2016年5月30日月曜日

クラシック予習講座のご案内♪


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こんにちは、MUCHOJIです。
初めて当ブログをご訪問の方は、「はじめに」をお読みください。
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クラシック予習講座のご案内♪ 

♪ 知ればナルホド面白い クラシック予習講座 ♪  
6月8日(水) 室内楽の楽しみかた〜アタッカ弦楽四重奏団を聴く〜

クラシック音楽の予習をしてからコンサートを楽しむ、予習講座。
今回はアッパーマンハッタンにある教会で、弦楽四重奏曲を聴きませんか?
次のような方を対象としています。 

♪ いままであまり聴いたことのないジャンルを聴いてみたい。
→ クラシック音楽の中で私が大好きな弦楽四重奏の
さまざまな見どころ&聴きどころを予めお伝えします。
予習をしたらコンサート中に寝ない、という保証はできませんが!(笑) 

♪ せっかく聴くなら一流の演奏を聴きたい。
→ アタッカ弦楽四重奏団は、世界的な室内楽コンクール優勝経験もある弦楽四重奏団。
アメリカの若手弦楽四重奏団の中でもトップクラスの実力派です。 

♪ 芸術マニアがおすすめする場所に行ってみたい
→ 一般的なコンサートホールもいいけれど、教会のカタコンベみたいな空間で
音楽を聴くってユニークでお洒落だと思いませんか?  


◇概要
予習講座を 18:30より開催、そのあとコンサート会場に徒歩移動します。
会場でワインとチーズを楽しんだあと、20:00から約1時間の弦楽四重奏曲の
コンサートを聴きます。

◇開催日
6月8日(水)


◇集合時間
18:30


◇集合場所
お問い合わせを頂いた方にメールでお知らせいたします。


◇コンサート会場
Crypt Chapel of The Church of the Intercession
550 West 155th Street, New York, NY 10032  


◇コンサートのチケット料金
一般:$35

※コンサートのチケットの手配は各自でお願いいたします。
下記のウェブサイトよりそれぞれご購入ください。
The Crypt Sessions: Attacca Quartet 

会場についての詳細はこちら


 ◇コンサートのプログラム
ハイドン:十字架上のキリストの最後の7つの言葉


◇予習講座に参加ご希望の方へ
予習講座から参加をご希望の方は、メールでお問い合わせください。 
お問い合わせメール:muchojiあっとyahoo.com
「あっと」を@に変えてメールをお送りください。


 ◇お願いと注意事項
コンサートのチケットの手配は致しかねますので、各自にてお願いいたします。 
皆様のご参加お待ちしています!
ぜひ一緒に音楽を楽しみましょう!






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2016年5月28日土曜日

講演させて頂きました!&音楽講座のご案内 ♪

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先日、ニューヨークの様々な分野で活躍する方々が集う勉強会で、
講演させて頂きました。

しくみがわかるとクラシック音楽はもっと楽しめることを知って頂くために、
華やかなクラシック音楽の裏側にある音楽理論についてお話ししました。


準備段階では、最先端の現代音楽の理論まで含む発表での説明の仕方に
頭を悩まされましたが、クラシック音楽初心者の方にも音楽に携わる方にも
「とても面白かった!」と感想を頂くことができ良かったです。



様々な分野・職種の第一線で活躍なさる方々からの質問には、
発表内容を自分の領域に生かそうという高いモチベーションを感じ、
刺激を受けました。


聞きに来てくださった方、運営スタッフの皆様に心から感謝しています。

さらにクラシック音楽を楽しんで頂けるよう音楽講座を企画しているので、
ぜひ遊びに来て頂けたら嬉しいです♪ 




さて、ここからは新しい企画のご案内です。
先月アッパーマンハッタンに引越したおかげで、
自宅にイベントスペースができました。

クラシック音楽にもっと親しんでいただきたいという思いから
《音楽史&音楽理論の講座》と《コンサート予習講座》という
2種類の講座を開催していきます!

