2018年4月27日金曜日

【サンフランシスコで室内楽】ヴァン・カイック弦楽四重奏団


♪--------------------♪--------------------♪
こんにちは、MUCHOJIです。
初めて当ブログをご訪問の方は、
はじめに」をお読みください。
-----------♪------------------♪-------------

2018年4月15日
ヴァン・カイック弦楽四重奏団
@サンフランシスコ州立大学
McKenna Theater, San Francisco State University


ブログを大変ご無沙汰して
しまいました。
その間に、
ニューヨークからロサンゼルスへ、
さらにサンフランシスコに
引っ越していました。 

ニューヨークでもロサンゼルスでも
まだ書ききれていない印象深いコンサートが
たくさんあるのですが、
今日はサンフランシスコのコンサートを
紹介したいと思います。



週末にサンフランシスコ州立大学の室内楽ホールで、
弦楽四重奏を聴いてきました。


当日の演奏は、フランスの弦楽四重奏団
ヴァン・カイック弦楽四重奏団。

2015年に
ウィグモアホール国際弦楽四重奏コンクールで優勝。
目覚ましい活躍を見せる弦楽四重奏団のひとつ。
サンフランシスコでの今回の演奏は、
彼らにとって西海岸初の演奏会です。






曲目は、

メンデルスゾーン:弦楽四重奏曲 第4番
 ホ短調 作品44-2
西村 朗:弦楽四重奏曲 第2番「光の波」
ドビュッシー:弦楽四重奏曲 ト長調 作品10 



ヴァン・カイックQの演奏は、
2014年の大阪国際室内楽コンクールで
聴いたことがあります。
チェロはその後新しいメンバーに交代したようです。
4年越しの再会にワクワクです。

2014年のコンクールの際は、
西村先生の同作品が課題曲に含まれていました。
本選では同じ曲を1日に6回くらい聴いた気がします。
朝から晩まで若手弦楽四重奏団たちの真剣勝負に
聴き入る…とても贅沢な時間でした。

音の振動がしびれのように伝わる冒頭を聴いた瞬間、
コンクールのときのものすごい緊張感が鮮やかに
蘇ってきました。





現代曲が苦手な方には、
現代曲を1日に何回も聴くというのは
苦行のように聞こえるかもしれませんが、
現代曲すべてが聴きにくいわけではありません。

まず、西村先生のこの作品は、
海外で受けいれられやすい特徴、
キャッチーな要素を多く備えていると思います。

難易度の高いあらゆる技術が
散りばめられているので、
コンクールの課題曲にもふさわしく、
かつ、聴き手もその独特の世界に
引き込まれる曲です。 

箏や三味線を彷彿とさせる和の音色や、
時代劇のワンシーンかと思うような効果音などが、
たくさん含まれていて、
想像力を掻き立てられる作品です。



こうした作品はCDやストリーミングで
聴くのではなく、
会場で見てこそ
楽しめる曲だと思います。

というのは、パートの受け渡しや、
個々のパートがそろって全体をつくる過程が
目に見てわかるためです。



特にそれがよくわかるのが、
この曲に使われている 「ホケット」という奏法。 
バリ島のケチャにヒントを得たそうです。

「ホケット」というのは、
ガムランに見られるように、
複数の演奏者がお互いに他の奏者を補うような形で
ひとつまたは複数の、リズムやメロディーラインを
編み出す奏法です。

この作品では、隅々まで計算された音楽の中に、
ときどき武満 徹やバルトークを
思い起こさせるフレーズも
ひょっこり顔をのぞかせます。


ヴァン・カイックQの演奏は、
落ち着いた余裕があって、
当然、4年前の演奏とは違うものでした。 

コンクールの手に汗握る雰囲気も好きでしたが、
同じ弦楽四重奏団による、
好きな音楽をお客様とシェアしたい、
という今日の雰囲気もとても心地よかったです。



同じアーティストさんの演奏を
何度も聴く機会は
意外に思いがけないところで
やってくることがあります。
なつかしい思い出とともに蘇る演奏。
聴き比べの醍醐味だと思います。

会場のお客様は、パリを拠点に活躍する
弦楽四重奏団による
ドビュッシーの弦楽四重奏の演奏が
ひときわ気にいったようです。
こじんまりとした、
あたたかい雰囲気の会場でした。
 




サンフランシスコ州立大学の
このコンサートシリーズは、
モリソン室内楽センターが主催してくださるおかげで
演奏会はすべて無料で提供されています。

過去のシリーズを見てみると、
過去にこのブログでご紹介させていただいた
ホルショフスキ・トリオも。
毎回演奏会とマスタークラスがセットで
開催されています。

日本ではこうした弦楽四重奏による
マスタークラス&演奏会は
まだまだ少ないですが
アメリカでは、弦楽四重奏団が
各地の大学に呼ばれたり
レジデントを務めることで
後進の指導や
クラシック音楽の普及に
大きく貢献しています。

弦楽四重奏団の
収入源のひとつであり、
さらにローカル・コミュニティも
その恩恵に預かっています。

サンフランシスコ州立大学は
市内の端の方にあるので
ダウンタウンと違って駐車スペースを
比較的見つけやすく助かります。
(駐車スペースの確保はSFの悩みの種)


近くで室内楽が定期的に
演奏されている場所を
早速発見できて、
サンフランシスコ音楽ライフは
幸先が良いかもしれません :)



--------------------- 
2018年4月15日 
@ San Francisco State University, Creative Arts Building, McKenna Theatre 
ヴァン・カイック弦楽四重奏団 
The Van Kuijk String Quartet 

メンデルスゾーン:弦楽四重奏曲 第4番 ホ短調 作品44-2 
西村 朗:弦楽四重奏曲 第2番「光の波」 
ドビュッシー:弦楽四重奏曲 ト長調 作品10



● Link

2017年5月30日火曜日

室内楽の傑作 ブラームスとドヴォルザークのピアノ五重奏曲


♪--------------------♪--------------------♪--------------------
こんにちは、MUCHOJIです。
初めて当ブログをご訪問の方は、「はじめに」をお読みください。
-----------♪------------------♪--------------------♪-----------

2017年5月14日

室内楽の傑作
ブラームスとドヴォルザークのピアノ五重奏曲
@コシチュシコ・ファンデーション 
The Kosciuszko Foundation 


久しぶりにコシチュシコ・ファンデーションで
リサイタルを聴きました。

East 65th Streetにあるコシチュシュコ・ファンデーションは、
ポーランド・リトアニア共和国の将軍にして政治家、
アメリカ合衆国の軍人で、
1794年の蜂起の指導者として
ポーランドとリトアニアでは国民的英雄だったという、
タデウシュ・コシチュシュコの名前を冠した協会。 


いかにも19世紀的なサロン風のホールで、
壁には主にポーランドの作家たちによる絵画が
ところ狭しと並び 美術館かギャラリーのようです。


写真は弦楽四重奏の公演時のもの。

本日はブラームスとドヴォルザークの
ピアノ五重奏の傑作2曲。
ニューヨークの若手演奏家たちによる演奏です。 

演奏者は若手とはいっても、プログラムは、
ブラームスのピアノ五重奏曲 作品34、
ドヴォルザークのピアノ五重奏曲 作品81と、
どちらも途方もない大作。

それをなんと無料で聴けるのです。



前半はブラームスのピアノ五重奏曲 作品34。

29歳のときに弦楽五重奏曲として構想したものの、
友人のヴァイオリニスト ヨーゼフ・ヨアヒムの
「男性的な力と活気に満ちているが・・・
しかし演奏は難しく、 弦楽五重奏では響きが不明瞭になってしまう」
という意見を受けて、2台のピアノソナタに改作。 

しかし、それを聴いたクララ・シューマンから今度は、
「作品の内容は素晴らしいけれども、
ピアノだけでは表現しきれない」
と言われてしまいます。

最終的に弦楽器とピアノの両方の良さを持つ
ピアノ五重奏として完成した
というエピソードを持っています。

ピアノ五重奏として初演されたのは、
構想から6年。 

それにしても、
どういう楽器で演奏するかが決まらないままに
音楽の構想だけがブラームスの頭に存在していた、
と考えるととても面白いです。



後半は、ドヴォルザークのピアノ五重奏曲 作品81。
第2楽章には「ドゥムカ」、
第3楽章には「フリアント」の名称がつけられていて、
どちらもスラヴ・ウクライナの民族舞曲に由来。

民族色溢れる曲を聴くと、
いつもドヴォルザークの
育った環境が思い浮かびます。

肉屋兼宿屋の息子に生まれ、
幼い頃から音楽好きの家族と
各地から訪れる旅人たちが歌う民謡に
囲まれて育ったドヴォルザーク。

室内楽にそうした民謡が入るのも、
室内楽にひときわ彼らしさが溢れているのも
そうした幼い頃の環境によるのでは、
と思わずにはいられません。

有名な第2楽章はこの作品の白眉といえるでしょう。
メランコリックな部分と情熱的な部分の交錯、
静と動の対比が秀逸。

ただしドヴォルザークは
本来の民族舞曲のドゥムカの特徴を
正確に用いているわけではなく、
むしろチェコ語で「瞑想」を意味する
ドゥムカを念頭に置いていたと言われています。



