2016年10月12日水曜日

ドゥダメル指揮 シモン・ボリバル・オーケストラ・オブ・ベネズエラによる メシアン作曲「トゥーランガリラ交響曲」


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シモン・ボリバル・オーケストラ・オブ・ベネズエラ
@カーネギーホール


カーネギーホールの今シーズン開幕公演の一つ、シモン・ボリバル・オーケストラ・オブ・ベネズエラを聴きにいきました。

指揮は飛ぶ鳥落とす勢いのグスターボ・ドゥダメル。35歳。

彼も含め、オーケストラの団員は「エル・システマ」の実践者たち。

南米ベネズエラの独創的な社会教育プログラム「エル・システマ」は、もともとは、主に貧しい地域の子どもたちにヴァイオリンなどオーケストラの管弦楽器を無償で与えて音楽を教えるために考案されました。

「エル・システマ」は音楽教育であると同時に、職業訓練でもあり、世界的に活躍する音楽家になった実践者も少なくありません。子どもたちの中にはストリートチルドレンもおり、そうした子どもたちを犯罪やドラッグの道から救うことにも役立ちました。

シモン・ボリバル・オーケストラ・オブ・ベネズエラは、「エル・システマ」の教育を受けた25歳以上の演奏家で編成されていたオーケストラ「シモン・ボリバル・ユース・オーケストラ・オブ・ベネズエラ」がもともとの団体。

団員の年齢が高くなったことから、「ユース」をとって現在の形に。
さらに、グスターボ・ドゥダメル音楽監督のもと、「エル・システマ」を実践した若い演奏家のうちトップ集団が一定期間だけ従事するオーケストラから、もっと永続的なオーケストラへと変わり、活躍しています。

今日のコンサートはいつもとちょっと客層が違い、ベネズエラ人や若い人もたくさん。

国家が危機的な状況にある最中、国の誇りであるオーケストラがニューヨークのカーネギーホールで演奏するのを見る。それがいかに彼らの愛国心を高揚させるか、想像に難くありません。


大編成 / たくさんの打楽器, ピアノやオンド・マルトノも。



演奏曲は、メシアン「トゥーランガリラ交響曲」1曲のみ。演奏時間75分。

この作品は、私の主観で表現すると、フランスの作曲家メシアンが書いたちょっとピンク色のエッチな音楽、とでもいいましょうか。 中世の伝説「トリスタンとイゾルデ」からインスピレーションを受けた、愛と死を主題とする交響曲です。

「トリスタンとイゾルデ」といえばリヒャルト・ヴァーグナーのオペラが有名ですが、メシアンもこの伝説に魅せられて、三部作を書いています。そのひとつが「トゥーランガリラ交響曲」。 

「トリスタンとイゾルデ」は オペラや交響曲などクラシック音楽の領域では、至高の芸術作品を生み出す題材として認められていますが、現代的にわかりやすく言うと、実は不倫と三角関係のお話。そういう意味でちょっとエッチな内容なのです。

この「トリスタンとイゾルデ」に基づく「トゥーランガリラ交響曲」のタイトル「トゥーランガリラ」は、サンスクリット語の“turanga”と“lîla”からの造語。
いろんな意味がありますが、おおよそ「愛の賛歌」という意味。

でも、聴いてみるとわかるのですが、宗教的なストイックさはなくて、むしろ 放恣な恋愛が高らかに語られる感じ。大胆に性が歌われ、思わず吹き出してしまうほど。 

メシアンは敬虔なカトリック教徒でしたが、寒い北ヨーロッパの厳格なカトリックからのイメージとは程遠い音楽に聴こえます。

フランス南部アヴィニョンに生まれたメシアンだからこそ、ラテン的な地中海的明るさを備えているのかもしれません。 


曲にはどこかで聴いたことのあるフレーズが至るところに現れ、パロディのようになっているところも笑いを誘います。

特にガーシュウィンの「パリのアメリカ人」にそっくりな第4楽章、ヴァーグナーの「トリスタンとイゾルデ」の前奏曲にそっくりな第6楽章は、オマージュなのかパロディなのかわからず、真面目に聴くべきか笑っていいのか、悩みます。

さらに「音の曼荼羅」と言われるように、ありとあらゆる音が画面いっぱいに並べられたような音楽です。しかも、わかりやすいリズムやメロディーを大胆に使うので俗っぽい響きもたくさん。正直、下品スレスレです。

インド、南アフリカ、中国、インドネシア… といったありとあらゆるカラフルなオリエンタルな響きにあふれていますが、交響曲という西洋の音楽構造に落とし込まれています。極彩色のオリエンタルな絵画や音楽が、石造りの西洋の巨大なミュージアムに収められているよう。

8人以上も打楽器奏者がいて、ピアノがあり、オンド・マルトノ(電子楽器)があり、ジュ・ド・タンブル(鍵盤式グロッケンシュピール)があり、チェレスタがあり… 総勢100人超の演奏者が奏でる音楽。過剰の極致もいいところ?

メシアンの愛弟子の一人、ピエール・ブーレーズは、師匠メシアンについて「彼は作曲(compose)したんじゃなくて、並べ立て(juxtapose)たんだ」と述べています。実際、ごたまぜ感満載の曲です。

現代の私たちが聴くと、あまりの仰々しさと華々しさが時代にそぐわない感じに聴こえますが、そもそもこの曲が書かれたのは、悲惨な戦争が終焉をむかえた頃の1946~48年。

死が身近にあり、陰鬱な空気に満ちた当時には、まさに、生命の息吹そのものを謳歌するようなこの音楽が必要だったのでしょう。

曲は10楽章構成。 

第1楽章 序章 Introduction
第2楽章 愛の歌1 Chant d'Amour 1
第3楽章 トゥーランガリラ1 Turangalîla 1
第4楽章 愛の歌2 Chant d'Amour 2
第5楽章 星たちの血の喜び Joie du Sang des Étoiles
第6楽章 愛のまどろみの庭 Jardin du Sommeil d'Amour
第7楽章 トゥーランガリラ2 Turangalîla 2
第8楽章 愛の敷衍 Développement d'Amour
第9楽章 トゥーランガリラ3 Turangalîla 3
第10楽章 終曲 Final


もともとは、4楽章構成が念頭に置かれていたそう。

でも、そこに「5. 星たちの血の喜び」が加わり、さらに3つの「愛の歌」と3つの「トゥーランガリラ」が主要な楽章を交互に挟む形になります。

4つの楽章+第5楽章「星たちの血の喜び」だけでもいいのでは、と思うのですが、メシアン若気のいたりなのか(40歳頃の作品)、あふれんばかりの創作意欲に掻き立てられてなのか、これでもかというくらい多種多様な要素が詰め込まれて、巨大なマンモス作品に仕上がっています。

3回登場する「トゥーランガリラ」の印象的なメロディーはもちろん、有名な第5楽章以外に、オンド・マルトノが大活躍する第10楽章も聴きどころ。

特に第10楽章は、シモン・ボリバル・オーケストラの得意とするダイナミックな演奏が炸裂。最後は強烈な音の波が観客席に押し寄せてきました。

音の波が見えるような迫力の演奏を聴くのは久しぶりです。

ただ、ユース・オーケストラでなくなったことは、同時にこのオーケストラの課題をも明確にしました。ユースであるからこそ許されていたことはたくさんありますが、世界レベルのオーケストラになるには、演奏レベル、演奏者としてのモラルなど課題は多そうです。

指揮者ドゥダメルはジャンプしたり、ダンスするように指揮したり… 指揮者を見ているというよりは、エンターテイナーを見ているようでした。



さて、本日もプチ予習講座を開演前に開催しました。

クラシック音楽をこれから聴こうかなと思っていらっしゃる方に、コンサートに行く前に簡単な予習講座を開催しています。当日演奏される 作品の解説や、その作品にまつわる作曲家のエピソードなどを20分〜30分程度お話いたします。

クラシック音楽は曲の背景や構造をちょっと知るだけで聴き方が変わり、楽しめるようになります。解説のあとには一緒にコンサートを楽しみましょう!

予習講座はコンサート会場のホワイエもしくは近くのカフェなどで開催していますが、コンサートの内容や参加者の方のご都合に応じて、場所や時間も調整可能です。

解説は無料ですので、興味のある方はぜひご参加ください。


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2016年10月8日 
シモン・ボリバル・オーケストラ・オブ・ベネズエラ
@カーネギーホール

メシアン:トゥーランガリラ交響曲

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2016年9月6日火曜日

ブルックリン橋のたもとに浮かぶコンサートホール Bargemusic

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8月31日 Here and Now Labor Day Festival
@Bargemusic Limited

レイバーデイ・ウィークエンドに開催されている
現代音楽のフェスティバルに行きました。 

ブルックリン橋のたもとに浮かぶユニークで美しいコンサート会場、
バージミュージック。


停泊している船の中がコンサートホールになっています。


船の一番前に舞台があり、その先はガラス張りになっているので、
クラシック音楽を優雅に聴きながら、
その向こうにマンハッタンのスカイラインや夜景が楽しめる、
というかなりオシャレなスポット。 



まさにデートにぴったり!という場所ですが、
今日の催し物は現代音楽のフェスティバル。
マニアックな音楽好きの聴衆が集います。

休憩中は、船の外に出てみなさん夜景を楽しんだり、
ワインを楽しんだり。


せっかくなので、舞台の反対側にも行ってみました。 


音響もわりといいですし、照明もきちんと整っていて、
お客さんとしてはとても雰囲気よく楽しめる空間。

演奏家さんとにとっては、楽屋がないのはちょっと不便ですが、
船なので仕方ないですね。

さて、現代音楽フェスティバルはどうだったかというと、
いわゆる意味不明な“ゲンダイオンガク”は、ほどんとありません。
日本人がイメージしがちな、
不協和音と無調と無旋律の気持ち悪いオンパレード、
というものには最近はあまり出会わない気がします。

