番は死の3ヶ月前に完成された弦楽四重奏曲。
(厳密に言えば、第13番の大フーガに変わる終楽章がこの後に作曲されていますが、
まとまった1曲としては第16番が最後。)
謎に満ちた音楽で、断片的な旋律が、一見脈絡なく即興的にめまぐるしく変化したり、
本当にこれが死を目前にした人間の書いたものなのだろうか、
と疑問符が浮かぶほど躍動感に溢れたスケルツォが現れたり。
特に第4楽章は不可思議。
「ようやくついた決心」という標題のついた序奏に始まるのですが、
この序奏の重々しいモチーフは「Muss es sein?(そうでなければならないか?)」
と付記されており、この問いに対する快活な第1主題は
「Es muss sein! (そうでなくては!)」と力強く応答します。
この問答が意味することが何か、というのはずっと議論の的になっていますが、
単に「借金を返すべきか?」「返さねば?」といった他愛も無い日常のメモ書き
という説あり、いやいや哲学的な命題を意味しているのだという説ありで、
様々な憶測を呼んでいて面白いです。
弦楽四重奏曲 第13番 変ロ長調 作品130 第6楽章フィナーレ:アレグロ
は、第13番のフィナーレはベートーヴェン自身によって「大フーガ」に代わり
差し替えられたフィナーレですが、これだけを演奏するとアンコールのよう。
交代して演奏。これクァルテットを招聘するホールスタッフには結構重要な情報。
なぜなら演奏者は椅子や譜面台の高さを自分用に合わせているので、
ステージマネーシャーは曲ごとに椅子や譜面台を入れ替えないといけないから。
デンマーク弦楽四重奏にいたっては椅子の種類も好みが全員バラバラらしく、
全員違う椅子を使ってます。
ピアノ椅子を使う人からオーケストラ椅子を使う人、
客席用の椅子と思われるピンクの座面の椅子を使うヴァイオリニストまで(笑)
昔とある弦楽四重奏団の来日時に、ツアー中に別のホールで
第1・第2ヴァイオリン奏者が入れ替わることを知らなかったので転換に失敗した
という情報をあらかじめ入手していたから、椅子の転換はバッチリと思っていたら
当日演奏された曲が予定されていた曲と違った、
なんて予期せぬ事態が発生したことがあったっけ…
リハーサルでは全部演奏しないことも多いから転換にしても演奏曲目にしても
演奏家とホールスタッフとのコミュニケーションは大事です。
さて、デンマーク弦楽四重奏団の演奏は、結構ミスは多かったものの、
音色が個性的にもかかわらず4人の奏者の中でアンサンブルとしての
音色の統一感があってよかったです。
アレックス・ロスの過去のレビューには、デンマーク弦楽四重奏団は、
「手に負えない激しいエネルギーrampaging energy」を備えたクァルテット
と書いてあったので結構激しい演奏を予想していました。
たしかにとても推進力のありエネルギッシュな音楽だったけど、
彼らの演奏するベートーヴェンは、音楽の流れが、
絵付け職人が絵筆でなめらかに線を描いていくように
どこまでも引き延ばされていく感じ。
ノン・ヴィブラートの強烈な響きも刺々しさがなくて、
常に4つの楽器が美しい旋律を朗々と歌っていきます。
そしてその歌の響きが美しくブレンドするようにというのを
とても注意深く意識しているように聴こえました。
ベートーヴェンの後期の弦楽四重奏は、
その美しい響きをとことん強調して演奏するクァルテットもいれば、
その心理的な激しさを表現するために攻撃的な演奏をするクァルテットもいるけど、
デンマーク弦楽四重奏団の演奏は、思考を重ねた結果、
余計なものを排除したシンプルさを追求しているような気がしました。
でもそのシンプルさの中に、空気感が存在したり光が差し込む余裕があって、
音楽の流れがとても明るくて綺麗。
クライマックスも鳥が舞い上がったかと思うと急速に滑空するような
線のとても美しい流れ。
ルックスもいいし日本人は北欧音楽好きだから、
デンマーク民謡の弦楽四重奏アレンジを入れたプログラムは日本でも受けそうですね。
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