本日の演奏は、
知り合いのポーランド人ピアニスト
Malgorzata Goroszewskaさんと
彼女の演奏仲間によるもの。

ポーランド語の発音が難しいので
ガーシャと呼ばれていますが、
彼女はルノワールとかミュシャの絵から
飛び出してきたようなスラブ系色白美人。 
ショパンを彷彿とさせる 憂いを帯びた表情で
ピアノを弾く様子は絵のようです。

19世紀のサロンはこんな感じだったのかな
と親密な雰囲気を楽しみながら聴きました。
終演後は音楽でお腹いっぱい。



いろんなところで幾度となく書いていますが、
若い人の真剣な演奏を聴くのは大好きです。

ひたむきに音楽に向かう姿勢に惹かれるのはもちろん...
将来大きくなった彼らの演奏を聴いて、
「ああ、昔、あの人の若い頃の演奏を聴いたよ。」
と振り返る楽しみがやってくる...
そうして昔を振り返って聴くのも
音楽の楽しみ方のひとつだと思うからです。


それにしても、若手の演奏とはいえ、
こんな大作を無料で聴けるようなヴェニュが
方々に存在するニューヨークは
本当に恐ろしいところです。



---------------------
2017年5月14日
室内楽の傑作

@ The Kosciuszko Foundation

Malgorzata Goroszewska, Piano 
Sheng-Ching Hsu, Violin 
Patrick Yim, Violin 
Mujan Hosseinzadeh, Viola 
Benjamin Larsen, Cello


2017年5月18日木曜日

【日本の美に思わず涙ほろり】ソプラノ服部愛生さんによる“雅”な和の世界


♪--------------------♪--------------------♪--------------------
こんにちは、MUCHOJIです。
初めて当ブログをご訪問の方は、「はじめに」をお読みください。
-----------♪------------------♪--------------------♪-----------

ソプラノ服部愛生リサイタル “雅 Miyabi” with ゲストアーティスト 

今年になってからご縁がありお会いしたアーティストさんの
リサイタルのお手伝いで、
ニューヨーク郊外のスカールスデールまでお供しました。

新緑が美しい閑静な高級住宅街にある
Greenville Community Churchで行われた
「雅 Miyabi」をテーマにしたリサイタル。

当日は雨模様でしたが、
美しいお庭のしっとり濡れた木々の葉や
ハナミズキの花は雰囲気たっぷり。

晴れの日のお庭の様子

リサイタルでは、ソプラノ服部愛生さんが、
ゲストアーティストのテノールSean Fallenさん、
ピアノ岩尾麻梨菜さん、
箏 木村伶香能さんとともに、
春の優雅な雰囲気に満ちた音楽を奏でました。


前半は百人一首をテーマにした作品を、
ピアノと箏とのアンサンブルで。

百人一首をテーマにした曲が聴かれる機会は多くありませんが、
当日は、信時潔、山田耕筰、貴志康一などの
珍しい作品を聴くことができました。




プログラム解説によれば、
山田耕筰(1887-1965)の『幽韻』は、
小倉百人一首からの女性の歌のみ5首選んで作曲された歌曲集。

この作品は山田耕筰のニューヨーク滞在中の危機をきっかけに
作られたそう。

1919年、カーネギーホールのリサイタルにおいて
スポンサーからの入金が滞りあわや中止か、
というところで資金援助を申し出てくれた
富豪夫人へのお礼に書かれたものです。

スクリャービンやドビュッシーを彷彿とさせる、
色彩豊かで調性の不安定な不思議な響きの中に、
箏曲や吟唱などの日本的な要素が挟まれて、
短いひとつひとつの曲の中に凝縮された美が
宝箱のように閉じ込められている作品でした。



信時潔(1887-1965)の歌曲集『小倉百人一首』は
『幽韻』と比べると、ずっと親しみやすい雰囲気。

淡く憂いを帯びた色調の音色に包まれて、
アメリカにいる日本人の聴き手にとっては
日本への郷愁の念を感じずにはいられませんでした。



貴志康一(1909-1931)による
百人一首からとられた2曲は、
緊張感のある、かつダイナミックな曲。

貴志は僅か28歳で夭折したとのこと。
春になると桜が一斉に見事な花を咲かせ、
瞬く間に散り去るように、
僅か数分の曲の中で一挙にあらゆるエネルギーを
放出させたような感があります。

彼の人生もそのようなものだったのかもしれません。 



服部愛生さんのソプラノは、
この教会の素晴らしい音響の効果もあるのでしょう、
透き通った声が 高く高く登り聴き手の上に降り注いで
ものすごい臨場感でした。


木村伶香能さんの心のこもった箏の音色とともに
歌われた百人一首は、出色。
日本人にしかなし得ない芸術に、
特にアメリカ人のお客様たちは
食い入るように聴き惚れていました。


また、ほぼ全編でピアノ伴奏を務められた
岩尾麻梨菜さんは、若手とは思えない
ベテランのような落ち着きと臨機応変な対応が印象的でした。
優しく丁寧に歌い手に寄り添うピアノが心地よかったです。



後半はオペラの有名アリアや歌曲によるプログラム。
春から初夏の花々がたくさん登場する
優雅な曲に包まれる「雅」な世界。



『蝶々夫人』のデュエットの最後では、
ご主人でテノールのSeanさんが
軽々と服部さんを担いでお姫様抱っこで退場。

ご夫婦で交わされる愛のデュエットは
親密でいて切なさに満ちており、思わず涙ほろり。



茶目っ気溢れるご本人が
「みんな感動して泣いちゃうよ」
とおっしゃる通り、服部愛生さんの声は、
しっとりと独特の緊張感のある歌声が
美しいソプラノでした。



さて、このリサイタルは
様々な点で和の心、日本のおもてなしの心に
溢れていたように感じます。


百人一首をテーマにした曲や
春の風情を感じさせるプログラムだけではありません。

たとえば、ドレスの上から振袖と帯を特別に着付けた衣装。
このような着付けの仕方は初めて見ましたが、
和と洋の組み合わせが目にも鮮やかで白い教会に映えました。



また、ロビーには和の雰囲気を感じさせる
会場装花や書があしらわれ、
百人一首や貝合わせ、
茶道のお釜や柄杓などのしつらえで
和の空間が作られていました。



さらに休憩時には「宝石のよう」と評される
ニューヨークで人気の和菓子店「もち凛」さんの桜餅を
お抹茶とともにお客様にお楽しみ頂く趣向。




音楽以外の要素とのコラボレーション企画は
様々な場所で行われていますし、
私も幾度となくそうした企画に携わってきましたが、
いつもバランスの難しさを感じます。

おもてなしというより、集客のために
コラボレーションに力を入れるあまり
メインの音楽がかすれていることもしばしば。

しかし、服部さんのリサイタルでは、
音楽はもちろん、すべてを「雅」な世界でアレンジし
お楽しみ頂こうという服部さんのおもてなしの心が
至るところに感じられ、
お客様もそれを心から楽しまれているようでした。

雨の日であっても、ニューヨークシティから離れていても
お客様が彼女の歌を聴きに訪れるわけです。

彼女の人間的な魅力・アーティストとしての魅力に
共感する方々によって構成されたサポートチームも
素晴らしかったです。


華道、書道、茶道など和の芸術の多くには
「道」という字が充てられますが、
私はいつもこの「道」の意味には、
形や技を重んじるのみならず、
誠心誠意、心をこめて物事を行う意味が含まれている
と思っています。

音楽の「道」を極める服部さんが、
心のこもった歌声で伝える日本の美。
彼女のサポートチームのプロフェッショナル
(メイク、ヘア、ネイル、着付け、会場装花、書、和菓子、茶など)の美。
マネジメントやお客様への気配りもさりげなくきちんと。

「道」を極めようとする様々な分野の方々が
集まって作られたリサイタルで、
現代の日本人が失いかけている
和の心や思いやりの心を再認識できた気がします。

このような機会に参加させて頂けたことに感謝。






※紹介させて頂いたお写真は服部さんの許可を得て、
ご本人のFacebookよりお借りしました。


---------------------
2017年5月13日
ソプラノ服部愛生リサイタル "雅 Miyabi" with ゲストアーティスト
@ Greenville Community Church

Manami Hattori (Soprano)
Sean Fallen (Tenor)
Marina Iwao (Piano)
Yoko Reikano Kimura (Koto)

信時潔:『小倉百人一首』より
山田耕筰:『幽韻』より
貴志康一:八重桜、天の原
シューマン:『詩人の恋』より"素晴らしく美しい五月"
メンデルスゾーン:歌の翼に
プッチーニ:『蝶々夫人』より "可愛がってくださいね"  ほか