もちろん新規性は欠かせないので、
作曲技法に何かしら新しい試みは取り入れられていますが、
最近ニューヨークでは、ある程度聴きやすく、
いろんな方が楽しめる現代音楽に出会うことが多くなってきました。

今日は現代音楽の初演作品8点が一同に演奏されたのですが、
いずれも聴いて楽しい音楽でした。

8作品どれも個性的でしたが、
デュオ夢乃さんが演奏する、米国の代表的なオペラ作曲家、
ダロン・ハーゲンによる「カンタービレ」(『平家物語』より)
が特に印象的でした。

チェロと箏という珍しい組み合わせで、
平家物語の平徳子(建礼門院)の一生と
彼女の歌を音楽物語にしたもの。

第1楽章は、平徳子の出家前までの半生を描いたもの。
女性として子供を産み、子供が天皇になり、
しかし壇ノ浦の戦いで子を失い入水するまでの波乱万丈の半生。
時折、掛け声が挿入されるなど、陰影の濃い印象的な楽章。

第2楽章は、源氏によって海から引き上げられた平徳子が出家し、
現世から隔絶された寺で亡くなった天皇や一門の菩提を弔う
静かな生活を描いています。

第2楽章の美しいガヴァティーナは声なしで演奏される歌。
器楽だけで演奏されることで、俗世間の生々しさが取り払われたように、
荘厳な雰囲気に満ちていました 。
掛け声や歌が用いられる第1楽章と第3楽章とのコントラストが際立ちます。

第3楽章は徳子の残した歌に基づきます。

第1楽章の最後の平家の一門が入水するくだりと、
幻想的な第2楽章では、ゆらゆら揺れる船の上という場所と相まって、
いっそうその世界に惹きこまれます。


もうひとつ印象的だった作品は、
David Shohl作曲の"WTF Goldberg Canons" for two keybords Manuals
ピアノとシンセサイザーという2つの鍵盤楽器のための
ゴルトベルク変奏曲のマニュアル。
演奏者は、プログラムによれば、W.T.F.Bach... ん?

舞台にW.T.F.Bachを名乗る若者が現れて、
バッハのゴルトベルク変奏曲のアリアのモティーフに基づいた
パズルのように複雑な作品を演奏します。
ロックでジャズでクラシックな現代版ゴルトベルク変奏曲。

W.T.F.Bach? バッハの子孫?
と最初は思ってしまったのですが、
そこに登場したのは、いたずらっぽい目のひょろっとした痩せ型の青年。
なるほど彼は "What the f*ck Bach" を名乗っているわけ。

続けてW.T.F.Bachは自分のオーディオ作品"Dash Underscore Dash"を披露。
こちらはもはや純粋な音楽演奏ではないのですが、
2つの作品に共通するのは、いずれもJ.S.バッハの傑作、
ゴルトベルク変奏曲の最初のバスのモティーフを
多かれ少なかれ展開したものであること。
しかもとてもユニークで皮肉めいた現代的な方法で。

ゲンダイオンガクはムズカシイという先入観をお持ちの方が
多いと思いますが、ニューヨークではHere and Now Festivalのように
見て楽しい聴いて心地よい現代音楽に出会えることもたくさんあるので、
こうした機会に訪れていただけたらと思います。

バージミュージックでは、室内楽のコンサートをたくさん開催しており、
ニューヨークの音楽ファンの中でも人気のある場所です。 

音楽はそれが演奏される場の効果と相まって、
聴く者にいっそう強い感動を与えたり、印象付けるもの。 

ユニークで雰囲気たっぷりのコンサートホールで、
クラシック音楽のコンサートというのも良いのではないでしょうか。



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2016年8月31日 
 Here and Now Labor Day Weekend Festival
@Bargemusic Limited 




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2016年8月29日月曜日

カタコンベで現代音楽!メシアン作曲《アーメンの幻影》


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カタコンベで現代音楽!

8月25日  Christina & Michelle Naughton
メシアン:2台のピアノのための作品《アーメンの幻影》  
@Crypt Chapel of The Church of the Intercession

「クラシックコンサート予習講座〜現代音楽の楽しみ方」に
お越しいただいた方、 ありがとうございました!

予習講座でメシアンとその作品の特徴について
30分ほどお勉強したあと、コンサート会場へ。

アッパーマンハッタン、West 155th Streetの高台の上の
広くて美しい墓地の傍にある Crypt Chapel of The Church of the Intercession



このコンサートシリーズ、ワインとチーズ、フルーツ、スナックなどを手に
おしゃべりを楽しんだ後で、コンサートを聴くスタイル。
ワインとチーズも教会の中庭の回廊でいただきます。
暗くてすでに雰囲気たっぷり。 



ニューヨークでも日本と同じようにクラシック音楽のコンサートでは、
シニアのお客様が中心ですが、The Crypt Sessionsのシリーズは
お客さんのほとんどが、普段はSoHo, NoLItaで見かけるような
20〜30代のお洒落な若い方々。

演奏される曲目は、宗教曲であったり、現代曲であったり、と
決して聴きやすい音楽ではないのに、これだけ若いお客さんが集まるのは、
やはりこの場の特別感でしょうか。リピーターも多いです。 

さて、ずらりと並ぶお墓の脇を通って、
いよいよ地下のカタコンベに移動します。

今日のピアノの配置はこんな感じ。



天井を外したピアノが、両脇の客席に挟まれるように中央に。
地下であることに加え、当日は夕方に夕立がありました。
湿気がすごくて調律師さんの苦労が忍ばれます… 
そもそもピアノを運び入れるのには地上からの急な階段しかない...!

プログラムノートも麻の紐で結ばれた巻き物になっていて、凝っています。 

本日の曲目は、メシアン作曲《アーメンの幻影》。
2台ピアノのための作品です。

作曲者のオリヴィエ・メシアンは、20世紀、フランスの作曲家。
フランス、アヴィニヨン生まれで、
父ピエールはシェイクスピアの全作品を仏訳した英語教師、
母セシル・ソーヴァージュは女流詩人と、芸術家気質の家に育ちます。

こどもの頃にクリスマスプレンゼントで、
ドビュッシーのオペラ《ペレアスとメリザンド》を贈られて
それをぼろぼろになるまで勉強したことは、
彼の作曲家としての人生を決めるきっかけになったと言われています。

《アーメンの幻影》は、ドイツ軍の占領下の真っ只中、
1943年のパリで初演された作品。
1941〜42年のドイツのゲルリッツでの捕虜生活から解放されてから
初めて書いた作品です。

ちなみに捕虜生活の中で書き上げたのが、
あの有名な《世の(時の)終わりのための四重奏曲》。

2台ピアノの作品ですが、2人のピアニストの掛け合いが
まるでお互いに挑みかかるように激しく、圧倒的な流れの音楽。 

第1ピアノは、彼の2番目の奥さんでピアニストのイヴォンヌ・ロリオが、
第2ピアノはメシアン自身の演奏で初演されました。 

曲は7楽章構成。 メシアンは情熱的・献身的なローマカトリック教徒。
彼の作品は全てその信仰と関連しています。

パリ高等音楽院を卒業してから、60年以上、
パリのサントリニティー教会でオルガニストを務めたことに
深い喜びを感じていたそう。

1 創造のアーメン
   /  "Amen de la création" 
2 星たちと環のある惑星のアーメン
   /  "Amen des étoiles, de la planète à l'anneau" 
3 イエスの苦しみのアーメン
   /  "Amen de l'agonie de Jésus" 
4 願望のアーメン
   /  "Amen du désir" 
5 天使たち、聖人たち、鳥たちの歌のアーメン
   /  "Amen des anges, des saints, du chant des oiseaux" 
6 審判のアーメン
   /  "Amen du jugement" 
7 成就のアーメン
   /  "Amen de la consommation"  


それぞれの楽章のストーリーが、
絵のように音に描写されている曲なのですが、
カタコンベの薄暗い空間の中で聴くといっそうその世界に惹き込まれます。



1. 創造のアーメン
[「創造の主題」が暗黒の深淵から、着実に厳粛に聖歌のように生起する。光が徐々に差し込んで広がっていき、鐘の音のような和音がクレッシェンドしながら鳴り響き、光の中で輝いている。] 

低音のくぐもった響きの中から、徐々に中・高音が現れて、
暗い闇の中に光が差してきます。

ぼんやりとした音が渦巻く暗い世界から徐々に音楽が明確になっていく様が、
何かが徐々に姿を現していくようで、まさに「創造」の音楽。


2. 星たちと環のある惑星のアーメン
[止まることない宇宙の回転、猛烈なエネルギ-のダンス。複数の環を持つ土星、他の惑星、止まることなく回転している星星が、全て創造主に対して賛同のアーメンを叫んでいる。]

一般的に私たちがイメージする、キラキラ輝く「星」のイメージとは
随分異なります。

シャープで重量感のあるモティーフが執拗に繰り返され、
むしろ宇宙の中で、巨大なエネルギーをもつ星たちが、
爆発を繰り返しながら回転を続けていく様を現したような音楽。