 ひとつめの《音楽史&音楽理論の講座》 の内容。


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♪ 音楽史&音楽理論の講座 ♪ (シリーズ講座)

◇講師:日比美和子 

◇概要
クラシック音楽は一見、敷居が高そうに見えますが、
実はしくみがわかるとグッと楽しめるようになります。
この講座では、作曲家の人生や性格が伝わるエピソード、
作曲当時の社会状況や歴史的な背景、音楽を形作る音楽理論… といった、
実際の音楽の「裏側」にあるさまざまな要素・要因についてお話ししながら、
おすすめのクラシック音楽の音源を紹介していきます。
シリーズ講座ですが、1回ごともそれぞれまとまった内容でできているので、
ご都合や興味関心に合わせてお越しください。 

第1回音楽講座のご案内はこちら
 ↓
    ↓

第1回:
音楽室に肖像の無い作曲家たち 〜中世・ルネサンスの音楽〜

◇開催日
6月5日(日)

◇時間
14:00~15:40頃

◇場所
お問い合わせを頂いた方にメールでお知らせいたします。

◇会費
大人:$10 

◇お申し込み方法
下記メールにてお問い合わせください。
登録フォームをお送りいたします。

お問い合わせメールアドレス:muchojiあっとyahoo.com
「あっと」を「@」に変えてメールをお送りください。



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◇全8回シリーズで予定される内容

第1回:6月5日(日)
 音楽室に肖像の無い作曲家たち 〜中世・ルネサンスの音楽〜 

第2回:
 ヴィヴァルディ、バッハ、ヘンデル 〜ルネサンスからバロック音楽へ〜 

第3回:
 ハイドン&モーツァルト 〜古典派の音楽〜

第4回:
 ベートーヴェン 〜古典派からロマン派へ〜

第5回: 
 ブラームス、シューマン、メンデルスゾーン 
   〜ドイツ・ロマン派の巨匠たち〜

第6回: 
 ドヴォルザーク、チャイコフスキー、ストラヴィンスキー 
   〜国民楽派とロシアの音楽〜

第7回:
 ドビュッシー、ラヴェル、サティ 
   〜フランス印象主義とその後〜 

第8回:
 20世紀の音楽とアメリカの音楽 〜クラシック音楽の未来〜 




※ 講義の内容は予告なく変更されることがあります。ご了承ください。


皆様のご参加をお待ちしています!
2つめの講座《コンサート予習講座》については、
また別の記事でご紹介いたします!





2016年3月14日月曜日

革命的!? に斬新な音楽ホールで スプリング・レボリューション!


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2016年3月9日
スプリング・レボリューション! byアンダーソン&ロエ ピアノデュオ

アンダーソン&ロエ ピアノデュオを聴きにブルックリンのウィリアムズバーグへ。
アンダーソン&ロエ といえば、Youtubeで噂を呼び再生回数100万回超。
アメリカのクラシックチャートで12週連続トップの 快挙をなしたピアノデュオ。

その演奏は、 「酔っ払ったモーツァルト」「セクシーすぎるカルメン」 
なんて呼ばれていたりもします。
演奏だけでなく、舞台上で行われるすべてをエンターテイメントに仕立て上げる
ピアノデュオです。

たとえばこんな感じ。

セクシーすぎるカルメン・ファンタジー
Carmen Fantasy for Two Pianos (ANDERSON & ROE)



禁欲と誘惑… ピアソラのリベルタンゴ
Anderson & Roe Piano Duo play "LIBERTANGO" (Piazzolla)



今日は「スプリング・レボリューション」と名付けられた春がテーマのコンサート。
とはいっても一般に「春」と聞いてイメージする暖かで華やかなプログラムのような、
そんな生易しいものではなく、ストラヴィンスキーの「春の祭典」とか、
ピアソラの「春」など、刺激的で聴く方もどっぷり春の魔力に浸かっちゃうような
曲目がずらり。 

RITE OF SPRING 100 Trailer - Anderson & Roe Piano Duo
(ちょっと気持ち悪い表現があるので、虫が苦手な方は2つめのビデオをどうぞ)



Anderson & Roe - THE RITE OF SPRING (1 of 10) - Introduction to Part I



実は今日のコンサート会場“ナショナル・ソーダスト National Sawdust”が
どんなところなのか、というのも興味があって、これも公演に出向いた理由のひとつ。
ナショナル・ソーダストは、ブルックリンのウィリアムズバーグに2015年9月に
オープンした音楽ホール。