● Link

2017年2月15日水曜日

【美しすぎて涙が止まらない... 】サヴァール&エスペリオンXXIによるヴェネツィアからの音楽の旅


♪--------------------♪--------------------♪--------------------
こんにちは、MUCHOJIです。
初めて当ブログをご訪問の方は、「はじめに」をお読みください。
-----------♪------------------♪--------------------♪-----------


胸の奥から言いようのない感情が湧き出てきて、涙が止まらなくなる… 


ジョルジュ・サヴァールとエスペリオンXXIが演奏する、ジョン・ダウランド作曲:涙のパヴァーヌ(1604)を聴いて、そのあまりの美しさに、ぼろぼろ涙が溢れて舞台が霞んで大変なことになってしまいました。 

2月12日に開催された、古楽奏者の第一人者、ジョルディ・サヴァールと、彼のグループ、エスペリオンXXIのカーネギーホールの公演。 


美しい空間が心地よい、古楽にぴったりの大きさのZankel Hallで、忘れ去られたいにしえの音楽に耳を傾ける。贅沢なひととき。 




ヴェネツィアで発展した音楽が、ヨーロッパの各地に ヴェネツィアの音楽がヨーロッパへと与えた影響を100年にわたって俯瞰する素晴らしいプログラムでした。 

ヴェネツィアから始まってイタリア各地、イングランド、フランスの宮廷、フランスの地方、ドイツ、そして最後にサヴァールの出身であるイベリア半島までを巡る音楽の旅。 

クラシック音楽は真面目でハイソな音楽、と思っていらっしゃる方へ。

ルネサンスの音楽を聴いたら、なんて、自由で、おおらかで、洒落た音楽なんだろう、と驚かれるのではないでしょうか。

絶妙な掛け合いと間の取り方でコミカルにパーカッションが活躍する曲。
ギターがチャーミングな音色を奏でる曲。
ヴィオールが叙情的なロマンスを歌う曲…

口琴で笑いをとるアンコールまで、計算され尽くした完璧なプログラム。




さらに、コンサートの最後のサヴァールの挨拶が見事すぎて、再び涙。

要約すると、 

「今日、演奏した音楽はヴェネツィアから派生して、ヨーロッパの各地に伝播した音楽です。ヴェネツィアの音楽は音楽家たちが国を越えて各地に広がっていくことで、ヨーロッパ各地の音楽に影響を与えて、素晴らしい音楽を生み出していきました。現代でも、そして今日の演奏家たちも、様々な国から来ています。音楽にとって移住は問題ではないのです(Immigration is not a problem )。 」



最後のフレーズ  “Immigration is not a problem.”



D.トランプ反対派の多いニューヨークでこんなことをおっしゃるものだから…
会場が賛同の歓声に湧き、地響きのように聴こえました。 

悦びをもたらすだけが音楽ではない。音楽だからできる人類への貢献もあるはず。
と語るサヴァールが目指す、音楽を通した人類への貢献は可能に違いないと確信させられるような見事なスピーチでした。




最後に蛇足ですが、私がいつもしている古楽のコンサートの開演前の楽しみ方を紹介します。

私はだいたい開演の20分くらい前に到着するようにしています。その理由は、


【 楽器を見る】
古楽の楽器は木や動物の皮、内臓、毛などでできたものが多いので、急激な温度や湿度の変化に敏感です。
そのため、コンサートが始まる前から、舞台上に楽器が置いてあることが多いです。
聴き手にとってはじっくり楽器を見るチャンス。
ぜひコンサート前に舞台の近くで観察してみてください。
現代の楽器と異なる点がさまざま。
ヴィオラ・ダ・ガンバのネックの先に艶やかな女性の顔の彫り物があったり、側面に細かい幾何学紋様や植物の装飾があったり、ドラムの皮に紋様が描かれていたり…
一点一点装飾などが異なる世界に一つしかない楽器の数々を見比べてみてください。
もちろん、現代と全く異なる形の、弓の形にも注目。 


【使っている道具を見る】
楽器の近くに置いてある小物も見てみると楽しめます。
松やにを入れた小箱にも素敵な装飾があったり、小さな楽器(口琴など)を入れる楽器ケースにも、演奏家の細部に至るまでのこだわりがみられます。




バッハやモーツァルトといった、音楽室の壁にかかっている肖像画の作曲家たちよりも数百年昔の音楽は、学校教育では習いませんし、知られていないけれども魅力的な音楽に溢れています。

ルネサンスの音楽を聴くとき、いつも時間の流れる感覚が現代と異なる気がします。
というのも、やさしく語りかける音楽に夢見心地になって、時間がゆっくり流れているような錯覚にとらわれるからです。

ぜひ食わず嫌いにならずに、ゆったりと流れる心地よい時間を体験して頂ければ幸いです。

中世・ルネサンスの音楽は、私のクラシック音楽講座(不定期開催)の第1回、でも詳しく紹介していますので、もっと詳しく学んでみたい、という方はメッセージにてお問い合わせください。次回の開催日をご連絡いたします。


---------------------
2017年2月12日
ジョルディ・サヴァール& エスペリオンXXI
@Carnegie Hall, Zankel Hall


Jordi Savall, Director and Treble Viol
Philippe Pierlot, Alto and Bass Viols
Imke David, Tenor Viol
Lorenz Dufschmidt, Bass Viol
Xavier Diaz-Latorre, Theorbo and Guitar
David Mayoral, Percussion



● Link


【知る人ぞ知る!?】 室内楽マニアが集うコンサート・ヴェニュー発見!


♪--------------------♪--------------------♪--------------------
こんにちは、MUCHOJIです。
初めて当ブログをご訪問の方は、「はじめに」をお読みください。
-----------♪------------------♪--------------------♪-----------


知る人ぞ知る!? 新たなコンサート・ヴェニュー発見! 

夜な夜な複数の会場でクラシック音楽、オペラ、演劇、バレエなどが開催されているリンカーンセンター。 

じつはそのちょうど裏側にあたる場所に、格安で上質の室内楽が聴けるヴェニューがあることを発見しました!




そこはリンカーンセンターの裏側にある韓国系の教会。
Good Shepherd Presbyterian Church 





ジュピター・シンフォニー・チェンバー・プレイヤーズという名前で、アメリカ国内だけでなく、世界各地から一流の演奏家が集い、室内楽を演奏。

演奏メンバーは毎回異なります。
月に2〜3回コンサートが開催されていて、公演はすべて同日2回公演。
午後2時開演の部と午後7:30開演の部があります。 

メトロポリタン・オペラやニューヨークシティバレエのあるリンカーンセンターの華々しさに対して、それほど知られていないようですが、マニアックな室内楽ファンが通い詰めているコンサートシリーズです。

教えてくださったのは昔ニューヨークに住んでいた頃の知人ですが、送られてきたリンクをクリックして最初に目に飛び込んできた演奏家の名前は、日本のコンサートホールで企画制作として働いていたときに何度も来演してくださっていたヴァイオリニスト、チャン・ユジンさん。

彼女の先生のミリアム・フリード先生、そして他にも若手で優れた演奏家たちの名前がずらり。

from Yoo Jin Jang Official website

プログラムは、

 J.S.バッハ:インヴェンションより抜粋(2つのヴァイオリンのための)
モシュレス:幻想曲、変奏曲とフィナーレ Op.46
ファニー・メンデルスゾーン:弦楽四重奏曲 変ホ長調
ベートーヴェン:ピアノ三重奏曲 第6番 変ホ長調 O.70-2 





注目は、なかなか生演奏を聴けないファニー・メンデルスゾーンの弦楽四重奏曲。

450曲以上の作品を書いたと言われているファニー・メンデルスゾーン。
フェリックス・メンデルスゾーンの姉として生まれ、優れた音楽的才能を発揮します。

当時女性が作曲家・演奏家として活躍するのは簡単ではありませんでした。
実際ファニーの父も彼女が音楽家として活躍することに反対。

幸い、画家で女性の社会的な活躍に理解ある夫に恵まれたファニーは、家庭を切り盛りしたり、息子を育てたり、夫のビジネス業務を整理たり、日記をつけたりしながら、200名もの客が訪れるコンサートを企画・運営し、さらに作曲をしていました。

自分の父が1835年に亡くなると、日記をつけることをやめ、それ以降は彼女の作曲した作品が日記の代わりとなりました。 




メンデルスゾーン姉弟といえば、兄弟愛を超えているのではと疑われるほどの強い絆で結ばれていたことでも有名。

たとえば、1829年に姉のファニーは、弟のフェリックスに次のような手紙を送っています。


私はあなたの肖像画を前にしながら、愛しいあなたの名前を何度も呼び、私の傍にいるかのようにあなたのことを思っています。私は泣いています。私はこれからの生涯、毎朝、どの一瞬でも、心の底からあなたのことを愛します。そうしてもヘンゼル(夫)に悪いとは思いません。 

(ファニーからフェリックスへの手紙 1829年10月2日) 



じつは面白いことに、この日には表のリンカーンセンター Allice Tally Hallでは弟のフェリックス・メンデルスゾーンの弦楽四重奏曲第2番が演奏されていて、一方、まったく同じ時刻に教会では姉のファニー・メンデルスゾーンの弦楽四重奏曲が演奏されていました。

フェリックス・メンデルスゾーンの弦楽四重奏曲第2番といえば、フェリックスが18歳のときに書いた、姉へのラブレターの意味も込められた作品。

さすがは恋人同士より仲がいいと言われていた姉弟。
お互いが共鳴しあっているみたいですね。




演奏は見事で、特にチャン・ユジンさんと彼女の先生、ミリアム・フリード先生の音色の表現は信じられないほど幅広く、色とりどりの音色のパレットを自在に操る様は、とても一挺のヴァイオリンで弾いているとは思えないほどでした。 

第3楽章Romanzeはとろけそうに叙情的で美しく、終楽章では、弟フェリック・メンデルスゾーンの最後の弦楽四重奏曲第6番にも通ずる激しさが...