ゴツゴツした厳つい低音の響きに対して、
雪の結晶のように輝く音が散りばめられた高音が対照的。

モティーフの対位法的な展開が宇宙の「秩序」のようなものを
形作っているように聴こえます。


3. イエスの苦しみのアーメン
苦痛に満ちた突き刺さるような旋律と不協和な響きが
イエスの苦しみを表しています。

イエスの血と汗のしたたり、と言われるバスの単音の響きは
寒気がするほど。

そして終盤の突然の沈黙。会場が恐ろしいほどに静まり返ります。


4. 願望のアーメン
[神に捧げた愛が、魂から湧き起こるアーメンを喚起する。神との結合への欲望。調和的なパラダイスの深い優しさと静けさ、栄光に満ちた成就への激しく情熱的な人間の願望]

うっとりと夢の中でまどろんでいるような部分と、
2人のピアニストがお互いに挑みかかるように前のめりになって奏する
激しい部分とが対照的。


5. 天使たち、聖人たち、鳥たちの歌のアーメン
[透きとおるように、力むことなく、ピュアな歌によって、神への賞賛のアーメンを天使と聖人が唱える。ナイチンゲール、ブラックバードなど、鳥たちの愉悦的な歌声のコーラス] 

ユニゾンで聖歌を思わせるメロディーが歌われたあとに、
「創造の主題」が奏でられます。

ナイチンゲールのさえずり、ブラックバードのはばたき、などが
色彩豊かに聴こえて、とても描写的な音楽。

鳥の専門家でもあり、77種類もの鳥が登場する《鳥のカタログ》を
作曲したメシアンの得意とする作曲法の一つを感じられる楽章です。


 6. 審判のアーメン
[最も短い楽章。"Let it beは審判の形になる。神の愛を拒否したものに対するこの判決の厳しさは、リズミカルな厳格さ、透明性と全体的な明晰さをもって演奏される]

重苦しく、法廷で打ち鳴らされる槌のような無慈悲な響きの
和音の繰り返しに、戦慄を覚えます。

判決の峻厳さを表した音楽。


7. 成就のアーメン
[キリストにおいて約束された世界が成就した至福の時。神の最後の"Let it be"。「創造の主題」に回帰して、子供のような歓喜の波が次か次へと変形していく]

生気と輝きに満ちた「創造の主題」が繰り返し奏されますが、
ここでは、面食らってしまうほどに、調性的。

これまでの楽章に現れてきた、不協和な響き、厳つい和音、
断続的でシャープな旋律、と打って変って
調性的にメロディアスに演奏することは、
歓喜の歌を表すのにとても効果的だと思いますが、
あまりにも喜びに満ちていて、裏読みしたくなるほど。 

講座に参加してくださった方が、
「最後の調性的なところはとても明解でしたが、
実は、神の世界ってそんなに単純ではないかも…」
とおっしゃっていたのが印象的でした。

その明るさの裏には何かあるかも… なるほど、
そういう解釈もあるかもしれません。

こうしてお互いの気づいた点を話したり共有できるのが、
講座を開いたり何人かで一緒の音楽を聴きにいく醍醐味だと思います。

会場の雰囲気と相まって、まさしく、日本では絶対味わえない経験。
2台のピアノの上を極彩色の音が飛び跳ねているようで、
でも、その中に、近寄りがたい怖さ、超越的な存在を感じさせるものがありました。



ユニークな空間と、素晴らしい音響、雰囲気たっぷりの音楽。
隠れ家的な場所で、ニューヨークならではの体験をしたい方には
おすすめのコンサートシリーズです。




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2016年8月25日 
 Christina & Michelle Naughton 
@Crypt Chapel of The Church of the Intercession 

メシアン:2台のピアノのための作品《アーメンの幻影》  



● Link
  The Crypt Sessions: Christina & Michelle Naughton

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2016年8月16日火曜日

第3回講座「ハイドン&モーツァルト」の模様 / 第4回講座「ベートーヴェン」のご案内

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こんにちは、MUCHOJIです。
初めて当ブログをご訪問の方は、「はじめに」をお読みください。
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マンハッタンの片隅でこじんまりと開催する音楽の勉強会。
第3回の音楽史&音楽理論 講座を開催しました。
真夏日にもかかわらず、お越しくださった皆様、ありがとうございます。
テーマは古典派の代表的な作曲家、ハイドンさんとモーツァルトさん。

様々な音源を聴きながら、茶目っ気たっぷりのハイドンに親しみを感じたり、
モーツァルトは本当に神童だったのかな?と考えてみたり。 

モーツァルトが若いころにイギリス、イタリア、ドイツ、フランスなど
様々な国を旅行し、これらの国々で用いられていた多くの様式や習慣を
吸収したのに対して、ほぼ生涯に渡ってハンガリーの貴族の家に仕え 、
ウィーン周辺の伝統にみずからの規範を見出したハイドン。

私たちがクラシック音楽、という言葉からイメージするような
「古典派(クラシック) 」音楽のルールや形式を、
ハイドンは、ほとんと同じ地で過ごしながら作り上げたということに
改めて驚きを覚えます。

今回は、ピリオド奏法とモダン奏法で、
ハイドンとモーツァルトの様々な作品の聴き比べもしました。

ピリオド奏法とは、端的にいえば、使用する楽器の点でも、奏法の点でも、
作曲された当時の流儀にたち返ろうというスタイル。

ヨーロッパでは、はっきりとは特定できませんが、
1930年代からそうした運動の傾向はあったそうで、
1980年代には著名なオーケストラでもピリオド奏法が
取り入れられる傾向が見られるように なりました。

今回の講座では、わかりやすいように、
20世紀後半のいわゆる「巨匠スタイル」の奏法の音源と、
ピリオド奏法の音源を聴き比べましたが、
参加者の方々のコメントがとても興味深かったです。

巨匠スタイルの演奏はゴージャスで
「高級ハムのCMに使われてそう(笑)」とか。

この日は真夏日だったので、
「夏にはピリオド奏法の軽快でさっぱりした演奏がいいけど、
秋の夜長に一人で聴くなら巨匠スタイルかな… 」とか。

ピリオド奏法による演奏は、
当時使われていた楽器を再現した楽器を使っていることも多いので、
見た目にも楽しめますし、
楽器の制約が生み出される音楽とどのように関わっていたのかを
想像することもできます。

さまざまな分野の専門家である参加者の方も多いので、
講座が終わった後もみなさんでつきぬ音楽談義を続けられるのも
楽しみのひとつです。

次回の第4回、8月27日(土)はいよいよベートーヴェン。
講座は全8回なのに、一人で1回分を占めてしまうベートーヴェン!
でもそれくらいしても足りないほど、
彼の音楽史に残した業績は大きいのです。

モーツァルトがハイドンから少なからず影響を受けたように、
ベートーヴェンからもハイドンに多くを学んでいます。 

お金はなく、しかし大望を抱いてボンの街からウィーンに向かっていた
ベートーヴェンの出納簿の記入事項のひとつに、
「ハイドンと私のためのコーヒー用」として
25グロッシェンの支出の記録があります。

この記述は、2人の出会いを想像させるロマンを
十二分に備えていますよね。 

第九交響曲だけじゃない、
みなさんの知らないベートーヴェンについても
いろいろ取り上げていこうと思いますので、
興味のある方はぜひお越しいただければ幸いです。

美術と音楽の関わりに興味をお持ちの方は、
8月20日(土)の特別講座「音楽×美術 〜様式史からたどる二つの芸術」 
もお楽しみに。

音楽と美術の2つの分野が、どのように発展し、
相互に関わってきたのかを、
美術史がご専門の磯谷有亮さんとの対談形式でお話しいたします。

8月20日(土)の特別講座はお席が残り少なくなっておりますので、
ご興味ございましたらお早めにお問い合わせ頂ければ幸いです。
                                                                                
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♪ 音楽史&音楽理論 講座 ♪ (シリーズ講座)

 ◇講師:日比美和子

 ◇概要
クラシック音楽は一見、敷居が高そうに見えますが、
実はしくみがわかるとグッと楽しめるようになります。
この講座では、作曲家の人生や性格が伝わるエピソード、
作曲当時の社会状況や歴史的な背景、音楽を形作る音楽理論… といった、
実際の音楽の「裏側」にあるさまざまな要素・要因についてお話ししながら、
おすすめのクラシック音楽の音源を紹介していきます。
シリーズ講座ですが、1回ごともそれぞれまとまった内容でできているので、
ご都合や興味関心に合わせてお越しください。

第4回音楽講座のご案内はこちら  
 ↓

第4回:ベートーヴェン 〜古典派からロマン派へ〜


 ◇開催日
8月27日(土)

 ◇時間
14:00~15:40頃

 ◇場所
お問い合わせを頂いた方にメールでお知らせいたします。

◇会費
大人:$10

◇お申し込み方法
下記メールにてお問い合わせください。
登録フォームをお送りいたします。

お問い合わせメールアドレス:muchojiあっとyahoo.com
「あっと」を「@」に変えてメールをお送りください。



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◇全8回シリーズで予定される内容

第1回:6月5日(日)
 音楽室に肖像の無い作曲家たち 〜中世・ルネサンスの音楽〜

第2回:7月3日(日)
 ヴィヴァルディ、バッハ、ヘンデル 〜ルネサンスからバロック音楽へ〜

第3回:8月14日(日)
 ハイドン&モーツァルト 〜古典派の音楽〜

第4回:8月27日( 土)
 ベートーヴェン 〜古典派からロマン派へ〜

第5回:
 ブラームス、シューマン、メンデルスゾーン 
   〜ドイツ・ロマン派の巨匠たち〜

第6回:
 ドヴォルザーク、チャイコフスキー、ストラヴィンスキー 
   〜国民楽派とロシアの音楽〜

第7回:
 ドビュッシー、ラヴェル、サティ 
   〜フランス印象主義とその後〜

第8回:
 20世紀の音楽とアメリカの音楽 〜クラシック音楽の未来〜




※ 講義の内容は予告なく変更されることがあります。ご了承ください。


皆様のご参加をお待ちしています!