作曲家のパオラ・プレスティーニに率いられ、
有名アーティストたちのコミュニティによってキュレートされた
ナショナル・ソーダストは、ミュージシャンたちが実験と探求を行う場となっていて、
かなりコアなファンから初心者まで、ジャンルを問わずにお手軽に価格で音楽を
楽しめる場となっています。

元々は1世紀の歴史を持つ工場だった場所は、レンガシェルの造りを残しながら、
かなり柔軟で最先端の音楽ホールとなっています。

バーもあってアルコールを楽しみながら演奏を聴くこともできるので、
ライブハウスのようでもあります。 

まず会場についてみて、おお!と思ったのは、これまでのコンサートホールや
ライブハウスのイメージの「ブラック」ではなく、「ホワイト」という斬新なホール。
ホール内装が四角ではなく、アシンメトリーな多角形でできているのも特徴。


かっこいい!


ブルックリンのウィリアムズバーグの中でも、Bedford Avenue周辺は特におしゃれな
地域ですが、これは抜きん出ています。
ちなみに外観はこんな感じ。内装とのギャップがまたいいです。


収容人数は1階が約60人。バルコニーも入れると約80人といったところでしょうか。
いった当日は客席の間隔にかなり余裕をもたせてあったのですが、
頑張れば100〜120人くらいは入りそう。

壁の細長い照明は消えているときはニューヨークのバスのドアについている
開閉ボタンにそっくりな黄色ですけど…

あと、職業柄?舞台の構造などにいつも目が言ってしまうのですが、
一番面白いと思ったのは、舞台上の壁に電源などの端子があること。
普通は舞台のフロアポケットのように、舞台上にポケットがあってその下に隠されていることが多い、もしくは壁に隠されていることが多いのですが、
このように思いっきり見せる端子ってクラシックの音楽ホールとして使われる場としては
とっても斬新!

暗くて見えづらいけど、端子が壁面にむきだし。

さて、アンダーソン&ロエの演奏ですが、彼らは単なるピアニストではなくて
アクター&アクトレス。終始エンターテイナーに徹しているところがすごい。 


そして、そのアクティングを支えていたのが照明。
この日最初に演奏されたのは、ストラヴィンスキーの「春の祭典」ですが、
まず暗転から、かすかな灯りの中で静かにテーマが流れていたところで、
音楽の流れが急激に変化するタイミングで突如舞台が真っ白に。

春の祭典の個々の楽章に合わせて様々な色の照明が当てられていましたが、
その切り替えのタイミングは音楽の流れが劇的に変わる部分に合わせていたので
結構シビアでした。

照明さんがスコアが読める人であることは少ないので、通常、音楽的知識のある人が
補助員として、あるいはステージマネージャーが楽譜を追いながら適切な箇所で
照明さんに指示を出しています(キュー出し)。

失敗するととんでもないことになるので、かなり緊張する役目。
正直、この「春の祭典」のような作品のキュー出しはあまり引き受けたくない…

実は日本で彼らの演奏を聴いたときは、照明演出がなかったので、
私を含め、Youtubeを見すぎた人は「アレ?」と思ったと思うんです。
でも、こうして照明アリだとエンタメ性がぐっと増して、
彼らの表現したい世界観が伝わってきました。改めて照明の効果ってすごい。

ちなみにアンダーソン&ロエは、楽譜はiPadに投影されたものを使用していて、
Bluetoothの足ペダルで譜めくりをします。足ペダルはこういうの。
(ピアノのペダルの左にある黒い物体)



これは、譜めくリスト(譜めくりさん)を用意しなくていいという利点のためだけでなく
たぶん彼らは、内部奏法(鍵盤ではなくピアノの弦を直接はじくなどして音を出すこと)
を結構な頻度で行うから、というのもあると思います。

譜面台や紙の譜面は内部奏法をするときに邪魔ですから。

アンコールはバーンスタインの「マンボ」。
「この曲にはお客さんの協力が必要なんですよ」という前置きをMCでしておいて、
「マンボ!」の掛け声をいれなきゃいけない箇所をお客さんとリハーサルしてから
スタート。

お客さんも掛け声を入れるタイミングを逃すまいとドキドキしながら聴くという
アンコールでした。

演奏のみならず、アイコンタクト、ちょっとした仕草、MC、 といった舞台上で行われるすべてを まるごとエンターテイメントに仕上げるプロ意識に脱帽。

そしてこのナショナル・ソーダストという音楽ホール。
収容人数とチケット価格からして絶対採算が取れないはずなのに、
質の高い演奏に安いチケット価格...
ドネーションなどで賄っているのでしょうか。