チャン・ユジンさんは2016年、第6回仙台国際音楽コンクールで優勝しているので、日本にもファンが多いと思います。

ユジンさんの 魅力は、ふんわりした愛らしい見た目を裏切る、決してお客様に媚びない選曲と、マイナーな室内楽にも真摯に取り組む超本格派であること。 

おまけに性格もとっても良い❤

演奏後、She is superb! (彼女は最高!)とお客様が口々につぶやいていました。




少し前になりますが、ユジンさんの2015年の映像を紹介します。
ステージから舞台裏に戻ってきたときのユジンさんが見られる、ちょっとほっこりするビデオです。 張り詰めた空気が一瞬だけ緩む瞬間。





Good Shepherd Presbyterian Churchの会場の客席数は100〜120程度。
集客見込みによって多少変えているようです。

室内楽を聴くなら100席程度の会場が好みなのですが、ここも演奏家との距離が近く、 とても贅沢な気分になれます。

終演後には演奏家と話をして帰られるお客様も。



チケット価格も$10から$25まで。
ニューヨークは基本的にすべての物価が日本より高いですが、コンサートチケットだけは日本より安いです。

素晴らしいアーティストたちが世界中から集まって熾烈な競争が行われている ことと、パトロン&サポーターが多いからでしょう。

聴き手にとっては大変ありがたい街です。 

Jupiter Symphony Chamber Players

スケジュールを見てみると、ときどきびっくりするくらい有名なアーティストさんの名前も見られますし、マイナーな室内楽を聴ける貴重な機会が盛りだくさん。

今後も楽しみです。


---------------------
2017年2月6日
ジュピター・シンフォニー・チェンバー・プレイヤーズ
@Good Shepherd Presbyterian Church, NY 

Fanny’s Belrin Salon 

Roman Rabinovich piano 
Miriam Fried violin 
Yoo Jin Jang violin 
Dimitri Murrath viola 
Mihai Marica cello 
Vadim Lando clarinet  

J.S.バッハ:インヴェンションより抜粋(2台ヴァイオリン) 
モシュレス:幻想曲、変奏曲とフィナーレ Op.46 
ファニー・メンデルスゾーン:弦楽四重奏曲 変ホ長調 
ベートーヴェン:ピアノ三重奏曲 第6番 変ホ長調 O.70-2


● Link
● Related Posts


2017年1月24日火曜日

【1年先まで予約不可!?】 スタインウェイ ピアノ工場ツアー


♪--------------------♪--------------------♪--------------------
こんにちは、MUCHOJIです。
初めて当ブログをご訪問の方は、「はじめに」をお読みください。
-----------♪------------------♪--------------------♪-----------

スタインウェイ ファクトリーツアー

昨年の今頃、アストリアにあるスタインウェイピアノの工場見学に申し込もうとしたらその年の12月まですべて予約済み!という衝撃の競争率に驚愕したのですが、ウェイティングリストに登録しておいたら忘れた頃に連絡をいただき...

ようやく1年後に見学することができました!
でも条件は一人のみ... と。

なお、実は裏技もあって、スタインウェイのお店で、ピアノ教師としての登録をしておくと、この正規の方法で応募しなくても、別の時期にピアノの購買意欲のある生徒さんを連れて見学をすることができます。

ピアノ教師の方はぜひこの方法を!




スタインウェイ&サンズ社は、1853年にドイツから移住したヘンリー・エンゲルハート・スタインウェイによって、マンハッタンのヴァリック通りに創立されたピアノ会社。 

その後の30年間で、ヘンリーとその息子たち、C.F.セオドア、チャ―ルス、ヘンリー・ジュニア、ウィリアム、そしてアルバートが、近代ピアノ製造における基礎を築き上げます。

ハンブルクに工場があるので、よくドイツの会社と間違われますが、アメリカ生まれの会社です。

現在はクイーンズ、アストリアの地下鉄の終点Ditmars Blvd駅から徒歩20分。
クイーンズの北端に工場はあります。

周辺は完全に工場地帯。
でもその中でスタインウェイの工場は工場というよりは工房といった趣。 

サイズがこじんまりしているから、というよりも、楽器作りの工房がいずれもそうであるように、高度な専門技術を持ったごく少人数のマイスターたちが、それぞれ自分の特技を最大限に発揮しながら作っている、という雰囲気がそう感じさせるのだと思います。

働いている方々の表情を見るだけで、彼らがものすごいプライドと自信を持って楽器作りに専念していることが直ちにわかります。

工場内は撮影禁止なので、写真はChris Payneさんが撮影した美しい写真を下記のウェブサイトでお楽しみください。
Chris Payne: Steinway



Photo from: Chris Payne website


2時間半に渡って案内してくれたのは超ベテランのボブさん。
20年間に渡って工場ツアーのガイドを務め、ご案内したお客様は何千・何万とも。

19世紀のピアノについてなど、かなりマニアックな質問をしても即座に返事が返ってくる、ピアノマニアです。

セーフティーゴーグルを装着して、いざ工場へ!



現在は毎年2000台ほどがニューヨークの工場で、1000台ほどがハンブルク工場で製造されているそう。 

1台のピアノを作るためには12000ほどの部品が必要。しかも完成までに1年かかります。

気が遠くなるほどの部品と工程が必要ですが、製造は驚くほど少人数の技術者によってなされています。

工場の中央には1868年に建てられた最初の工場部分が今も残っていて、驚くべきことに今もピアノの修復工房として稼働しています。

スチームが動力になって暖房やスプリンクラーが稼働している19世紀の工場の隣には、人間の労力を極限まで減らすために最先端の機械が導入された21世紀の工場が増築されています。

廊下を抜けるだけで19世紀と21世紀を一気に渡っているよう。 





修復セクションは非常に大きく、 個性的で魅力的なピアノに溢れていました。
写真でお見せできないのが残念なほど。

最近のピアノを中古ピアノとして再び市場に出すために修復しているのだと思っていたのですが、19世紀の古いピアノがたくさん置いてあることに驚きました。

そこはまるでピアノの美術館。
鮮やかな絵画が描かれたピアノ、パルテルカラーのピアノ。人の手によって丁寧に掘られた細工を持つピアノ。どれもため息が出るほど美しいです。





どの工程も見ていて飽きない面白さがありましたが、圧倒的に印象深かったのは、グランドピアノのあの美しい曲線を描く、リムを作る過程。 

ピアノが描く滑らかなカーブ。今ではどのグランドピアノも持っていますが、あの曲線美は実はスタインウェイが最初に創ったそう。 

このリムを作る過程。特に薄い板を張り合わせた一枚の合板を、一気にあの曲線に仕上げてしまう工程は見とれてしまいます。

5人の技術者が薄い板に接着剤を塗って貼り合わせていきます。ピアノの大きさにより異なりますが、薄い板は15枚から19枚を張り合わせ、さらに糊付けされたリムをグランドピアノの形に成型します。




これは接着剤が乾くまでの20分以内に行わなければならない、という時間との勝負。見ている方がハラハラします。

カーブを描く部分は入念に接着剤をつけたり、成型部分では5人の阿吽の呼吸が必要だったり、と様々な部分で緊張が走ります。(基本的に技術者の方々は無言で作業なさっています。)

そのほか、一人の人間が1分でグランドピアノをひっくり返せる機械など、「おおっ」と驚くような機械もたくさんあり、良いものを見せていただきました。 

コンサートホールでのステマネ時代、日々ピアノを移動させる中で、台車に乗せてですらフルコンサートピアノを動かすのは一人では無理でした。それを簡単にひっくり返せる機械があるなんてびっくり。





ブリッジを彫っていく作業も息を飲むほど美しいです。


Photo from: Chris Payne website


おみやげにハンマーを頂きました。



アストリアのスタインウェイ ピアノ工場見学は毎週火曜日の9:30〜12:00。
事前予約が必要です。

人気が高いので、ご予約はくれぐれもお早めに。
ピアノの仕組みに興味のある 方、楽器作りに興味のある方はぜひ。





いつもクラシック音楽の楽しみ方を紹介していますが、こうした工場ツアーも、クラシック音楽が好きになるきっかけになるのではないでしょうか。




● Link



2017年1月16日月曜日

一年間の鑑賞をすべて記録したら... !?!? なことが...