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2016年8月13日土曜日

第3回 ♪ 音楽史&音楽理論 講座 ♪ のご案内 ハイドンはいたずら好き?モーツァルトは本当に神童だった?


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こんにちは、MUCHOJIです。
初めて当ブログをご訪問の方は、「はじめに」をお読みください。
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ニューヨーク、マンハッタンの片隅でこじんまりと少人数で開催している
音楽鑑賞しながらの、クラシック音楽の勉強会。

明後日8月14日(日)に、第3回の ♪ 音楽史&音楽理論 講座 ♪ を開催します。
貴重なお休みの日にもかかわらず、足を運んでくださる皆様、
ありがとうございます!

今回のテーマは、古典派の時代。
ハイドンやモーツァルトに焦点を当てます。

ハイドンは実はいたずら好きだった!?
モーツァルトは本当に神童だった?
など、いろんな疑問に答えながら、作曲家のエピソードの紹介を交えながら、
作品の解説をします。
一緒に音楽を聴きながら、本当にそうなのか検証してみませんか?

また、古典派の時代には楽器が大きく発展しました。
現在のピアノの前身にあたるフォルテピアノや、
フルート、クラリネット... といったさまざまな管楽器が
大きく変化したのもこの時代。

改良された楽器の美しい音色に魅せられた作曲家は、
どんな曲を書いたのか?
当時の楽器が、できたこと・できなかったこと、と
実際に作られた曲を聴いてみると、「なるほど!」
と思う瞬間がたくさんあるはずです。

理論編では、ソナタ形式、ロンド形式といった古典派を代表する
形式を勉強します。
これがわかると、コンサートで聴いている曲がいつ終わるかがわかるので、
寝ていいタイミングと起きるタイミングがわかるかも!?(笑)

毎回恒例の、同じ曲の聴き比べ大会も行います。
聴き比べをすると、クラシック音楽の楽しみ方が、まさに演奏の違いにある、
ということが実感できて、楽しくなりますよ!

第3回はまだ若干お席に余裕があります。
ご都合よろしければお越しください。

さらに次のお知らせ。

8月20日(土)には、特別講座「音楽×美術 〜様式史からたどる二つの芸術」
を開催します。
音楽と美術の2つの分野が、どのように発展し、相互に関わってきたのかを、
美術史がご専門の磯谷有亮さんとの対談形式でお話しいたします。
ぜひ皆様のお越しをお待ちしています。


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♪ 音楽史&音楽理論 講座 ♪ (シリーズ講座)

 ◇講師:日比美和子

 ◇概要
クラシック音楽は一見、敷居が高そうに見えますが、
実はしくみがわかるとグッと楽しめるようになります。
この講座では、作曲家の人生や性格が伝わるエピソード、
作曲当時の社会状況や歴史的な背景、音楽を形作る音楽理論… といった、
実際の音楽の「裏側」にあるさまざまな要素・要因についてお話ししながら、
おすすめのクラシック音楽の音源を紹介していきます。
シリーズ講座ですが、1回ごともそれぞれまとまった内容でできているので、
ご都合や興味関心に合わせてお越しください。

第3回音楽講座のご案内はこちら  
 ↓

第3回:ハイドン&モーツァルト 〜古典派の音楽〜

 ◇開催日
8月14日(日)

 ◇時間
14:00~15:40頃

 ◇場所
お問い合わせを頂いた方にメールでお知らせいたします。

◇会費
大人:$10

◇お申し込み方法
下記メールにてお問い合わせください。
登録フォームをお送りいたします。

お問い合わせメールアドレス:muchojiあっとyahoo.com
「あっと」を「@」に変えてメールをお送りください。



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◇全8回シリーズで予定される内容

第1回:6月5日(日)
 音楽室に肖像の無い作曲家たち 〜中世・ルネサンスの音楽〜

第2回:7月3日(日)
 ヴィヴァルディ、バッハ、ヘンデル 〜ルネサンスからバロック音楽へ〜

第3回:8月14日(日)
 ハイドン&モーツァルト 〜古典派の音楽〜

第4回:8月27日( 土)
 ベートーヴェン 〜古典派からロマン派へ〜

第5回:
 ブラームス、シューマン、メンデルスゾーン 
   〜ドイツ・ロマン派の巨匠たち〜

第6回:
 ドヴォルザーク、チャイコフスキー、ストラヴィンスキー 
   〜国民楽派とロシアの音楽〜

第7回:
 ドビュッシー、ラヴェル、サティ 
   〜フランス印象主義とその後〜

第8回:
 20世紀の音楽とアメリカの音楽 〜クラシック音楽の未来〜




※ 講義の内容は予告なく変更されることがあります。ご了承ください。


皆様のご参加をお待ちしています!




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2016年8月8日月曜日

タングルウッド音楽祭の楽しみ方


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こんにちは、MUCHOJIです。
初めて当ブログをご訪問の方は、「はじめに」をお読みください。
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タングルウッド音楽祭。

ニューヨークから車で約2時間半、バークシャー地方にある街で、
6月下旬から9月上旬までボストン交響楽団や
ボストン・ポップスの演奏が楽しめる夏のイベントです。

コンサートホールの一番後ろは扉が開いて外につながっているので、
ホール席で聴いても、外で聴いても。

ここの醍醐味は夏ならではの芝生席!という人も多く、 みなさん
気持良い青空の下、ごろーんとしながら音楽を楽しんでいます。

せっかくなので、プレリュードコンサートはセイジ・オザワホールの芝生で、
本編はメインホールの中で聴くことにしました。

セイジ・オザワホール。



芝生で聴いていると、グースがやってきました。
鳥さんもいい音楽を聴きにきたのでしょう。
現代音楽になったら去って行きましたが… お気に召さなかったのか…(笑) 



可動式の後方扉は演奏が終わるとすぐに閉じられます。
湿気がすごいですからね… メンテナンスが大変そうなホールです。






ホール内から外の芝生席を逆に見るとこんな感じ。



この日のメインのコンサートが行われるKoussevitzky Music Shed でも、
ホールを取り囲むように芝生にみなさんお気に入りのリラックスグッズを持って
やってきます。


料理、キャンドル、花瓶にお花まで...
パーティレベルに持ってくる人もいます。
アメリカには、家にいるときの感覚をそのまま再現しようという人が
多い気がします。


メインのコンサートの最初は、ジョン・アダムズ「Harmonielehre」(初演:1985)
このタイトルにピンと来たら、音楽通さんです。

アルノルト・シェーンベルクが1911年に書いた著作「和声論Harmonielehre」
へのオマージュ作品。
だからシェーンベルクの著作と同じタイトルが付けられています。

シェーンベルクは1911年に西洋音楽の和声理論に関する著作を発表しますが、
皮肉なことに、シェーンベルク自身はその時期、
まさに和声の領域をこえて、12音技法を展開させようとしていた時でした。

12音技法は調的な中心を欠いた音楽。
シェーンベルクを敬いつつも、アダムズは調的中心を持たない音楽を
否定する作曲家、というのは面白いです。

この曲は初めて生演奏で聴きましたが、
オーケストラの中で音の波がうねっているのがわかる、
ダイナミックな作品でした。アダムズらしく打楽器が大活躍。

2曲目はショパンのピアノ協奏曲第2番。
ピアノ・ソロはイングリット・フリッター。
2000年のショパン国際ピアノコンクール第2位の
アルゼンチン生まれの女性ピアニストさん。

南米のピアニストというと、マルタ・アルゲリッチのような
情熱的な演奏(人生も!?)を想像するかもしれませんが、
イングリット・フリッターのショパンはそよ風のようで、
タングルウッドの森の中を心地よく流れて行きました。 

最後はリヒャルト・シュトラウスの交響詩
「ティル・オイゲン・シュピーゲルの愉快ないたずら」

中世の伝説的ないたずら者。
ティルが様々な人々をからかったり、いたずらをしたりして、
最後に捕まって絞首台にかけられてしまうまでのストーリーを、
さまざまな楽器のモティーフがあらわしているちょっと滑稽な曲。 



< ストーリー >

 「むかし一人の陽気な道化者がいた。―その名は、ティル・オイレンシュピーゲル。―彼はひどいいたずら者であった。―新たな行動に ―待て、偽善者よ ―跳べ、馬を市場の女たちの中へ。― 一足で7マイルも行けるという長靴をはいて逃げる。―こっそり姿を隠す。―僧衣を身につけ情熱と道徳を説く。―だが大きな足もとからならず者の姿が見える。―宗教を嘲笑したことで死におびえる。―騎士となったティルは美しい娘と丁寧な挨拶を交わす。―彼は求愛する。―きれいなバスケットは拒絶を意味した。―全人類への復讐を誓う。―俗物学者の動機。―ティルは、俗物学者に2、3の途方もない命題をだしてそこを去り、彼らを当惑させる。―遠くで顔をしかめる。―ティルの俗謡。―ティルの裁判。―ティルは他人事のように口笛を吹く。―梯子をのぼり絞首台にかけられ、呼吸はとまり、最後のもだえ。ティルの運命は終わった。」


夜のコンサートは8時に開演して10時くらいに終わるので、
終わる頃には満天の星空。
周りが森で暗いだけあって、星がとても綺麗です。 
芝生に寝そべって星空を眺めながらクラシック音楽というのもオシャレですね。
夜は冷えるので上着の持参をおすすめします。

近くにはアメリカを代表する画家、ノーマン・ロックウェル美術館があって
こちらもとても気持ちよい場所。





私たちは翌日さらに北に足を伸ばして、MassMOCA 美術館へ。
古い工場を改装したマサチューセッツ州のコンテンポラリーアートの美術館。






近くには、The Clarkというとても美しい建物の美術館もあります。

タングルウッド周辺は自然に溢れていて
リラックスしながら美術や音楽を楽しめる街がたくさんあります。

機会があればぜひ訪れて頂けたらと思います。



 -------- 
2016年8月6日 
@Koussevitzky Music Shed, Tanglewood

J.アダムズ:Harmonielehre
ショパン:ピアノ協奏曲第2番 ヘ短調 Op.21
R.シュトラウス:交響詩「ティル・オイレン・シュピーゲルの愉快ないたずら」





2016年8月6日土曜日

ニューヨーク日本人理系勉強会さんで発表させて頂きました!