アーティストによるキュレーションなので、
個性的であれば若くても出演機会が得られる点でアーティストにとっても嬉しい。

ニューヨークにいるからこそ、アーティストも聴衆も得をしていることって
たくさんあるんだろうな、と改めて思いました。

 -----
2016年3月9日 @National Sawdust
アンダーソン&ロエ ピアノデュオ

ストラヴィンスキー:春の祭典
グルック:オルフェウスとエウリディーチェより
ピアソラ:春
     オブリビオン
     リベルタンゴ



● Related Posts
 4つの手が舞う!20本の指が踊る! フィテンコ&ザイツェヴァ ピアノ・デュオ
 Youtubeで噂を呼び再生回数100万回超 アンダーソン&ロエ ピアノデュオ




2016年3月7日月曜日

ネーミングセンスが秀逸!アンリ・サラAnri Salaの“ラヴェル・ラヴェル・アンラヴェル”


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SOHOにあるニューミュージアムで開催されているアンリ・サラAnri Salaの企画展
“アンサー・ミー Answer me”。

 1974年、旧共産圏のアルバニアに生まれたアンリ・サラ。
光や音、音楽を言語として物語を表現するというインスタレーションで
世界的に注目を集めています。

彼の作品は、言語、構文、構造、音楽と戯れることによって作られているので、
美術に興味のある人にはもちろん、私のように音楽に関心を持つ人も楽しめます。

パリでビデオ制作を学び、現在はベルリンを拠点に活躍しています。
デビュー作の“インタビューInterview”(1998)は、自分の母親の過去や記憶にまつわる
ドキュメンタリー作品。

制作のきっかけは、70年代に共産主義青年同盟の闘志だった母親が残した
TVインタビューの映像。
ところが、映像のみで録音が見つからなかったので、何を話しているのかがわからず、
母親本人も何を話しているのかまったく記憶がなかったそう。

この「言葉探し」のために、サラは聾学校を訪ね、
見事、口唇術で母親の言葉を復元することに成功したのです。
しかし、そこで自分が話している内容が、
マルクス・レーニン主義の理想の鸚鵡返しにすぎなかったことを知った母親は、
それは自分の発言ではない、と否定。

“インタビューInterview”は、そうした抹殺された記憶や、
歴史を浮かび上がらせてしまったのです。 

こうした初期の作品で、政治的、自伝的要素を含む映像を発表する一方、
サラは常に音と空間の関係性を再構築することに強い興味を持っていました。
そして最近ではイメージと音への関心に基づいた作品を、
建築を取り巻く音やありふれた光景に注目するといった方法で作っています。
そこでは音だけでなく、その音が発せられる場所、建物といった他の要素にも
すべて意味があって、観るものは謎解きのように
それを読み解かなければならないのです。

今回の注目作品の一つ “ラヴェル・ラヴェル・アンラヴェルRavel Ravel Unravel”(2013)は、
モーリス・ラヴェルの「左手のための協奏曲」を演奏する2人のピアニストの手元を
映した映像を編集・再構築して、同時に投影するビデオインスタレーション。

正確には“Ravel Ravel”(2013)という作品と、“Unravel”(2013)という作品の2つに
分かれています。



 “Ravel Ravel”は、映像が投影される部屋に吸音材がびっしり敷き詰められていて
現実にはエコーが起き得ない環境で、2つの演奏がシンクロナイズしたり
少しズレたりするのが、音楽的なエコーの効果を生み出すという逆説的な作品。 

ラヴェルの「左手のための協奏曲」といえば、
あの有名な哲学者ルードヴィヒ・ウィトゲンシュタインの兄で、
第一次世界大戦で右手を失ったパウル・ウィトゲンシュタインのために
ラヴェルが最初に書いたピアノ協奏曲。 

考えてみたら普通コンサートで同じ曲を同じピアニストが同時に弾くところを
見ることはないので、こうしたビデオで演奏家を観察すると、
いろんなことがわかります。 

オーケストラが加わる部分は(編集・再構築されたことによってですが)
わりとシンクロナイズしているけど、カデンツァのようにソリストの自由度の高い部分は
2人のピアニストの間でかなりズレが生じます。

