2016年2月24日水曜日

ジュリアード弦楽四重奏団 チェリスト ジョエル・クロスニック最終シーズン


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こんにちは、MUCHOJIです。
初めて当ブログをご訪問の方は、「はじめに」をお読みください。
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2016年2月22日
ジュリアード弦楽四重奏団withアストリッド・シュウィーン(チェロ)

From Juilliard School website

さて、私はちょっと姑息な手を使って、未だ美術館やコンサートを学生の身分で
享受しているわけですが、そうするとたまにコンサートでは
意外な席に座る羽目になることがあります。 

2月22日のジュリアード弦楽四重奏団のコンサートで、
ラストミニッツでチケットを買いに来た自称 “学生”に充てがわれた席は、
最前列センター。
奏者椅子の裏側が見える席なんてかなり久しぶり。 
というわけで奏者の動きがつぶさに見える場所で聴くことになりました。

本日の席からの眺め...


曲目は、 

モーツァルト:弦楽四重奏曲 ハ長調 K.465「不協和音」
ワーニック:弦楽四重奏曲 第9番 (ニューヨーク初演)
シューベルト:弦楽五重奏曲 ハ長調 D956 (チェロ/共演:アストリッド・シュウィーン) 

ジュリアード弦楽四重奏団、登場しただけで会場大盛り上がり。
なにしろ場所はジュリアード弦楽四重奏団のホームグラウンドともいうべき
ウェストサイド65丁目。
しかもこのカルテットで最古参、42年間チェロを務めたジョエル・クロスニックが
今シーズン退団するわけで、彼がメンバーとして演奏する機会は
もう残り数える程なわけです。 

ところが、前半のモーツァルトの弦楽四重奏曲「不協和音」の演奏が終わったところで
会場の1階中央で怒鳴り声が…
ダブルブッキングらしいトラブルが起きたようで約10分間に渡り係員との押し問答が。 
こういうときにどう対応するかでホールの力量がわかるわけですが、
昨日は警備員がやってきてやっと収まった次第。
その様子を心配そ〜に舞台袖からのぞいている舞台スタッフ… 

このあとワーニックによる現代曲が演奏される予定で、
プログラム後半には演奏に小一時間かかるシューベルトの大作 弦楽五重奏曲が
控えているのですが。どちらかが席を譲ったら済むことじゃないかなと思うのですが、
座席というのは特定の人たちにとってはとても重要なのでしょう。 

やっと落ち着いて次はワーニックの弦楽四重奏曲第9番。
リチャード・ワーニックRichard Wernickは1934年ボストン生まれの作曲家。
今年の6月の日本公演でも日本初演されるようです。 

本人による解説によれば、
音楽に精通していないほとんどの聴衆は彼の作品を、
それがとても半音階的という理由で、セリエル・ミュージックや十二音技法による
音楽と勘違いするようですが、そこにはセリエリズムも12音技法もなく、
彼はそうした作曲方法をとったことは一度もないそう。

彼自身は半音階の和音テクスチュアにとても魅力を感じているけれども、
その音楽はとても美学的な意味で「新古典主義的」とのこと。 

ワーニックの弦楽四重奏曲第9番は2つの楽章に分かれていて、
どちらも、いとも簡単にかりそめの価値や利益を促す、
あきれるほどに簡略化されたポピュリズム的なカルチャーへの反応だそう。

「Assertive, Aggressive」と付けられた第1楽章は、その名の通り、
独断的で攻撃的で揺らぎない強さがあります。

冒頭のトーン・クラスターから展開する複数の鋭いモティーフによって作られた楽章で、
かなり高度に展開された、ソナタ形式とも考えられうる構造を持っています。

 「“per una selva oscura…”」と付けられた第2楽章は、悲歌のようなもので、
第1楽章の記憶を思い起こさせながらも、果てしなく続く繰り返される
音の鼓動によって、喪失感をもたらします。
そして最後にチェロのソロが希望をほとばしらせて閉じられます。
2本の異なる弦の上で同じ音を弦を交互に変えて延々と弾いていく奏法が
オスティナートのように続いていくのですが、
弾く弦の違いによる音色の差異が生まれとても耳に残ります。
現代音楽にしてはとても聴きやすい曲。 