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こんにちは、MUCHOJIです。
初めて当ブログをご訪問の方は、「はじめに」をお読みください。
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先週ニューヨーク日本人理系勉強会さんで発表させていただきました。
テーマは数学と音楽との関係について。

JASS ニューヨーク日本人理系勉強会

ニューヨークに来て以来、いつも感じていたのは、
私の研究は音楽研究者の方と話している時よりも、
理系の研究者の方と話している時の方が、
興味を持って頂きやすいということ。

数学を応用した音楽理論を、理系研究者の方々が
どのように感じてくださるのか興味があったので、
発表の機会を頂けたことに感謝です。

導入でピュタゴラス音律の話をしたあと、
十二音技法とピッチクラス集合論について説明させていただきました。
そして音楽を数学的に作曲したり、分析したりする例を紹介しました。

後半ではピッチクラス集合論の問題点とその解決方法を提案しました。
先週発表した内容は、私の博士論文以外ではほとんど公開していないので、
そのエッセンスだけ、このブログで紹介しようと思います。

ここから先の内容は、口頭発表以外では、
今のところほぼこのブログでだけで公開するお話しです。

ピッチクラス集合論は、数学の集合論を応用し、
音を数字に変換し、数字の組み合わせによって音楽を分析します。
ドは0、ド#は1、レは2…といった形ですね。 





その利点は、作品が持つ様々なコンテクストを考慮に入れることよりも、
音程そのものに内在する意味の解読に重きを置くことより、
伝統的な音楽分析の慣習に捉われない方法で
作品の構造を明らかにできることです。

この特性により、調性音楽で書かれていない音楽(無調音楽)をも
分析することができます。

無調音楽は、調性音楽に存在する調の中心が曖昧であったり、
存在しなかったりすることから、
それまでの伝統的な分析方法では分析することが困難です。

こうした無調音楽を分析するには、新しい方法が必要でしたが、
そのひとつとして登場したのがピッチクラス集合論です。

しかし、ピッチクラス集合論や変換理論、
といった数学を応用した音楽理論の問題点は、
分析をする際のグループ化が音楽的に意味のある方法で
行われないことが多い点。 

たとえば、ピッチクラス集合論の分析では、
この譜面の例のように、丸でグループ化して、
それぞれの集合の関係性を分析します。



しかし、よくみると、不思議な音の選び方をしていることがあります。
特に5小節目にある4つの音からなる集合。

これは、旋律や和音を無視して、
分析者が望む結論を導くために音を選んでいるように見えます。

もっとわかりやすく、国語で説明すると、
 「ここではきものをぬいでください」という文章があったとすると、

⒈ ここで、はきものを、ぬいでください。
⒉ ここでは、きものを、ぬいでください。

のどちらかになりますよね。

3.ここ、ではきものをぬ、いでください。

とは言わないでしょう。
上述の第5小節目のグループ化は、
この、意味や文脈を無視したグループ化と同じことをしているわけです。

調性音楽は、旋律・和声といった調性音楽固有の
音楽的な性質に基づいて音楽的意味のあるグループ化を行っています。

無調音楽でも無調固有の音楽的性質に基づいて
音楽的に意味のあるグループ化を行うべき、というのが私の主張です。

つまり、無調音楽の中にも音楽的に意味のある区切りを見つける、
ということが目的となります。

では、どうやって?
その方法として提案できるのが、

 ① 暗意/実現モデル (Narmour 1990; Narmour 1992)
 ② ポジション探索 (Butler and Brown 1981; Butler 1983; Butler 1989)

の2つを組み合わせる方法です。
この理論の詳細についての説明は別の機会に譲りますが、
この理論はどちらも調性に基づく理論です。

なぜ無調音楽になぜ適用するのか?
と考えられる方もいらっしゃるかもしれません。

でも、たとえ無調音楽が調性音楽とは異なるものを
生み出そうとして作られたとしても、
嫌い嫌いは好きのうち、と同じで、
調性音楽を意識せざるを得ないのです。

だから、調性音楽が耳で聴いてわかるもので音楽的性質を
つくっているならば、それと同じように、
耳で聴いてわかるものから無調固有の音楽的性質を見つけられるはず、
と仮定しました。

 ① 暗意/実現モデル (Narmour 1990; Narmour 1992) の詳細を
ここでは説明するのは難しいのですが、端的に言うと、
暗意/実現モデルは「音楽的に意味のある区切り」になりやすい場所と
なりにくい場所を見つける、区切りのパターン検索として使うことができます。

暗意/実現モデルのみを使って無調音楽を分析した場合にも、
ある程度音楽的に意味のある区切りは見つけることができます。

しかし、そこが区切りであるという根拠が弱かったり、
区切りであると断定しにくかったりする部分も多いです。

そこでもうひとつの、ポジション探索を行うことで、
そこが区切りであることの裏付けを強くできるのでは、と考えました。

ポジション探索の考え方は、調性音楽の長調・短調だけが持つ特徴*1を
手掛かりに一種の「区切り」を見つける方法です。

ポジション探索の考え方によれば、
すべての長調と短調だけがもつ特徴に基づいて、
人間は音楽を聴いているときに、
自分が今何調を聴いているのかを判定しています。
それは、一つの音階の中に現れる特定の距離が出現する頻度です。

ハ長調の中に異なる距離(音程)が何回ずつ出てくるかを
数え挙げてみましょう。

ドとレの間はド#がありますから、距離(音程)は2です。
ミとファの間は黒鍵がありませんから、距離(ステップ)は1です。
ドとミの間は距離(ステップ)は4です。
レとファの間は距離(ステップ)3です。
ドとファの間は距離(ステップ)5です。
最後、最も大きいファとシの間の距離(ステップ)は6です。




このそれぞれが何回ずつ出てくるかを数え上げると、
じつはすべて出現する回数が異なります。

特に、距離1はたったの2回、距離6は1回しか現れないので、
もしこの距離(音程)が曲の中で出てきたら、
それは調を判定する手がかりになるわけです。

この、ポジション探索を暗意/実現モデルと組み合わせて使うと、
無調音楽の分析においても音楽的に意味のある区切りを見つけることが
できるのですが、その分析例はまた別の機会に書きたいと思います。





 *1:厳密には、長調・短調のピッチクラス集合7-35以外に
もう一つこの特徴を持つ集合がある。




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2016年8月1日月曜日

特別講座「音楽×美術 〜様式史からたどる二つの芸術」


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特別講座を開催します!

「音楽×美術 〜様式史からたどる二つの芸術」 

前回の音楽講座に来てくださった参加者の方から、
「音楽と美術が同じ時代にどういう関係にあったのかがわかると面白いですよね」
というご意見をいただきました。

様々な専門家が集まるニューヨークでは、
こうしたときにすぐに専門家さんに相談できるのが素晴らしいところ。
美術史がご専門の礒谷有亮さんが早速、スピーカーを
快く引き受けてくださったので、音楽と美術の特別企画を開催いたします!

Winslow Homer: The Studio (1867)


 ◇概要

音楽と美術。ニューヨークではどちらの芸術にも触れる機会がたくさんあります。
ですが、この二つの分野がどのように発展し、
相互に関わってきたのかを考えることはあまりないのではないでしょうか。
そこで今回は音楽史講座の特別企画として、講師二人の対談形式で、
ルネサンスから20世紀に至るまでの音楽・美術の交錯の歴史をたどります。

各時代の代表的な作品を聴く/見ることを通じて時代様式の変遷を追い、
二つの芸術分野の歴史的展開が一致していたのか、異なっていたのか、
あるいは全く別の関係を築いていたのか、
考える機会を提供できればと思います。

縦と横、両方の繋がりを関連させて見ることで、
芸術はもっと面白くなります。

これまで音楽史講座に参加されていた方はもちろん、
美術や歴史全般に興味のある方のご参加をお待ちしています。


◇講師:礒谷有亮・日比美和子


◇開催日
8月20日(土)


◇時間
14:00~15:45頃


◇場所
お問い合わせを頂いた方にメールでお知らせいたします。


 ◇会費
無料です。
ポットラック形式ですので、何か1品お持ち頂きますようお願い申し上げます。 


◇お申し込み方法
下記メールにてお問い合わせください。
お問い合わせメールアドレス:muchojiあっとyahoo.com
「あっと」を「@」に変えてメールをお送りください。


 ◇お願いと注意事項
自宅を開放して行うため、約10名の定員制となっております。
どうぞご了承ください。
お申し込みの時点で定員に達していた場合は、
その旨を返信メッセージでご連絡いたします。


では、皆様にお会いできるのを楽しみにしています!