そしてもっと注意深く聴いてみると楽譜のオリジナルのテンポとは
ちょっと違うことに気づきます。 

演奏には使わない右手はどうしてるのかな、と眺めていると、
右手は脱力していたり、ピアノのフレームを握って支えていたり、
リズムを取っていたり… で、音では何も語らない右手は、
映像では雄弁に音楽を語っているのです。

そして2人の演奏家の個性がそれぞれの映像に表れています。
画面には右手の影がぼやーっと映りこんでいたり、
最後に脱力した右手を映し続けて(この曲では右手は使わない)
右手に注目させているところが、なんだか皮肉っぽい。

影の映り込み

 “ラヴェル・ラヴェル・アンラヴェルRavel Ravel Unravel”は
タイトルのつけ方が秀逸だと思うのです。

“Ravel Ravel”はラヴェルの名前を二重にして、
2人のピアニストによる演奏が重ねられていることを意味しているのだと
解釈できますが、一方で英語で“ravel”(動詞)は“to disentangle”という意味で、
2つの演奏のテンポが同期化されていないことを示唆しています。

そして隣り合う次の部屋にある作品“Unravel”ではDJの女性が、
ラヴェルの左手のための協奏曲を演奏した2つのコンサートを収録したレコードを、
ターンテーブル上で物理的に操作して(手動で演奏を速めたり遅めたりして)
2つの録音を調和させようとしています。

2つの作品の原理は異なっているけれど、お互いに補完しあっているというわけ。 

もうひとつ興味深かった作品は、
“ザ・プレゼント・モメントThe Present Moment (in B-flat)”(2014)と
“The Present Moment (in D)”(2014) です。

これも同時に投影されるビデオインスタレーション。
シェーンベルクの「浄められた夜」(1899)に基づいた作品。 

シェーンベルクの「浄められた夜」といえば、D(レ)の音とB-flat(シ♭)が
とても印象的に何度も繰り返し現れる作品ですが、
そこからDとB−flatを取り出して、2つの室内楽グループがひとつはDに焦点をあてて、
もうひとつはB-flatに焦点をあてながら、
袋小路に囚われたみたいにひたすら演奏している映像が2箇所で同時に流れています。

この曲を知っていれば今どこを演奏しているのかだいたいわかるのですが、
断片的で盛り上がりとかが全部削除されていて、
あの恍惚的なクライマックスを迎えることなく最初のテーマに戻ってしまうので、
とても奇妙な感じ。 

しかも天井を見上げると、パーカッションが天井から吊るされていて、
無人でドラムを叩いているという… その不気味さは死の宣告を連想させます。 


ユダヤ人のシェーンベルクはナチス・ドイツの迫害を逃れてアメリカに移住。
ラヴェルが「左手のための協奏曲」を贈ったパウル・ウィトゲンシュタインも
キリスト教に改宗した家系のユダヤ人で1938年にアメリカに出国。
どちらにも「戦争」「ユダヤ人」というキーワード。 

サラの作品は、言語、構文、構造、音楽と戯れながら、歴史との対話をしているので、
作品の中に隠された文脈がわかればわかるほど楽しめるのでしょう。

部屋全体に満ちる音楽や映像にどっぷり浸かりながら謎解きをしているようで
観終わった後は心地よい消耗感。

ちなみにニューミュージアムに行くなら木曜の夜7:00からはPay what you wishなので、
ほぼ無料で展示を見ることができます。


● Link
  Anri Sala: Answer me(2016年2月3日〜4月10日@ニューミュージアム)


2016年2月27日土曜日

イサム・ノグチ美術館で植物の声を聴く 藤枝守「植物文様」


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日本では「現代音楽」=「難しくて不快な音」
というイメージを持たれて敬遠されることが多いと思いますが、
ここ数十年の間に作曲されてきた現代音楽の中には、
聴きやすくて耳に心地よい音楽というのもたくさんあります。

とはいっても「21世紀らしい」アプローチをしなければ新奇性がないので、
作曲家は常に新しいアイデアを追求しているわけです。

藤枝守氏の曲集「植物文様Patterns of Plants」(1996-2011)もそのひとつ。

「植物文様」はいわば植物の声をメロディー化したようなもの。
生物はみな微弱な電気を発しているのですが、プラントロンという装置を用いて、
葉っぱに電極をつないで、葉の表面から電気の変化を読み取り、
そのデータのパターンをベースに藤枝守氏は作曲しているそう。
インスピレーションを受けて、という方が正しいかもしれませんが。 