♪--------------------♪--------------------♪--------------------
こんにちは、MUCHOJIです。
初めて当ブログをご訪問の方は、「はじめに」をお読みください。
-----------♪------------------♪--------------------♪-----------



一年間の鑑賞をすべて記録したら... !?!?






ニューヨークの新年はとても静かでした。
クラシック音楽をゆったり鑑賞するには最適の条件♪

遅ればせながら、新年明けましておめでとうございます。






新年の最初に行うことといえば…


ここ3年くらい続けている、1年間の鑑賞レビュー。




これは、クラシック音楽はもちろん、
ポップス、ジャズ、邦楽、民族音楽といったすべての音楽。

加えてミュージカル、お芝居、歌舞伎、お能といった舞台芸術まで、
1年間に鑑賞したぜーんぶの公演について、記載したレビューです。

条件は簡単で、たった2つだけ。
(ただし実行するのは意外に難しい…)





1. 一年間に鑑賞した公演を
(音楽, ミュージカル・演劇,歌舞伎・能,ダンス・バレエ,落語,映画etc.)
 すべて記入すること♪

2. 公演時間の半分以上を客席で鑑賞したもの
(もちろん起きて聴いていた・・・)に限ること♪






2016年鑑賞レビューの一部を紹介するとこんな感じ。



公演場所、公演名、ジャンル、出演者情報に加えて、
レビューも70文字以内で書きます。



この鑑賞レビューは、
もともとは素晴らしい運営方法で有名なホールさんの企画に
私が参加させていただいたことが始まり。

その年の1年間に個人的に鑑賞した公演すべてのレビューを、
ホールスタッフの視点から書かせていただきました。





そのあとホールさんの許可をいただいて、
自分が勤めていたホールのお客様を対象に、
1年間に聴いたコンサートのレビュー&感想を書きませんか?
という趣旨でレビューを応募。

結果、たくさんのお客様からレビューをいただき、
お客様とのよいコミュニケーションツールとなりました。






鑑賞したものは、自分の趣味で鑑賞したものから、
友人に誘われて、仕事で、偶然に、お付き合いで…
といった公演選択の内容に関わらず、
ぜーんぶを書くのが条件。

という点では、公開するのは若干恥ずかしいところもあります。

友人や知り合いの演奏家さんもいるので、文面にも気を遣います。


でも公開してしまいます。






下記リンクが私の2016年の鑑賞レビュー 一覧。
(クリックするとPDFファイルが開きます。)

 ★2016年鑑賞レビュー 






2016年はニューヨークに引っ越してきて1年目。

留学していたときの経験から、
ニューヨークの土地勘や聴くべきコンサートを見つける嗅覚、
というのは持っていると思っていますが、
それでも鑑賞対象を見つけるのは、
はじめは少しずつ手探りで。

新しいヴェニュやシリーズを開拓したり、
安く良い公演を鑑賞できる場所を発掘したりして、
お気に入りの場所を少しずつ増やしていきました。 




2016年は鑑賞数も43回と多くありませんが、
結果まとめてみると、
日本にいたときは違うジャンルも聴きに(観に)
行くようになったことが判明!

たとえば、日本にいたときは圧倒的に
室内楽・弦楽四重奏の鑑賞数が多かったのですが、
鑑賞数ゼロだったミュージカルを観に行くようになったとか…

日本にいたときには勤めていたホールの趣旨の影響もあり、
ほとんど聴かなかったジャズを、
渡米してから聴きに行くようになったりとか…

これには、とても魅力的なお人柄のジャズ作曲家さんに
ニューヨークで出会った! 
という経緯もあります。

このあたりの変化は、ミュージカルやジャズのメッカ
ニューヨークという土地柄もあるでしょう。





ついでにランキングもつけてみました!


ニューヨークでの自分がつけたランキングを見て気づいたこと...



公演の良し悪しだけでなく、
その会場の雰囲気をまるごと含めて
素晴らしかった!
と、いえるものが上位に。

とくに、ほかのどこでも体験できない、
ニューヨークらしい空間で鑑賞した特別な公演は、
この先何十年も自分の心の中に残り続けると思います。




世の中ストリーミングやYoutubeなど
さまざまなメディアで芸術を楽しめる時代になりましたが、
やはり生で体験する醍醐味というのは、
その場にいることによって、生み出される相乗効果。

演奏空間が素晴らしすぎて演奏家がハイになってしまって...
普段の200パーセントくらいの素晴らしい演奏をする...

というのを目の当たりにしたら、
観客だって興奮・感動するでしょう!



もちろんこれは超個人的なランキング&レビューであることは
ご了承ください。

友人の出演した公演などで、個人的にはとても素晴らしいと思ったけど、
理由があってランキングには入らなかった公演もあります。

そういう場合は、すでに個人的に、
いかに自分が公演を楽しませていただいたか、
素晴らしかったことをお伝えしています。



みなさんは昨年、どのようなコンサートを聴きましたか? 
楽しかった!感動した!コンサートのランキングと共に、
レビューや感想を書いてみませんか? 

書くために思い返せばそのコンサートの感動がよみがえってくる…
それもコンサートの楽しみの方の一つではないでしょうか。

書いてみるととてもワクワクし 、
何年か経ってから見直すとまた楽しい。
鑑賞レビュー、ぜひ今年、一緒にやってみませんか?




♪♪♪おまけ♪♪♪

実は、この鑑賞レビューの派生系で、
2014年と2015年はこれに加えて、
自分が勤めていたコンサートホールの表事情&裏事情
というのも密かに作成しました。

こちらは制作スタッフ・舞台スタッフだけが知っている
裏事情も山盛りあり(笑) ですが、
絶対に公開できない私だけの秘密のレビューです。






このように、鑑賞レビューの作り方・楽しみ方は人それぞれ。
ぜひご自分にあった方法で楽しんでみてください!




2016年10月12日水曜日

ドゥダメル指揮 シモン・ボリバル・オーケストラ・オブ・ベネズエラによる メシアン作曲「トゥーランガリラ交響曲」


♪--------------------♪--------------------♪--------------------
こんにちは、MUCHOJIです。
初めて当ブログをご訪問の方は、「はじめに」をお読みください。
-----------♪------------------♪--------------------♪-----------

シモン・ボリバル・オーケストラ・オブ・ベネズエラ
@カーネギーホール


カーネギーホールの今シーズン開幕公演の一つ、シモン・ボリバル・オーケストラ・オブ・ベネズエラを聴きにいきました。

指揮は飛ぶ鳥落とす勢いのグスターボ・ドゥダメル。35歳。

彼も含め、オーケストラの団員は「エル・システマ」の実践者たち。

南米ベネズエラの独創的な社会教育プログラム「エル・システマ」は、もともとは、主に貧しい地域の子どもたちにヴァイオリンなどオーケストラの管弦楽器を無償で与えて音楽を教えるために考案されました。

「エル・システマ」は音楽教育であると同時に、職業訓練でもあり、世界的に活躍する音楽家になった実践者も少なくありません。子どもたちの中にはストリートチルドレンもおり、そうした子どもたちを犯罪やドラッグの道から救うことにも役立ちました。

シモン・ボリバル・オーケストラ・オブ・ベネズエラは、「エル・システマ」の教育を受けた25歳以上の演奏家で編成されていたオーケストラ「シモン・ボリバル・ユース・オーケストラ・オブ・ベネズエラ」がもともとの団体。

団員の年齢が高くなったことから、「ユース」をとって現在の形に。
さらに、グスターボ・ドゥダメル音楽監督のもと、「エル・システマ」を実践した若い演奏家のうちトップ集団が一定期間だけ従事するオーケストラから、もっと永続的なオーケストラへと変わり、活躍しています。

今日のコンサートはいつもとちょっと客層が違い、ベネズエラ人や若い人もたくさん。

国家が危機的な状況にある最中、国の誇りであるオーケストラがニューヨークのカーネギーホールで演奏するのを見る。それがいかに彼らの愛国心を高揚させるか、想像に難くありません。


大編成 / たくさんの打楽器, ピアノやオンド・マルトノも。



演奏曲は、メシアン「トゥーランガリラ交響曲」1曲のみ。演奏時間75分。

この作品は、私の主観で表現すると、フランスの作曲家メシアンが書いたちょっとピンク色のエッチな音楽、とでもいいましょうか。 中世の伝説「トリスタンとイゾルデ」からインスピレーションを受けた、愛と死を主題とする交響曲です。

「トリスタンとイゾルデ」といえばリヒャルト・ヴァーグナーのオペラが有名ですが、メシアンもこの伝説に魅せられて、三部作を書いています。そのひとつが「トゥーランガリラ交響曲」。 

「トリスタンとイゾルデ」は オペラや交響曲などクラシック音楽の領域では、至高の芸術作品を生み出す題材として認められていますが、現代的にわかりやすく言うと、実は不倫と三角関係のお話。そういう意味でちょっとエッチな内容なのです。