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2016年6月11日土曜日

第2回 ♪ 音楽史&音楽理論 講座 ♪ のご案内


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こんにちは、MUCHOJIです。
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6月5日に、第1回の ♪ 音楽史&音楽理論 講座 ♪ を開催いたしました。
お越しいただいた皆様、ありがとうございました!

第1回では、「音楽室に肖像の無い作曲家たち 〜中世・ルネサンスの音楽〜」
と題して、 グレゴリオ聖歌、ヒルデガルト、ジェズアルド、
ダウランド、モンテヴェルディ…などなど、
中世やルネサンスの作曲家たちの音楽を紹介しました。

質疑応答コーナーでは、調性が確立する前の旋法についてもご紹介しました。
調性が確立する前の旋法を使った音楽は、不安定さを感じたり、
少し奇妙な感じもするかもしれませんが、
調性音楽とはまた違った魅力を感じていただけたのではないでしょうか。 

音楽に詳しい方も多かったので、次回以降はもっと専門的な内容も盛り込んで
お話していこうと思っています。

第2回は、7月3日(日)に開催いたします。



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♪ 音楽史&音楽理論 講座 ♪ (シリーズ講座)

 ◇講師:日比美和子

 ◇概要
クラシック音楽は一見、敷居が高そうに見えますが、
実はしくみがわかるとグッと楽しめるようになります。
この講座では、作曲家の人生や性格が伝わるエピソード、
作曲当時の社会状況や歴史的な背景、音楽を形作る音楽理論… といった、
実際の音楽の「裏側」にあるさまざまな要素・要因についてお話ししながら、
おすすめのクラシック音楽の音源を紹介していきます。
シリーズ講座ですが、1回ごともそれぞれまとまった内容でできているので、
ご都合や興味関心に合わせてお越しください。   

第2回音楽講座のご案内はこちら  
 ↓


 第2回:
ヴィヴァルディ、バッハ、ヘンデル 〜ルネサンスからバロック音楽へ〜

 ◇開催日
7月3日(日)

 ◇時間
14:00~15:40頃

 ◇場所
お問い合わせを頂いた方にメールでお知らせいたします。 

◇会費
大人:$10

◇お申し込み方法
下記メールにてお問い合わせください。
登録フォームをお送りいたします。

お問い合わせメールアドレス:muchojiあっとyahoo.com
「あっと」を「@」に変えてメールをお送りください。



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◇全8回シリーズで予定される内容

第1回:6月5日(日)
 音楽室に肖像の無い作曲家たち 〜中世・ルネサンスの音楽〜

第2回:7月3日(日)
 ヴィヴァルディ、バッハ、ヘンデル 〜ルネサンスからバロック音楽へ〜

第3回:
 ハイドン&モーツァルト 〜古典派の音楽〜

第4回:
 ベートーヴェン 〜古典派からロマン派へ〜

第5回:
 ブラームス、シューマン、メンデルスゾーン 
   〜ドイツ・ロマン派の巨匠たち〜

第6回:
 ドヴォルザーク、チャイコフスキー、ストラヴィンスキー 
   〜国民楽派とロシアの音楽〜

第7回:
 ドビュッシー、ラヴェル、サティ 
   〜フランス印象主義とその後〜

第8回:
 20世紀の音楽とアメリカの音楽 〜クラシック音楽の未来〜




※ 講義の内容は予告なく変更されることがあります。ご了承ください。


皆様のご参加をお待ちしています!




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2016年6月9日木曜日

カタコンベで聴く瞑想の音楽 アタッカ弦楽四重奏団 ハイドン「十字架上のキリストの七つの言葉」


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こんにちは、MUCHOJIです。
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6月8日 アタッカ弦楽四重奏団
    @Crypt Chapel of The Church of the Intercession 

今日は配慮が行き渡らず反省の1日でした。 

クラシックコンサート予習講座 室内楽の楽しみ方
  〜アタッカ弦楽四重奏団を聴く〜」にお越しいただいた方、
ありがとうございました。

アタッカ弦楽四重奏団のコンサートのチケットが完売してしまい、
来られなかった方には申し訳ございません。

コンサートが良かっただけに余計に反省の1日でした。
次回はチケットの残席なども随時チェックするようにしたいと思います。

さて、予習講座では、ハイドンの時代の楽器と現代の楽器の違いや、
演奏法の違い、演奏曲目の「十字架上のキリストの七つの言葉」
などについて解説しました。

それから徒歩移動して、コンサート会場のある教会へ。



アッパーマンハッタン、West 155th Streetの高台の上の広くて美しい墓地の傍にある
Crypt Chapel of The Church of the Intercession 
薔薇が美しく咲く庭の横の回廊を通って奥に行くと、右手に立派なチャペルがあります。



でも今日の目的地はチャペルではなく… 

普段は入れない、地下のカタコンベです。
墓地を左手に見ながら地下への階段を下っていくと…

薄暗い、蝋燭に照らされたとっても雰囲気ある空間が!!!


狭い空間ですが、とてもよく反響します。

このカタコンベでハイドンの「十字架上のキリストの七つの言葉」って
ぴったりすぎてぞくぞくします。

十字架に磔にされたイエス・キリストが遺したと言われる七つの言葉。
とても有名な内容ですが、その七つの言葉に音楽をつけたのは音楽史上、
4人の作曲家しかいません。

古くはシュッツ、ハイドン、デュボアときて、現在も存命のグヴァイドゥーリナ。
その中でもハイドンの「十字架上のキリストの七つの言葉」が最も有名。

構成は次の通り。

イントロダクション Ⅰ
第1ソナタ 「父よ!彼らの罪を赦したまえ」 Largo
第2ソナタ 「あなたは今日、私と共に楽園にいる」 Grave e cantabile
第3ソナタ 「ギュナイ(女の方)、これがあなたの息子です」 Grave
第4ソナタ 「わが神よ!何故私を見捨てたのですか?」 Largo
イントロダクションⅡ
第5ソナタ 「渇く!」 Adagio
第6ソナタ 「果たされた!」 Lento
第7ソナタ 「父よ!あなたの手に私の霊を委ねます」 Largo
地震  Presto e con tutta la forza



ニ短調という、レクイエムに多く使われる調性を用いていて、
またすべてが緩徐楽章(ゆるやかなゆったりとした曲調)で書かれていることからも、
一般的に瞑想的な音楽だと言われています。

ただし... 今日聴いたアタッカ弦楽四重奏団バージョン
(チェロのアンドリュー・イーさんと他のメンバーによる編曲)は、
その演奏スタイルにもよるのでしょう、「瞑想的」というより、
うちに秘めた激しさが猛烈な勢いで溢れ出す、とてつもなく壮大で
ドラマティックな音楽でした。

七つの言葉が発せられた状況、ストーリーが目に浮かぶ音楽。

たとえば、罪無きイエスが人々の代わりに神に捨てられるソナタⅣ
イエスにとって神に捨てられるということが、どれほど恐ろしいことか、
音楽がそれを容易に想像させてくれました。

また、最初の第一の言葉と第七の言葉で、
イエスは、聖なる神のことを「わが神」ではなく「父よ」と呼びかけるのですが、
特に最後の、自分の肉体の死がまもなくやってくることに気づいていたイエスが、
自分を御父にゆだねます、と言うときの「父よ」という呼びかけは、
幼児の父親に対する呼びかけにも似た純粋なものではなかっただろうか、と思えるほど。

そういった、イエスの少し人間らしい心の動きも音楽が見事に描いていました。 
作曲者ハイドンの偉大さを感じるのはもちろん、それを素晴らしい形でアレンジした
アタッカ弦楽四重奏団の音楽に圧倒されました。





黒の衣装で登場したアタッカ弦楽四重奏団。雰囲気たっぷり。

狭い空間なので音の振動がびりびりと伝わってきて、すごい迫力でした。
特に、最後の「地震」は、とても4人で演奏しているとは思えない、
まるでオーケストラのような壮大な響き。

一方で、繊細なピアニッシモも美しい。
ソナタⅦの消え入りそうなピチカートで告げられるイエス・キリストの
死の瞬間には、神々しい光が見えた気がします。

本日参加できなかった方へ。
とても素敵な場所なので、また別の機会にご一緒できますように。

クラシックコンサート予習講座は、
おすすめのコンサートがある際に随時企画していきますので、
興味のある方はぜひご参加いただければ幸いです。


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2016年6月8日 
アタッカ弦楽四重奏団 @Crypt Chapel of The Church of the Intercession 

ハイドン:十字架上のキリストの七つの言葉 



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2016年5月30日月曜日

クラシック予習講座のご案内♪


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クラシック予習講座のご案内♪ 

♪ 知ればナルホド面白い クラシック予習講座 ♪  
6月8日(水) 室内楽の楽しみかた〜アタッカ弦楽四重奏団を聴く〜

クラシック音楽の予習をしてからコンサートを楽しむ、予習講座。
今回はアッパーマンハッタンにある教会で、弦楽四重奏曲を聴きませんか?
次のような方を対象としています。 

♪ いままであまり聴いたことのないジャンルを聴いてみたい。
→ クラシック音楽の中で私が大好きな弦楽四重奏の
さまざまな見どころ&聴きどころを予めお伝えします。
予習をしたらコンサート中に寝ない、という保証はできませんが!(笑) 

♪ せっかく聴くなら一流の演奏を聴きたい。
→ アタッカ弦楽四重奏団は、世界的な室内楽コンクール優勝経験もある弦楽四重奏団。
アメリカの若手弦楽四重奏団の中でもトップクラスの実力派です。 

♪ 芸術マニアがおすすめする場所に行ってみたい
→ 一般的なコンサートホールもいいけれど、教会のカタコンベみたいな空間で
音楽を聴くってユニークでお洒落だと思いませんか?  


