2016年1月25日月曜日

もはや追随不可能の領域へ!? クス弦楽四重奏団

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こんにちは、MUCHOJIです。
初めて当ブログをご訪問の方は、「はじめに」をお読みください。
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2015年6月12日
クス弦楽四重奏団 & 赤坂智子(ヴィオラ)

ドイツの中堅カルテット、クス弦楽四重奏団
チラシやCDのプロモーション写真もいかにも超インテリ集団を匂わせていて
(お会いしてみると冗談も大好きなフレンドリーな方々ですが)
切れ味のよい刃物でスパスパと作品に切り込むがごとく、
聴きなれた曲ですらも斬新に聴かせてくれる。

その卓越した技術と他の追随を許さない音楽性は、
現在国際的に活動中のカルテットの中でも類を見ません。

今回はミュンヘン国際コンクールで第3位を受賞し、
ベルリンを拠点に世界の大物たちと渡り合う
日本が誇る気鋭のヴィオラ奏者、赤坂智子さんとの共演で、
モーツァルトとブラームスの弦楽五重奏を奏でました。

実は、今回のプログラムの予定では、1曲目には、
モーツァルト作曲の弦楽五重奏曲 第4番 K.516が演奏されるはずでした。

しかし、モーツァルトの弦楽五重奏曲 第1番 K.174が
誤って演奏されるというアクシデントが。

この曲目の変更は予め決められていたものではなく、
突発的に起きたことで、「誤って」という字義通り、
演奏者とホール側スタッフとの直前の確認不足によるもの。

全国ツアー中の演奏家というのは、
各地で演奏するプログラムが微妙に異なっていることも多く、
今回のクス弦楽四重奏団も複数のプログラムを用意して行われたツアー。

コンサートのリハーサルは、小編成の室内アンサンブルは殊に
全曲を通してリハーサルをすることも少なく、確認だけに留めたり、
不安な箇所を重点的にリハーサルしたりすることが多いことに加えて、
複数のプログラムでツアーしている演奏家たちが、
リハーサルで次の日の公演の曲目を演奏していることも結構あったりします。

そして、ホールスタッフがリハーサル中
ずっと付き合っていられるわけでもない。

こういうことがわかっていると、
演奏者やホールスタッフを一方的に責めるのも難しい気がします。
人間ですし。

もちろん、そういうすれちがいが起きないように
ホールスタッフが注意を怠らないのはもちろんなのですが、
そうした不測の事態が起きたときに、お客さんとして、
それを単に批判するのではなく、(実際、演奏は素晴らしかったのだから)
プラスにとらえることができるといいなと思います。

この公演の場合は、弦楽五重奏曲4番という、
モーツァルトの愛したト短調という調で書かれた
切なく美しい曲を聴くことを目的に来た方もいるでしょう。
それが裏切られて残念と思う方がいるのもわからなくもない。

でも、その弦楽五重奏曲第4番の代わりに誤って演奏された
弦楽五重奏曲第1番は、室内楽好きのコンサートゴーアーでも、
生演奏で聴く機会はかなり少ない。
私は若きモーツァルトのみずみずしくて生き生きした音楽性の感じられる
第1番を聴けたのって幸せな機会だと思いました。
しかも素晴らしい集中力の演奏でしたし。

この日のメインは、ブラームス:弦楽五重奏曲 第2番。
生涯に2曲の弦楽五重奏曲を書いたブラームス。
いずれも1880年以降というブラームスの晩年の作。
ただしブラームスはそれ以前にも一度弦楽五重奏曲という形態で
作品を作ろうとしたことがありました。

1860年頃に手がけられた最初の弦楽五重奏曲は、
ほぼ完成というところまでこぎつけながらも、
結局、楽想と編成がうまく合っていないという理由で改作され、
最終的には有名なピアノ五重奏曲という形で1864年に完成することとなります。

ただしこの最初に作曲しようとした弦楽五重奏曲と、
後年の2曲は同じ編成ではないというところが興味深いところです。

60年代の時の編成はヴァイオリン2、ヴィオラ1、チェロ2、であるのに対して、
後年の2曲はヴァイオリン2、ヴィオラ2、チェロ1です。

前者はチェロ型、後者はヴィオラ型と一般的に区別されていますが、
たとえばモーツァルトやベートーヴェンはヴィオラ型を好み、
ボッケリーニやシューベルトはチェロ型の弦楽五重奏を残しました。

若き日のブラームスは厚く深みのある響きを好み、
チェロ型の編成をとろうとしたのではないでしょうか。

けれども、結果として五重奏の形態では不十分で、
六重奏の厚みかピアノの助けを借りなければ
作品として完成させることはできなかったのです。

一方、交響曲を既に2つ完成させ、四重奏を発表し、
創作の勢いの頂点を迎えた晩年のブラームスが、
再び弦楽五重奏に向き合った時、
彼は響きの厚みよりも内声の充実を求めて、
ヴィオラ型の編成を選んだのでしょう。

弦楽五重奏曲第2番は1890年の春から夏にかけて作曲されました。
まさに57歳の大家にふさわしい、
緻密な構成力と溢れるロマンティシズムが凝縮された作品。

第1楽章は、ヴァイオリンとヴィオラのさざ波のような和音から、
勢いに満ちたチェロの第1主題が浮かび上がります。
一方、第2主題の穏やかな歌はなぐさめを与えます。

第2楽章は、深い諦めの情に押しつぶされそうな哀愁漂う変奏曲。
モノローグ風の受け渡しがいっそうの淋しさを伝えます。

第3楽章は、伝統的な「ため息」の音型(2度の下行)が多用され、
前楽章に続き、とめどなく哀感と不安感が溢れ出してきます。

第4楽章は、ヴィオラの無窮動風の主題で開始。
至る所にジプシー音楽の影響を散りばめながら、めまぐるしく曲は展開し、
最後は華々しく締めくくられます。


アンコールは本来予定されていた「K.516」から終楽章と、
同じモーツァルトの「カッサシオン K.63より 第3楽章アンダンテ」でした。

クス弦楽四重奏団の怜悧なサウンド、完璧な技巧、鮮烈なアンサンブルに、
赤坂さんの個性が加わり、層の厚さだけでなく、音楽の熱さが増していきます。
まさに他の追随を許さない、世界一流の演奏。


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2015年6月12日
クス弦楽四重奏団&赤坂智子  宗次ホール

第1ヴァイオリン:ヤーナ・クス
第2ヴァイオリン:オリヴァー・ヴィレ
ヴィオラ:ウィリアム・コールマン
チェロ:ミカエル・ハクナツァリャン

ヴィオラ/特別共演:赤坂智子



モーツァルト:弦楽五重奏曲 第1番 K.174
ハイドン:弦楽四重奏曲 変ホ長調 Op.33-2 「冗談」
ブラームス:弦楽五重奏曲 第2番 ト長調 Op.111



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