この「トリスタンとイゾルデ」に基づく「トゥーランガリラ交響曲」のタイトル「トゥーランガリラ」は、サンスクリット語の“turanga”と“lîla”からの造語。
いろんな意味がありますが、おおよそ「愛の賛歌」という意味。

でも、聴いてみるとわかるのですが、宗教的なストイックさはなくて、むしろ 放恣な恋愛が高らかに語られる感じ。大胆に性が歌われ、思わず吹き出してしまうほど。 

メシアンは敬虔なカトリック教徒でしたが、寒い北ヨーロッパの厳格なカトリックからのイメージとは程遠い音楽に聴こえます。

フランス南部アヴィニョンに生まれたメシアンだからこそ、ラテン的な地中海的明るさを備えているのかもしれません。 


曲にはどこかで聴いたことのあるフレーズが至るところに現れ、パロディのようになっているところも笑いを誘います。

特にガーシュウィンの「パリのアメリカ人」にそっくりな第4楽章、ヴァーグナーの「トリスタンとイゾルデ」の前奏曲にそっくりな第6楽章は、オマージュなのかパロディなのかわからず、真面目に聴くべきか笑っていいのか、悩みます。

さらに「音の曼荼羅」と言われるように、ありとあらゆる音が画面いっぱいに並べられたような音楽です。しかも、わかりやすいリズムやメロディーを大胆に使うので俗っぽい響きもたくさん。正直、下品スレスレです。

インド、南アフリカ、中国、インドネシア… といったありとあらゆるカラフルなオリエンタルな響きにあふれていますが、交響曲という西洋の音楽構造に落とし込まれています。極彩色のオリエンタルな絵画や音楽が、石造りの西洋の巨大なミュージアムに収められているよう。

8人以上も打楽器奏者がいて、ピアノがあり、オンド・マルトノ(電子楽器)があり、ジュ・ド・タンブル(鍵盤式グロッケンシュピール)があり、チェレスタがあり… 総勢100人超の演奏者が奏でる音楽。過剰の極致もいいところ?

メシアンの愛弟子の一人、ピエール・ブーレーズは、師匠メシアンについて「彼は作曲(compose)したんじゃなくて、並べ立て(juxtapose)たんだ」と述べています。実際、ごたまぜ感満載の曲です。

現代の私たちが聴くと、あまりの仰々しさと華々しさが時代にそぐわない感じに聴こえますが、そもそもこの曲が書かれたのは、悲惨な戦争が終焉をむかえた頃の1946~48年。

死が身近にあり、陰鬱な空気に満ちた当時には、まさに、生命の息吹そのものを謳歌するようなこの音楽が必要だったのでしょう。

曲は10楽章構成。 

第1楽章 序章 Introduction
第2楽章 愛の歌1 Chant d'Amour 1
第3楽章 トゥーランガリラ1 Turangalîla 1
第4楽章 愛の歌2 Chant d'Amour 2
第5楽章 星たちの血の喜び Joie du Sang des Étoiles
第6楽章 愛のまどろみの庭 Jardin du Sommeil d'Amour
第7楽章 トゥーランガリラ2 Turangalîla 2
第8楽章 愛の敷衍 Développement d'Amour
第9楽章 トゥーランガリラ3 Turangalîla 3
第10楽章 終曲 Final


もともとは、4楽章構成が念頭に置かれていたそう。

でも、そこに「5. 星たちの血の喜び」が加わり、さらに3つの「愛の歌」と3つの「トゥーランガリラ」が主要な楽章を交互に挟む形になります。

4つの楽章+第5楽章「星たちの血の喜び」だけでもいいのでは、と思うのですが、メシアン若気のいたりなのか(40歳頃の作品)、あふれんばかりの創作意欲に掻き立てられてなのか、これでもかというくらい多種多様な要素が詰め込まれて、巨大なマンモス作品に仕上がっています。

3回登場する「トゥーランガリラ」の印象的なメロディーはもちろん、有名な第5楽章以外に、オンド・マルトノが大活躍する第10楽章も聴きどころ。

特に第10楽章は、シモン・ボリバル・オーケストラの得意とするダイナミックな演奏が炸裂。最後は強烈な音の波が観客席に押し寄せてきました。

音の波が見えるような迫力の演奏を聴くのは久しぶりです。

ただ、ユース・オーケストラでなくなったことは、同時にこのオーケストラの課題をも明確にしました。ユースであるからこそ許されていたことはたくさんありますが、世界レベルのオーケストラになるには、演奏レベル、演奏者としてのモラルなど課題は多そうです。

指揮者ドゥダメルはジャンプしたり、ダンスするように指揮したり… 指揮者を見ているというよりは、エンターテイナーを見ているようでした。



さて、本日もプチ予習講座を開演前に開催しました。

クラシック音楽をこれから聴こうかなと思っていらっしゃる方に、コンサートに行く前に簡単な予習講座を開催しています。当日演奏される 作品の解説や、その作品にまつわる作曲家のエピソードなどを20分〜30分程度お話いたします。

クラシック音楽は曲の背景や構造をちょっと知るだけで聴き方が変わり、楽しめるようになります。解説のあとには一緒にコンサートを楽しみましょう!

予習講座はコンサート会場のホワイエもしくは近くのカフェなどで開催していますが、コンサートの内容や参加者の方のご都合に応じて、場所や時間も調整可能です。

解説は無料ですので、興味のある方はぜひご参加ください。


---------------------

2016年10月8日 
シモン・ボリバル・オーケストラ・オブ・ベネズエラ
@カーネギーホール

メシアン:トゥーランガリラ交響曲

● Related Posts


2016年9月6日火曜日

ブルックリン橋のたもとに浮かぶコンサートホール Bargemusic

♪--------------------♪--------------------♪--------------------
こんにちは、MUCHOJIです。
初めて当ブログをご訪問の方は、「はじめに」をお読みください。
-----------♪------------------♪--------------------♪-----------

8月31日 Here and Now Labor Day Festival
@Bargemusic Limited

レイバーデイ・ウィークエンドに開催されている
現代音楽のフェスティバルに行きました。 

ブルックリン橋のたもとに浮かぶユニークで美しいコンサート会場、
バージミュージック。


停泊している船の中がコンサートホールになっています。


船の一番前に舞台があり、その先はガラス張りになっているので、
クラシック音楽を優雅に聴きながら、
その向こうにマンハッタンのスカイラインや夜景が楽しめる、
というかなりオシャレなスポット。 



まさにデートにぴったり!という場所ですが、
今日の催し物は現代音楽のフェスティバル。
マニアックな音楽好きの聴衆が集います。

休憩中は、船の外に出てみなさん夜景を楽しんだり、
ワインを楽しんだり。


せっかくなので、舞台の反対側にも行ってみました。 


音響もわりといいですし、照明もきちんと整っていて、
お客さんとしてはとても雰囲気よく楽しめる空間。

演奏家さんとにとっては、楽屋がないのはちょっと不便ですが、
船なので仕方ないですね。

さて、現代音楽フェスティバルはどうだったかというと、
いわゆる意味不明な“ゲンダイオンガク”は、ほどんとありません。
日本人がイメージしがちな、
不協和音と無調と無旋律の気持ち悪いオンパレード、
というものには最近はあまり出会わない気がします。

もちろん新規性は欠かせないので、
作曲技法に何かしら新しい試みは取り入れられていますが、
最近ニューヨークでは、ある程度聴きやすく、
いろんな方が楽しめる現代音楽に出会うことが多くなってきました。

今日は現代音楽の初演作品8点が一同に演奏されたのですが、
いずれも聴いて楽しい音楽でした。

8作品どれも個性的でしたが、
デュオ夢乃さんが演奏する、米国の代表的なオペラ作曲家、
ダロン・ハーゲンによる「カンタービレ」(『平家物語』より)
が特に印象的でした。

チェロと箏という珍しい組み合わせで、
平家物語の平徳子(建礼門院)の一生と
彼女の歌を音楽物語にしたもの。

第1楽章は、平徳子の出家前までの半生を描いたもの。
女性として子供を産み、子供が天皇になり、
しかし壇ノ浦の戦いで子を失い入水するまでの波乱万丈の半生。
時折、掛け声が挿入されるなど、陰影の濃い印象的な楽章。

第2楽章は、源氏によって海から引き上げられた平徳子が出家し、
現世から隔絶された寺で亡くなった天皇や一門の菩提を弔う
静かな生活を描いています。

第2楽章の美しいガヴァティーナは声なしで演奏される歌。
器楽だけで演奏されることで、俗世間の生々しさが取り払われたように、
荘厳な雰囲気に満ちていました 。
掛け声や歌が用いられる第1楽章と第3楽章とのコントラストが際立ちます。

第3楽章は徳子の残した歌に基づきます。

第1楽章の最後の平家の一門が入水するくだりと、
幻想的な第2楽章では、ゆらゆら揺れる船の上という場所と相まって、
いっそうその世界に惹きこまれます。


もうひとつ印象的だった作品は、
David Shohl作曲の"WTF Goldberg Canons" for two keybords Manuals
ピアノとシンセサイザーという2つの鍵盤楽器のための
ゴルトベルク変奏曲のマニュアル。
演奏者は、プログラムによれば、W.T.F.Bach... ん?