◇概要
予習講座を 18:30より開催、そのあとコンサート会場に徒歩移動します。
会場でワインとチーズを楽しんだあと、20:00から約1時間の弦楽四重奏曲の
コンサートを聴きます。

◇開催日
6月8日(水)


◇集合時間
18:30


◇集合場所
お問い合わせを頂いた方にメールでお知らせいたします。


◇コンサート会場
Crypt Chapel of The Church of the Intercession
550 West 155th Street, New York, NY 10032  


◇コンサートのチケット料金
一般:$35

※コンサートのチケットの手配は各自でお願いいたします。
下記のウェブサイトよりそれぞれご購入ください。
The Crypt Sessions: Attacca Quartet 

会場についての詳細はこちら


 ◇コンサートのプログラム
ハイドン:十字架上のキリストの最後の7つの言葉


◇予習講座に参加ご希望の方へ
予習講座から参加をご希望の方は、メールでお問い合わせください。 
お問い合わせメール:muchojiあっとyahoo.com
「あっと」を@に変えてメールをお送りください。


 ◇お願いと注意事項
コンサートのチケットの手配は致しかねますので、各自にてお願いいたします。 
皆様のご参加お待ちしています!
ぜひ一緒に音楽を楽しみましょう!






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2016年5月28日土曜日

講演させて頂きました!&音楽講座のご案内 ♪

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こんにちは、MUCHOJIです。
初めて当ブログをご訪問の方は、「はじめに」をお読みください。
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先日、ニューヨークの様々な分野で活躍する方々が集う勉強会で、
講演させて頂きました。

しくみがわかるとクラシック音楽はもっと楽しめることを知って頂くために、
華やかなクラシック音楽の裏側にある音楽理論についてお話ししました。


準備段階では、最先端の現代音楽の理論まで含む発表での説明の仕方に
頭を悩まされましたが、クラシック音楽初心者の方にも音楽に携わる方にも
「とても面白かった!」と感想を頂くことができ良かったです。



様々な分野・職種の第一線で活躍なさる方々からの質問には、
発表内容を自分の領域に生かそうという高いモチベーションを感じ、
刺激を受けました。


聞きに来てくださった方、運営スタッフの皆様に心から感謝しています。

さらにクラシック音楽を楽しんで頂けるよう音楽講座を企画しているので、
ぜひ遊びに来て頂けたら嬉しいです♪ 




さて、ここからは新しい企画のご案内です。
先月アッパーマンハッタンに引越したおかげで、
自宅にイベントスペースができました。

クラシック音楽にもっと親しんでいただきたいという思いから
《音楽史&音楽理論の講座》と《コンサート予習講座》という
2種類の講座を開催していきます!

 ひとつめの《音楽史&音楽理論の講座》 の内容。


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♪ 音楽史&音楽理論の講座 ♪ (シリーズ講座)

◇講師:日比美和子 

◇概要
クラシック音楽は一見、敷居が高そうに見えますが、
実はしくみがわかるとグッと楽しめるようになります。
この講座では、作曲家の人生や性格が伝わるエピソード、
作曲当時の社会状況や歴史的な背景、音楽を形作る音楽理論… といった、
実際の音楽の「裏側」にあるさまざまな要素・要因についてお話ししながら、
おすすめのクラシック音楽の音源を紹介していきます。
シリーズ講座ですが、1回ごともそれぞれまとまった内容でできているので、
ご都合や興味関心に合わせてお越しください。 

第1回音楽講座のご案内はこちら
 ↓
    ↓

第1回:
音楽室に肖像の無い作曲家たち 〜中世・ルネサンスの音楽〜

◇開催日
6月5日(日)

◇時間
14:00~15:40頃

◇場所
お問い合わせを頂いた方にメールでお知らせいたします。

◇会費
大人:$10 

◇お申し込み方法
下記メールにてお問い合わせください。
登録フォームをお送りいたします。

お問い合わせメールアドレス:muchojiあっとyahoo.com
「あっと」を「@」に変えてメールをお送りください。



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◇全8回シリーズで予定される内容

第1回:6月5日(日)
 音楽室に肖像の無い作曲家たち 〜中世・ルネサンスの音楽〜 

第2回:
 ヴィヴァルディ、バッハ、ヘンデル 〜ルネサンスからバロック音楽へ〜 

第3回:
 ハイドン&モーツァルト 〜古典派の音楽〜

第4回:
 ベートーヴェン 〜古典派からロマン派へ〜

第5回: 
 ブラームス、シューマン、メンデルスゾーン 
   〜ドイツ・ロマン派の巨匠たち〜

第6回: 
 ドヴォルザーク、チャイコフスキー、ストラヴィンスキー 
   〜国民楽派とロシアの音楽〜

第7回:
 ドビュッシー、ラヴェル、サティ 
   〜フランス印象主義とその後〜 

第8回:
 20世紀の音楽とアメリカの音楽 〜クラシック音楽の未来〜 




※ 講義の内容は予告なく変更されることがあります。ご了承ください。


皆様のご参加をお待ちしています!
2つめの講座《コンサート予習講座》については、
また別の記事でご紹介いたします!





2016年3月14日月曜日

革命的!? に斬新な音楽ホールで スプリング・レボリューション!


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こんにちは、MUCHOJIです。
初めて当ブログをご訪問の方は、「はじめに」をお読みください。
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2016年3月9日
スプリング・レボリューション! byアンダーソン&ロエ ピアノデュオ

アンダーソン&ロエ ピアノデュオを聴きにブルックリンのウィリアムズバーグへ。
アンダーソン&ロエ といえば、Youtubeで噂を呼び再生回数100万回超。
アメリカのクラシックチャートで12週連続トップの 快挙をなしたピアノデュオ。

その演奏は、 「酔っ払ったモーツァルト」「セクシーすぎるカルメン」 
なんて呼ばれていたりもします。
演奏だけでなく、舞台上で行われるすべてをエンターテイメントに仕立て上げる
ピアノデュオです。

たとえばこんな感じ。

セクシーすぎるカルメン・ファンタジー
Carmen Fantasy for Two Pianos (ANDERSON & ROE)



禁欲と誘惑… ピアソラのリベルタンゴ
Anderson & Roe Piano Duo play "LIBERTANGO" (Piazzolla)



今日は「スプリング・レボリューション」と名付けられた春がテーマのコンサート。
とはいっても一般に「春」と聞いてイメージする暖かで華やかなプログラムのような、
そんな生易しいものではなく、ストラヴィンスキーの「春の祭典」とか、
ピアソラの「春」など、刺激的で聴く方もどっぷり春の魔力に浸かっちゃうような
曲目がずらり。 

RITE OF SPRING 100 Trailer - Anderson & Roe Piano Duo
(ちょっと気持ち悪い表現があるので、虫が苦手な方は2つめのビデオをどうぞ)



Anderson & Roe - THE RITE OF SPRING (1 of 10) - Introduction to Part I



実は今日のコンサート会場“ナショナル・ソーダスト National Sawdust”が
どんなところなのか、というのも興味があって、これも公演に出向いた理由のひとつ。
ナショナル・ソーダストは、ブルックリンのウィリアムズバーグに2015年9月に
オープンした音楽ホール。

作曲家のパオラ・プレスティーニに率いられ、
有名アーティストたちのコミュニティによってキュレートされた
ナショナル・ソーダストは、ミュージシャンたちが実験と探求を行う場となっていて、
かなりコアなファンから初心者まで、ジャンルを問わずにお手軽に価格で音楽を
楽しめる場となっています。

元々は1世紀の歴史を持つ工場だった場所は、レンガシェルの造りを残しながら、
かなり柔軟で最先端の音楽ホールとなっています。

バーもあってアルコールを楽しみながら演奏を聴くこともできるので、
ライブハウスのようでもあります。 

まず会場についてみて、おお!と思ったのは、これまでのコンサートホールや
ライブハウスのイメージの「ブラック」ではなく、「ホワイト」という斬新なホール。
ホール内装が四角ではなく、アシンメトリーな多角形でできているのも特徴。


かっこいい!


ブルックリンのウィリアムズバーグの中でも、Bedford Avenue周辺は特におしゃれな
地域ですが、これは抜きん出ています。
ちなみに外観はこんな感じ。内装とのギャップがまたいいです。


収容人数は1階が約60人。バルコニーも入れると約80人といったところでしょうか。
いった当日は客席の間隔にかなり余裕をもたせてあったのですが、
頑張れば100〜120人くらいは入りそう。

壁の細長い照明は消えているときはニューヨークのバスのドアについている
開閉ボタンにそっくりな黄色ですけど…

あと、職業柄?舞台の構造などにいつも目が言ってしまうのですが、
一番面白いと思ったのは、舞台上の壁に電源などの端子があること。
普通は舞台のフロアポケットのように、舞台上にポケットがあってその下に隠されていることが多い、もしくは壁に隠されていることが多いのですが、
このように思いっきり見せる端子ってクラシックの音楽ホールとして使われる場としては
とっても斬新!