ピアニストのサラ・カーヒルSarah Cahillさんがクイーンズのアストリアにある、
イサム・ノグチ美術館で明後日2月28日(日)まで、
藤枝氏の植物文様を開館時間じゅう演奏しています。 

Sarah Cahill, Photo:Marianne La Rochelle
 サラさんのプロフィール写真がアーティスティックだったので
興味を惹かれて行ったのですが、彼女はジョン・アダムスから17歳の時に
「中国の門China Gates」を献呈されているんですね。

父親が中国美術史の教授だったというのも関係しているのでしょうか。
たしかに創作力を掻き立てられそうな精霊っぽい雰囲気を持ったピアニストです。

Youtube: China Gates -John Adams (Performed by Fraser Graham)




植物文様は、まさに「唐草模様」の音楽。
バロック音楽の組曲を思わせる小品のコレクションで、
音楽は基本的にケルト風、ミニマル風で聴きやすいです。

Youtube: Patterns of Plants, the Seventh Collection: Pattern B



イサム・ノグチ美術館はうちっぱなしのコンクリートの床をもつ建物なので、
教会のように音が響きます。 


ノグチさんの作品は様々な質感をもっているので、
石なのに生き物のように感じることがあるのですが、
音楽が流れているとますますその感覚が強まる感じ。 

イサム・ノグチ美術館は居心地が良いので実は結構気に入っています。


いつも空いているし、特に庭が落ち着きます。
ニューヨークじゃないみたいに意外なほど静か。

建物の外の自転車までアートみたい。





● Link



2016年2月26日金曜日

北欧のイケメンクァルテット デンマーク弦楽四重奏団 Danish String Quartet


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2016年2月21日
デンマーク弦楽四重奏団Danish String Quartet 


リンカーンセンターでCMSのウィンターシーズンの目玉として開催されていた
「ベートーヴェン弦楽四重奏」シリーズの大トリは、デンマーク弦楽四重奏団。 
前日までチケット完売になっていましたが、
予想通り(というか先日CMSに寄ったときに問い合わせておいただけなのだが)
当日になったらチケットあったよ! 

デンマーク弦楽四重奏団のメンバーといえば、黒のタイトなスーツに身を包み、
シャギーな金髪をスタイリッシュに逆立てたヘアースタイルのイケメンズ。
形容するならば、ブルックリンのアングラのブティック店員...

完売というから若い女性にもさぞかし人気があるのだろうと思ったら、
室内楽界ではそんなこと起きないらしい。
やっぱりジャンルが弦楽四重奏だから右をみても左をみても圧倒的にお客さんはシニア。
うーん、ニューヨークの室内楽事情を知ることができました。
しかしベートーヴェンの後期の弦楽四重奏曲だけを取り上げた公演で
約950人収容可能な会場が満席になるなんて思っていませんでした。

隣の席の夫妻によれば、室内楽コンサートはたいてい退屈しているシニアでいっぱいになるのだそう。
ほとんどがリタイヤした先生とか暇を持て余したミドルクラスの方々とのこと。

デンマーク弦楽四重奏団といえば、北欧の素朴な民謡の旋律を弦楽四重奏で演奏し、
Dacapo Recordsから発売している録音がとても特徴的です。

Youtube: Arlige brudefolk and Sonderho Bridal Trilogy - part I -



CDにはPart I〜Part IIIまで収録されているのですが、
島国であるデンマークの中の2つの島の伝統的な婚礼音楽をもとに
弦楽四重奏に編曲しています。
憂いを帯びた美しい旋律と、ノン・ヴィブラートの素朴な、透き通る音色の
アンサンブルが心地よいです。 

CD情報:Wood Works: Danish String Quartet 


でも、今日は北欧の音楽ではなくて、ベートーヴェン弦楽四重奏曲、
しかも最晩年の作品です。

曲目は、

ベートーヴェン:
 弦楽四重奏曲 第14番 嬰ハ短調 作品131  
 弦楽四重奏曲 第16番 ヘ長調 作品135  
 弦楽四重奏曲 第13番 変ロ長調 作品130  第6楽章フィナーレ:アレグロ 