クロスニックは見た目とってもおじいちゃんになってしまったのですが、
どの曲でも独特のかすれのある音色が際立って
かつての彼の演奏が容易に思い起こされます。

ワーニックの作品は、ヴァイオリン2人がパート譜で演奏しているのに対して、
ヴィオラとチェロはスコアで演奏。
譜面がめくりやすいようにクロスニックは楽譜にピンクの付箋を貼っていたりして
なんだか可愛いらしい。

そしていよいよ後半のシューベルトの弦楽五重奏曲 ハ長調 D956
共演はチェリストのアストリッド・シュウィーン。 

シューベルトの生涯最後の室内楽作品であるとともに、
彼の弦楽五重奏としては唯一の作品。
死のわずか3ヶ月前に書かれた傑作です。

弦楽五重奏曲には、弦楽四重奏にヴィオラを加える「ヴィオラ型」と、
弦楽四重奏にチェロを加える「チェロ型」の2タイプあり、
モーツァルトやベートーヴェンはヴィオラ型を好み、
ボッケリーニやシューベルトはチェロ型を好みました。

ちなみにブラームスは若い頃にチェロ型を試みようとして不完全に終わり、
後年になってヴィオラ型で2曲の弦楽五重奏曲を残しています。

内声の充実を求めたヴィオラ型、厚く深みのある響きを求めたチェロ型。
作曲家によって好みが異なるのはとても興味深いです。

シューベルトのハ長調の作品といえば、交響曲「グレイト」が有名ですが、
「グレイト」に屈託のない明るさとか、華やかさに満ちているのに対して、
この弦楽五重奏曲は、心が引き裂かれるような切なく美しいメロディーが
連ねられているとても内面的な音楽。

全曲を通すと1時間近くかかるのですが、
ジュリアード弦楽四重奏団とアストリッド・シュウィーンによる演奏は、
まったく長さを感じさせない集中力と躍動感に溢れた演奏。

終楽章の最後はジェットコースターのようにスリリングな勢いに身を任せてしまって、
お客さんも思わず笑っちゃうほど。

終演後は聴衆すべてがスタンディングオベーション。 

でもコンサートはそれだけで終わらず。
終演後、42年間このカルテットに所属し今シーズンで退任するチェリスト
ジョエル・クロスニックを表彰してジュリアード音楽院からゴールドメダルが
贈られるというイベントが。 



後任は、その直前にジュリアード弦楽四重奏団と一緒に
シューベルトの弦楽五重奏曲ハ長調D956を演奏した、
アストリッド・シュウィーンAstrid Schweenと発表されました。

映画「25年目の弦楽四重奏」では歳をとったチェリストが
ベートーヴェンの弦楽四重奏曲 第14番を演奏する途中で
若い女性チェリストに交代するけど、ジュリアード弦楽四重奏団は、
その直前に一緒に演奏していたチェリストが後任ですよ!という発表で、
ドラマティックでなおかつ粋な演出。

アストリッド・シュウィーン。ジュリアード弦楽四重奏団初の女性奏者で、
初のアフリカン・アメリカンでもあります。

とてもチャーミングな笑顔でスピーチするクロスニック。 

会場にはロバート・マン(95歳?!)、ジョエル・スミルノフ、
サミュエル・ローズらジュリアード弦楽四重奏団の旧メンバーの姿も。

もちろんクロスニックの現在・過去の生徒もたくさん来ていて
あたたかい拍手を贈っていました。
いかにクロスニックが愛されているかが伝わってきました。 

今年の6月に予定されている日本公演はクロスニックのラストアピアランスだそうです。


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2016年2月22日 ジュリアード弦楽四重奏団  @リンカーンセンター Alice Tully Hall 
第1ヴァイオリン:ジョセフ・リン 
第2ヴァイオリン:ロナルド・コープス 
ヴィオラ:ロジャー・タッピング 
チェロ:ジョエル・クロスニック  

モーツァルト:弦楽四重奏曲 ハ長調 K.465「不協和音」 
ワーニック:弦楽四重奏曲 第9番 (ニューヨーク初演) 
シューベルト:弦楽五重奏曲 ハ長調 D956 (チェロ/共演:アストリッド・シュウィーン)


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