暗くて見えづらいけど、端子が壁面にむきだし。

さて、アンダーソン&ロエの演奏ですが、彼らは単なるピアニストではなくて
アクター&アクトレス。終始エンターテイナーに徹しているところがすごい。 


そして、そのアクティングを支えていたのが照明。
この日最初に演奏されたのは、ストラヴィンスキーの「春の祭典」ですが、
まず暗転から、かすかな灯りの中で静かにテーマが流れていたところで、
音楽の流れが急激に変化するタイミングで突如舞台が真っ白に。

春の祭典の個々の楽章に合わせて様々な色の照明が当てられていましたが、
その切り替えのタイミングは音楽の流れが劇的に変わる部分に合わせていたので
結構シビアでした。

照明さんがスコアが読める人であることは少ないので、通常、音楽的知識のある人が
補助員として、あるいはステージマネージャーが楽譜を追いながら適切な箇所で
照明さんに指示を出しています(キュー出し)。

失敗するととんでもないことになるので、かなり緊張する役目。
正直、この「春の祭典」のような作品のキュー出しはあまり引き受けたくない…

実は日本で彼らの演奏を聴いたときは、照明演出がなかったので、
私を含め、Youtubeを見すぎた人は「アレ?」と思ったと思うんです。
でも、こうして照明アリだとエンタメ性がぐっと増して、
彼らの表現したい世界観が伝わってきました。改めて照明の効果ってすごい。

ちなみにアンダーソン&ロエは、楽譜はiPadに投影されたものを使用していて、
Bluetoothの足ペダルで譜めくりをします。足ペダルはこういうの。
(ピアノのペダルの左にある黒い物体)



これは、譜めくリスト(譜めくりさん)を用意しなくていいという利点のためだけでなく
たぶん彼らは、内部奏法(鍵盤ではなくピアノの弦を直接はじくなどして音を出すこと)
を結構な頻度で行うから、というのもあると思います。

譜面台や紙の譜面は内部奏法をするときに邪魔ですから。

アンコールはバーンスタインの「マンボ」。
「この曲にはお客さんの協力が必要なんですよ」という前置きをMCでしておいて、
「マンボ!」の掛け声をいれなきゃいけない箇所をお客さんとリハーサルしてから
スタート。

お客さんも掛け声を入れるタイミングを逃すまいとドキドキしながら聴くという
アンコールでした。

演奏のみならず、アイコンタクト、ちょっとした仕草、MC、 といった舞台上で行われるすべてを まるごとエンターテイメントに仕上げるプロ意識に脱帽。

そしてこのナショナル・ソーダストという音楽ホール。
収容人数とチケット価格からして絶対採算が取れないはずなのに、
質の高い演奏に安いチケット価格...
ドネーションなどで賄っているのでしょうか。

アーティストによるキュレーションなので、
個性的であれば若くても出演機会が得られる点でアーティストにとっても嬉しい。

ニューヨークにいるからこそ、アーティストも聴衆も得をしていることって
たくさんあるんだろうな、と改めて思いました。

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2016年3月9日 @National Sawdust
アンダーソン&ロエ ピアノデュオ

ストラヴィンスキー:春の祭典
グルック:オルフェウスとエウリディーチェより
ピアソラ:春
     オブリビオン
     リベルタンゴ



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2016年3月7日月曜日

ネーミングセンスが秀逸!アンリ・サラAnri Salaの“ラヴェル・ラヴェル・アンラヴェル”


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こんにちは、MUCHOJIです。
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SOHOにあるニューミュージアムで開催されているアンリ・サラAnri Salaの企画展
“アンサー・ミー Answer me”。

 1974年、旧共産圏のアルバニアに生まれたアンリ・サラ。
光や音、音楽を言語として物語を表現するというインスタレーションで
世界的に注目を集めています。

彼の作品は、言語、構文、構造、音楽と戯れることによって作られているので、
美術に興味のある人にはもちろん、私のように音楽に関心を持つ人も楽しめます。

パリでビデオ制作を学び、現在はベルリンを拠点に活躍しています。
デビュー作の“インタビューInterview”(1998)は、自分の母親の過去や記憶にまつわる
ドキュメンタリー作品。

制作のきっかけは、70年代に共産主義青年同盟の闘志だった母親が残した
TVインタビューの映像。
ところが、映像のみで録音が見つからなかったので、何を話しているのかがわからず、
母親本人も何を話しているのかまったく記憶がなかったそう。

この「言葉探し」のために、サラは聾学校を訪ね、
見事、口唇術で母親の言葉を復元することに成功したのです。
しかし、そこで自分が話している内容が、
マルクス・レーニン主義の理想の鸚鵡返しにすぎなかったことを知った母親は、
それは自分の発言ではない、と否定。

“インタビューInterview”は、そうした抹殺された記憶や、
歴史を浮かび上がらせてしまったのです。 

こうした初期の作品で、政治的、自伝的要素を含む映像を発表する一方、
サラは常に音と空間の関係性を再構築することに強い興味を持っていました。
そして最近ではイメージと音への関心に基づいた作品を、
建築を取り巻く音やありふれた光景に注目するといった方法で作っています。
そこでは音だけでなく、その音が発せられる場所、建物といった他の要素にも
すべて意味があって、観るものは謎解きのように
それを読み解かなければならないのです。

今回の注目作品の一つ “ラヴェル・ラヴェル・アンラヴェルRavel Ravel Unravel”(2013)は、
モーリス・ラヴェルの「左手のための協奏曲」を演奏する2人のピアニストの手元を
映した映像を編集・再構築して、同時に投影するビデオインスタレーション。

正確には“Ravel Ravel”(2013)という作品と、“Unravel”(2013)という作品の2つに
分かれています。



 “Ravel Ravel”は、映像が投影される部屋に吸音材がびっしり敷き詰められていて
現実にはエコーが起き得ない環境で、2つの演奏がシンクロナイズしたり
少しズレたりするのが、音楽的なエコーの効果を生み出すという逆説的な作品。 

ラヴェルの「左手のための協奏曲」といえば、
あの有名な哲学者ルードヴィヒ・ウィトゲンシュタインの兄で、
第一次世界大戦で右手を失ったパウル・ウィトゲンシュタインのために
ラヴェルが最初に書いたピアノ協奏曲。 

考えてみたら普通コンサートで同じ曲を同じピアニストが同時に弾くところを
見ることはないので、こうしたビデオで演奏家を観察すると、
いろんなことがわかります。 

オーケストラが加わる部分は(編集・再構築されたことによってですが)
わりとシンクロナイズしているけど、カデンツァのようにソリストの自由度の高い部分は
2人のピアニストの間でかなりズレが生じます。

そしてもっと注意深く聴いてみると楽譜のオリジナルのテンポとは
ちょっと違うことに気づきます。 

演奏には使わない右手はどうしてるのかな、と眺めていると、
右手は脱力していたり、ピアノのフレームを握って支えていたり、
リズムを取っていたり… で、音では何も語らない右手は、
映像では雄弁に音楽を語っているのです。

そして2人の演奏家の個性がそれぞれの映像に表れています。
画面には右手の影がぼやーっと映りこんでいたり、
最後に脱力した右手を映し続けて(この曲では右手は使わない)
右手に注目させているところが、なんだか皮肉っぽい。

影の映り込み

 “ラヴェル・ラヴェル・アンラヴェルRavel Ravel Unravel”は
タイトルのつけ方が秀逸だと思うのです。

“Ravel Ravel”はラヴェルの名前を二重にして、
2人のピアニストによる演奏が重ねられていることを意味しているのだと
解釈できますが、一方で英語で“ravel”(動詞)は“to disentangle”という意味で、
2つの演奏のテンポが同期化されていないことを示唆しています。

そして隣り合う次の部屋にある作品“Unravel”ではDJの女性が、
ラヴェルの左手のための協奏曲を演奏した2つのコンサートを収録したレコードを、
ターンテーブル上で物理的に操作して(手動で演奏を速めたり遅めたりして)
2つの録音を調和させようとしています。

2つの作品の原理は異なっているけれど、お互いに補完しあっているというわけ。 

もうひとつ興味深かった作品は、
“ザ・プレゼント・モメントThe Present Moment (in B-flat)”(2014)と
“The Present Moment (in D)”(2014) です。

これも同時に投影されるビデオインスタレーション。
シェーンベルクの「浄められた夜」(1899)に基づいた作品。 

シェーンベルクの「浄められた夜」といえば、D(レ)の音とB-flat(シ♭)が
とても印象的に何度も繰り返し現れる作品ですが、
そこからDとB−flatを取り出して、2つの室内楽グループがひとつはDに焦点をあてて、
もうひとつはB-flatに焦点をあてながら、
袋小路に囚われたみたいにひたすら演奏している映像が2箇所で同時に流れています。

この曲を知っていれば今どこを演奏しているのかだいたいわかるのですが、
断片的で盛り上がりとかが全部削除されていて、
あの恍惚的なクライマックスを迎えることなく最初のテーマに戻ってしまうので、
とても奇妙な感じ。 

しかも天井を見上げると、パーカッションが天井から吊るされていて、
無人でドラムを叩いているという… その不気味さは死の宣告を連想させます。 


ユダヤ人のシェーンベルクはナチス・ドイツの迫害を逃れてアメリカに移住。
ラヴェルが「左手のための協奏曲」を贈ったパウル・ウィトゲンシュタインも
キリスト教に改宗した家系のユダヤ人で1938年にアメリカに出国。
どちらにも「戦争」「ユダヤ人」というキーワード。 

サラの作品は、言語、構文、構造、音楽と戯れながら、歴史との対話をしているので、
作品の中に隠された文脈がわかればわかるほど楽しめるのでしょう。

部屋全体に満ちる音楽や映像にどっぷり浸かりながら謎解きをしているようで
観終わった後は心地よい消耗感。

ちなみにニューミュージアムに行くなら木曜の夜7:00からはPay what you wishなので、
ほぼ無料で展示を見ることができます。


● Link
  Anri Sala: Answer me(2016年2月3日〜4月10日@ニューミュージアム)


【Soka University のコンサートホールがすごい!】

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