消化しきれないほどの内容の濃いプログラムです。
ベートーヴェンといえば、交響曲第9番が最後の作品と思われがちですが、
実はその後まだ3年の時間がベートーヴェンに残されていて、
その3年がとてつもなく難解で不可思議で深い作品を生み出しています。

彼は弦楽四重奏曲に没頭するのですが、ひたすら心の内面を掘り下げていく、
個人的なダイアリーのような音楽が展開されます。

難解だと言われることも多々あって、クラシック音楽初心者には、
敬遠されがちですが、でもこれらを聴かずに死ぬのは絶対もったいないです! 

私も学生の時には聴いても何がいいのかよくわからなかったのですが...
自分が死んだ時のお葬式に流してほしい曲の候補リストに載せたい!
というほどの愛好家もいます。

デンマーク弦楽四重奏団のメンバーも若いころは理解できなかったと言っていたっけ。

ちなみにベートーヴェンの死後行われた弦楽四重奏曲第14番の初演時に居合わせた
シューベルトは感極まって「この曲の後で作曲家は何が書けようか?」
と口走ったとされています。 

弦楽四重奏曲第14番はとても精神的に深い曲である一方、
ベートーヴェンの人間臭さを感じさせるエピソードが残っています。

ベートーヴェンは第14番を、甥のカールを軍士官に採用するよう取り計らった
シュトゥッターハイム男爵に献呈しています。

実は本来すでにほかの友人に献呈されていたにもかかわらず、
ベートーヴェンはこの世を去る2週間前に、
「自らの死後、誰が彼の面倒をみるのか」と心配し、ある種溺愛していた
甥のカールのためにシュトゥッターハイム男爵へとこの曲を献呈することにしたのです。

甥の就職のために自分の会心の作の献呈先すら変えてしまうとは、
彼の人間らしさが如実に現れている気がします。 

第16番は死の3ヶ月前に完成された弦楽四重奏曲。
(厳密に言えば、第13番の大フーガに変わる終楽章がこの後に作曲されていますが、
まとまった1曲としては第16番が最後。)

謎に満ちた音楽で、断片的な旋律が、一見脈絡なく即興的にめまぐるしく変化したり、
本当にこれが死を目前にした人間の書いたものなのだろうか、
と疑問符が浮かぶほど躍動感に溢れたスケルツォが現れたり。

特に第4楽章は不可思議。
「ようやくついた決心」という標題のついた序奏に始まるのですが、
この序奏の重々しいモチーフは「Muss es sein?(そうでなければならないか?)」
と付記されており、この問いに対する快活な第1主題は
「Es muss sein! (そうでなくては!)」と力強く応答します。
この問答が意味することが何か、というのはずっと議論の的になっていますが、
単に「借金を返すべきか?」「返さねば?」といった他愛も無い日常のメモ書き
という説あり、いやいや哲学的な命題を意味しているのだという説ありで、
様々な憶測を呼んでいて面白いです。 

弦楽四重奏曲 第13番 変ロ長調 作品130  第6楽章フィナーレ:アレグロ
は、第13番のフィナーレはベートーヴェン自身によって「大フーガ」に代わり
差し替えられたフィナーレですが、これだけを演奏するとアンコールのよう。

デンマーク弦楽四重奏団は曲によって第1ヴァイオリンと第2ヴァイオリンが
交代して演奏。これクァルテットを招聘するホールスタッフには結構重要な情報。
なぜなら演奏者は椅子や譜面台の高さを自分用に合わせているので、
ステージマネーシャーは曲ごとに椅子や譜面台を入れ替えないといけないから。

デンマーク弦楽四重奏にいたっては椅子の種類も好みが全員バラバラらしく、
全員違う椅子を使ってます。
ピアノ椅子を使う人からオーケストラ椅子を使う人、
客席用の椅子と思われるピンクの座面の椅子を使うヴァイオリニストまで(笑) 

昔とある弦楽四重奏団の来日時に、ツアー中に別のホールで
第1・第2ヴァイオリン奏者が入れ替わることを知らなかったので転換に失敗した
という情報をあらかじめ入手していたから、椅子の転換はバッチリと思っていたら
当日演奏された曲が予定されていた曲と違った、
なんて予期せぬ事態が発生したことがあったっけ…