舞台にW.T.F.Bachを名乗る若者が現れて、
バッハのゴルトベルク変奏曲のアリアのモティーフに基づいた
パズルのように複雑な作品を演奏します。
ロックでジャズでクラシックな現代版ゴルトベルク変奏曲。

W.T.F.Bach? バッハの子孫?
と最初は思ってしまったのですが、
そこに登場したのは、いたずらっぽい目のひょろっとした痩せ型の青年。
なるほど彼は "What the f*ck Bach" を名乗っているわけ。

続けてW.T.F.Bachは自分のオーディオ作品"Dash Underscore Dash"を披露。
こちらはもはや純粋な音楽演奏ではないのですが、
2つの作品に共通するのは、いずれもJ.S.バッハの傑作、
ゴルトベルク変奏曲の最初のバスのモティーフを
多かれ少なかれ展開したものであること。
しかもとてもユニークで皮肉めいた現代的な方法で。

ゲンダイオンガクはムズカシイという先入観をお持ちの方が
多いと思いますが、ニューヨークではHere and Now Festivalのように
見て楽しい聴いて心地よい現代音楽に出会えることもたくさんあるので、
こうした機会に訪れていただけたらと思います。

バージミュージックでは、室内楽のコンサートをたくさん開催しており、
ニューヨークの音楽ファンの中でも人気のある場所です。 

音楽はそれが演奏される場の効果と相まって、
聴く者にいっそう強い感動を与えたり、印象付けるもの。 

ユニークで雰囲気たっぷりのコンサートホールで、
クラシック音楽のコンサートというのも良いのではないでしょうか。



---------------------

2016年8月31日 
 Here and Now Labor Day Weekend Festival
@Bargemusic Limited 




● Link


● Related Posts



2016年8月29日月曜日

カタコンベで現代音楽!メシアン作曲《アーメンの幻影》


♪--------------------♪--------------------♪--------------------
こんにちは、MUCHOJIです。
初めて当ブログをご訪問の方は、「はじめに」をお読みください。
-----------♪------------------♪--------------------♪-----------

カタコンベで現代音楽!

8月25日  Christina & Michelle Naughton
メシアン:2台のピアノのための作品《アーメンの幻影》  
@Crypt Chapel of The Church of the Intercession

「クラシックコンサート予習講座〜現代音楽の楽しみ方」に
お越しいただいた方、 ありがとうございました!

予習講座でメシアンとその作品の特徴について
30分ほどお勉強したあと、コンサート会場へ。

アッパーマンハッタン、West 155th Streetの高台の上の
広くて美しい墓地の傍にある Crypt Chapel of The Church of the Intercession



このコンサートシリーズ、ワインとチーズ、フルーツ、スナックなどを手に
おしゃべりを楽しんだ後で、コンサートを聴くスタイル。
ワインとチーズも教会の中庭の回廊でいただきます。
暗くてすでに雰囲気たっぷり。 



ニューヨークでも日本と同じようにクラシック音楽のコンサートでは、
シニアのお客様が中心ですが、The Crypt Sessionsのシリーズは
お客さんのほとんどが、普段はSoHo, NoLItaで見かけるような
20〜30代のお洒落な若い方々。

演奏される曲目は、宗教曲であったり、現代曲であったり、と
決して聴きやすい音楽ではないのに、これだけ若いお客さんが集まるのは、
やはりこの場の特別感でしょうか。リピーターも多いです。 

さて、ずらりと並ぶお墓の脇を通って、
いよいよ地下のカタコンベに移動します。

今日のピアノの配置はこんな感じ。



天井を外したピアノが、両脇の客席に挟まれるように中央に。
地下であることに加え、当日は夕方に夕立がありました。
湿気がすごくて調律師さんの苦労が忍ばれます… 
そもそもピアノを運び入れるのには地上からの急な階段しかない...!

プログラムノートも麻の紐で結ばれた巻き物になっていて、凝っています。 

本日の曲目は、メシアン作曲《アーメンの幻影》。
2台ピアノのための作品です。

作曲者のオリヴィエ・メシアンは、20世紀、フランスの作曲家。
フランス、アヴィニヨン生まれで、
父ピエールはシェイクスピアの全作品を仏訳した英語教師、
母セシル・ソーヴァージュは女流詩人と、芸術家気質の家に育ちます。

こどもの頃にクリスマスプレンゼントで、
ドビュッシーのオペラ《ペレアスとメリザンド》を贈られて
それをぼろぼろになるまで勉強したことは、
彼の作曲家としての人生を決めるきっかけになったと言われています。

《アーメンの幻影》は、ドイツ軍の占領下の真っ只中、
1943年のパリで初演された作品。
1941〜42年のドイツのゲルリッツでの捕虜生活から解放されてから
初めて書いた作品です。

ちなみに捕虜生活の中で書き上げたのが、
あの有名な《世の(時の)終わりのための四重奏曲》。

2台ピアノの作品ですが、2人のピアニストの掛け合いが
まるでお互いに挑みかかるように激しく、圧倒的な流れの音楽。 

第1ピアノは、彼の2番目の奥さんでピアニストのイヴォンヌ・ロリオが、
第2ピアノはメシアン自身の演奏で初演されました。 

曲は7楽章構成。 メシアンは情熱的・献身的なローマカトリック教徒。
彼の作品は全てその信仰と関連しています。

パリ高等音楽院を卒業してから、60年以上、
パリのサントリニティー教会でオルガニストを務めたことに
深い喜びを感じていたそう。

1 創造のアーメン
   /  "Amen de la création" 
2 星たちと環のある惑星のアーメン
   /  "Amen des étoiles, de la planète à l'anneau" 
3 イエスの苦しみのアーメン
   /  "Amen de l'agonie de Jésus" 
4 願望のアーメン
   /  "Amen du désir" 
5 天使たち、聖人たち、鳥たちの歌のアーメン
   /  "Amen des anges, des saints, du chant des oiseaux" 
6 審判のアーメン
   /  "Amen du jugement" 
7 成就のアーメン
   /  "Amen de la consommation"  


それぞれの楽章のストーリーが、
絵のように音に描写されている曲なのですが、
カタコンベの薄暗い空間の中で聴くといっそうその世界に惹き込まれます。



1. 創造のアーメン
[「創造の主題」が暗黒の深淵から、着実に厳粛に聖歌のように生起する。光が徐々に差し込んで広がっていき、鐘の音のような和音がクレッシェンドしながら鳴り響き、光の中で輝いている。] 

低音のくぐもった響きの中から、徐々に中・高音が現れて、
暗い闇の中に光が差してきます。

ぼんやりとした音が渦巻く暗い世界から徐々に音楽が明確になっていく様が、
何かが徐々に姿を現していくようで、まさに「創造」の音楽。


2. 星たちと環のある惑星のアーメン
[止まることない宇宙の回転、猛烈なエネルギ-のダンス。複数の環を持つ土星、他の惑星、止まることなく回転している星星が、全て創造主に対して賛同のアーメンを叫んでいる。]

一般的に私たちがイメージする、キラキラ輝く「星」のイメージとは
随分異なります。

シャープで重量感のあるモティーフが執拗に繰り返され、
むしろ宇宙の中で、巨大なエネルギーをもつ星たちが、
爆発を繰り返しながら回転を続けていく様を現したような音楽。

ゴツゴツした厳つい低音の響きに対して、
雪の結晶のように輝く音が散りばめられた高音が対照的。

モティーフの対位法的な展開が宇宙の「秩序」のようなものを
形作っているように聴こえます。


3. イエスの苦しみのアーメン
苦痛に満ちた突き刺さるような旋律と不協和な響きが
イエスの苦しみを表しています。

イエスの血と汗のしたたり、と言われるバスの単音の響きは
寒気がするほど。

そして終盤の突然の沈黙。会場が恐ろしいほどに静まり返ります。


4. 願望のアーメン
[神に捧げた愛が、魂から湧き起こるアーメンを喚起する。神との結合への欲望。調和的なパラダイスの深い優しさと静けさ、栄光に満ちた成就への激しく情熱的な人間の願望]

うっとりと夢の中でまどろんでいるような部分と、
2人のピアニストがお互いに挑みかかるように前のめりになって奏する
激しい部分とが対照的。


5. 天使たち、聖人たち、鳥たちの歌のアーメン
[透きとおるように、力むことなく、ピュアな歌によって、神への賞賛のアーメンを天使と聖人が唱える。ナイチンゲール、ブラックバードなど、鳥たちの愉悦的な歌声のコーラス] 

ユニゾンで聖歌を思わせるメロディーが歌われたあとに、
「創造の主題」が奏でられます。

ナイチンゲールのさえずり、ブラックバードのはばたき、などが
色彩豊かに聴こえて、とても描写的な音楽。

鳥の専門家でもあり、77種類もの鳥が登場する《鳥のカタログ》を
作曲したメシアンの得意とする作曲法の一つを感じられる楽章です。


 6. 審判のアーメン
[最も短い楽章。"Let it beは審判の形になる。神の愛を拒否したものに対するこの判決の厳しさは、リズミカルな厳格さ、透明性と全体的な明晰さをもって演奏される]

重苦しく、法廷で打ち鳴らされる槌のような無慈悲な響きの
和音の繰り返しに、戦慄を覚えます。

判決の峻厳さを表した音楽。


7. 成就のアーメン
[キリストにおいて約束された世界が成就した至福の時。神の最後の"Let it be"。「創造の主題」に回帰して、子供のような歓喜の波が次か次へと変形していく]

生気と輝きに満ちた「創造の主題」が繰り返し奏されますが、
ここでは、面食らってしまうほどに、調性的。

これまでの楽章に現れてきた、不協和な響き、厳つい和音、
断続的でシャープな旋律、と打って変って
調性的にメロディアスに演奏することは、
歓喜の歌を表すのにとても効果的だと思いますが、
あまりにも喜びに満ちていて、裏読みしたくなるほど。 

講座に参加してくださった方が、
「最後の調性的なところはとても明解でしたが、
実は、神の世界ってそんなに単純ではないかも…」
とおっしゃっていたのが印象的でした。

その明るさの裏には何かあるかも… なるほど、
そういう解釈もあるかもしれません。

こうしてお互いの気づいた点を話したり共有できるのが、
講座を開いたり何人かで一緒の音楽を聴きにいく醍醐味だと思います。

会場の雰囲気と相まって、まさしく、日本では絶対味わえない経験。
2台のピアノの上を極彩色の音が飛び跳ねているようで、
でも、その中に、近寄りがたい怖さ、超越的な存在を感じさせるものがありました。



ユニークな空間と、素晴らしい音響、雰囲気たっぷりの音楽。
隠れ家的な場所で、ニューヨークならではの体験をしたい方には
おすすめのコンサートシリーズです。




---------------------

2016年8月25日 
 Christina & Michelle Naughton 
@Crypt Chapel of The Church of the Intercession 

メシアン:2台のピアノのための作品《アーメンの幻影》  



● Link
  The Crypt Sessions: Christina & Michelle Naughton

● Related Posts



2016年8月16日火曜日

第3回講座「ハイドン&モーツァルト」の模様 / 第4回講座「ベートーヴェン」のご案内

♪--------------------♪--------------------♪--------------------
こんにちは、MUCHOJIです。
初めて当ブログをご訪問の方は、「はじめに」をお読みください。
-----------♪------------------♪--------------------♪-----------


マンハッタンの片隅でこじんまりと開催する音楽の勉強会。
第3回の音楽史&音楽理論 講座を開催しました。
真夏日にもかかわらず、お越しくださった皆様、ありがとうございます。
テーマは古典派の代表的な作曲家、ハイドンさんとモーツァルトさん。

様々な音源を聴きながら、茶目っ気たっぷりのハイドンに親しみを感じたり、
モーツァルトは本当に神童だったのかな?と考えてみたり。 

モーツァルトが若いころにイギリス、イタリア、ドイツ、フランスなど
様々な国を旅行し、これらの国々で用いられていた多くの様式や習慣を
吸収したのに対して、ほぼ生涯に渡ってハンガリーの貴族の家に仕え 、
ウィーン周辺の伝統にみずからの規範を見出したハイドン。

私たちがクラシック音楽、という言葉からイメージするような
「古典派(クラシック) 」音楽のルールや形式を、
ハイドンは、ほとんと同じ地で過ごしながら作り上げたということに
改めて驚きを覚えます。

今回は、ピリオド奏法とモダン奏法で、
ハイドンとモーツァルトの様々な作品の聴き比べもしました。

ピリオド奏法とは、端的にいえば、使用する楽器の点でも、奏法の点でも、
作曲された当時の流儀にたち返ろうというスタイル。

ヨーロッパでは、はっきりとは特定できませんが、
1930年代からそうした運動の傾向はあったそうで、
1980年代には著名なオーケストラでもピリオド奏法が
取り入れられる傾向が見られるように なりました。

今回の講座では、わかりやすいように、
20世紀後半のいわゆる「巨匠スタイル」の奏法の音源と、
ピリオド奏法の音源を聴き比べましたが、
参加者の方々のコメントがとても興味深かったです。

巨匠スタイルの演奏はゴージャスで
「高級ハムのCMに使われてそう(笑)」とか。

この日は真夏日だったので、
「夏にはピリオド奏法の軽快でさっぱりした演奏がいいけど、
秋の夜長に一人で聴くなら巨匠スタイルかな… 」とか。

ピリオド奏法による演奏は、
当時使われていた楽器を再現した楽器を使っていることも多いので、
見た目にも楽しめますし、
楽器の制約が生み出される音楽とどのように関わっていたのかを
想像することもできます。

さまざまな分野の専門家である参加者の方も多いので、
講座が終わった後もみなさんでつきぬ音楽談義を続けられるのも
楽しみのひとつです。

次回の第4回、8月27日(土)はいよいよベートーヴェン。
講座は全8回なのに、一人で1回分を占めてしまうベートーヴェン!
でもそれくらいしても足りないほど、
彼の音楽史に残した業績は大きいのです。

モーツァルトがハイドンから少なからず影響を受けたように、
ベートーヴェンからもハイドンに多くを学んでいます。 

お金はなく、しかし大望を抱いてボンの街からウィーンに向かっていた
ベートーヴェンの出納簿の記入事項のひとつに、
「ハイドンと私のためのコーヒー用」として
25グロッシェンの支出の記録があります。

この記述は、2人の出会いを想像させるロマンを
十二分に備えていますよね。 

第九交響曲だけじゃない、
みなさんの知らないベートーヴェンについても
いろいろ取り上げていこうと思いますので、
興味のある方はぜひお越しいただければ幸いです。

美術と音楽の関わりに興味をお持ちの方は、
8月20日(土)の特別講座「音楽×美術 〜様式史からたどる二つの芸術」 
もお楽しみに。

音楽と美術の2つの分野が、どのように発展し、
相互に関わってきたのかを、
美術史がご専門の磯谷有亮さんとの対談形式でお話しいたします。

8月20日(土)の特別講座はお席が残り少なくなっておりますので、
ご興味ございましたらお早めにお問い合わせ頂ければ幸いです。
                                                                                
 -----------♪------------------♪--------------------♪-----------

♪ 音楽史&音楽理論 講座 ♪ (シリーズ講座)

 ◇講師:日比美和子

 ◇概要
クラシック音楽は一見、敷居が高そうに見えますが、
実はしくみがわかるとグッと楽しめるようになります。
この講座では、作曲家の人生や性格が伝わるエピソード、
作曲当時の社会状況や歴史的な背景、音楽を形作る音楽理論… といった、
実際の音楽の「裏側」にあるさまざまな要素・要因についてお話ししながら、
おすすめのクラシック音楽の音源を紹介していきます。
シリーズ講座ですが、1回ごともそれぞれまとまった内容でできているので、
ご都合や興味関心に合わせてお越しください。

第4回音楽講座のご案内はこちら  
 ↓

第4回:ベートーヴェン 〜古典派からロマン派へ〜


 ◇開催日
8月27日(土)

 ◇時間
14:00~15:40頃

 ◇場所
お問い合わせを頂いた方にメールでお知らせいたします。

◇会費
大人:$10

◇お申し込み方法
下記メールにてお問い合わせください。
登録フォームをお送りいたします。

お問い合わせメールアドレス:muchojiあっとyahoo.com
「あっと」を「@」に変えてメールをお送りください。



-----------♪------------------♪--------------------♪-----------



◇全8回シリーズで予定される内容

第1回:6月5日(日)
 音楽室に肖像の無い作曲家たち 〜中世・ルネサンスの音楽〜

第2回:7月3日(日)
 ヴィヴァルディ、バッハ、ヘンデル 〜ルネサンスからバロック音楽へ〜

第3回:8月14日(日)
 ハイドン&モーツァルト 〜古典派の音楽〜

第4回:8月27日( 土)
 ベートーヴェン 〜古典派からロマン派へ〜

第5回:
 ブラームス、シューマン、メンデルスゾーン 
   〜ドイツ・ロマン派の巨匠たち〜

第6回:
 ドヴォルザーク、チャイコフスキー、ストラヴィンスキー 
   〜国民楽派とロシアの音楽〜

第7回:
 ドビュッシー、ラヴェル、サティ 
   〜フランス印象主義とその後〜

第8回:
 20世紀の音楽とアメリカの音楽 〜クラシック音楽の未来〜




※ 講義の内容は予告なく変更されることがあります。ご了承ください。


皆様のご参加をお待ちしています!




● Related Posts

【Soka University のコンサートホールがすごい!】

♪--------------------♪--------------------♪ こんにちは、MUCHOJIです。 初めて当ブログをご訪問の方は、 「 はじめに 」をお読みください。 -----------♪------------------♪---...