リハーサルでは全部演奏しないことも多いから転換にしても演奏曲目にしても
演奏家とホールスタッフとのコミュニケーションは大事です。 

さて、デンマーク弦楽四重奏団の演奏は、結構ミスは多かったものの、
音色が個性的にもかかわらず4人の奏者の中でアンサンブルとしての
音色の統一感があってよかったです。

アレックス・ロスの過去のレビューには、デンマーク弦楽四重奏団は、
「手に負えない激しいエネルギーrampaging energy」を備えたクァルテット
と書いてあったので結構激しい演奏を予想していました。

たしかにとても推進力のありエネルギッシュな音楽だったけど、
彼らの演奏するベートーヴェンは、音楽の流れが、
絵付け職人が絵筆でなめらかに線を描いていくように
どこまでも引き延ばされていく感じ。
ノン・ヴィブラートの強烈な響きも刺々しさがなくて、
常に4つの楽器が美しい旋律を朗々と歌っていきます。
そしてその歌の響きが美しくブレンドするようにというのを
とても注意深く意識しているように聴こえました。

ベートーヴェンの後期の弦楽四重奏は、
その美しい響きをとことん強調して演奏するクァルテットもいれば、
その心理的な激しさを表現するために攻撃的な演奏をするクァルテットもいるけど、
デンマーク弦楽四重奏団の演奏は、思考を重ねた結果、
余計なものを排除したシンプルさを追求しているような気がしました。
でもそのシンプルさの中に、空気感が存在したり光が差し込む余裕があって、
音楽の流れがとても明るくて綺麗。
クライマックスも鳥が舞い上がったかと思うと急速に滑空するような
線のとても美しい流れ。 

ルックスもいいし日本人は北欧音楽好きだから、
デンマーク民謡の弦楽四重奏アレンジを入れたプログラムは日本でも受けそうですね。


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2016年2月24日水曜日

ジュリアード弦楽四重奏団 チェリスト ジョエル・クロスニック最終シーズン


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2016年2月22日
ジュリアード弦楽四重奏団withアストリッド・シュウィーン(チェロ)

From Juilliard School website

さて、私はちょっと姑息な手を使って、未だ美術館やコンサートを学生の身分で
享受しているわけですが、そうするとたまにコンサートでは
意外な席に座る羽目になることがあります。 

2月22日のジュリアード弦楽四重奏団のコンサートで、
ラストミニッツでチケットを買いに来た自称 “学生”に充てがわれた席は、
最前列センター。
奏者椅子の裏側が見える席なんてかなり久しぶり。 
というわけで奏者の動きがつぶさに見える場所で聴くことになりました。

本日の席からの眺め...


曲目は、 

モーツァルト:弦楽四重奏曲 ハ長調 K.465「不協和音」
ワーニック:弦楽四重奏曲 第9番 (ニューヨーク初演)
シューベルト:弦楽五重奏曲 ハ長調 D956 (チェロ/共演:アストリッド・シュウィーン) 

ジュリアード弦楽四重奏団、登場しただけで会場大盛り上がり。
なにしろ場所はジュリアード弦楽四重奏団のホームグラウンドともいうべき
ウェストサイド65丁目。
しかもこのカルテットで最古参、42年間チェロを務めたジョエル・クロスニックが
今シーズン退団するわけで、彼がメンバーとして演奏する機会は
もう残り数える程なわけです。 

ところが、前半のモーツァルトの弦楽四重奏曲「不協和音」の演奏が終わったところで
会場の1階中央で怒鳴り声が…
ダブルブッキングらしいトラブルが起きたようで約10分間に渡り係員との押し問答が。 
こういうときにどう対応するかでホールの力量がわかるわけですが、
昨日は警備員がやってきてやっと収まった次第。
その様子を心配そ〜に舞台袖からのぞいている舞台スタッフ… 

このあとワーニックによる現代曲が演奏される予定で、
プログラム後半には演奏に小一時間かかるシューベルトの大作 弦楽五重奏曲が
控えているのですが。どちらかが席を譲ったら済むことじゃないかなと思うのですが、
座席というのは特定の人たちにとってはとても重要なのでしょう。 

やっと落ち着いて次はワーニックの弦楽四重奏曲第9番。
リチャード・ワーニックRichard Wernickは1934年ボストン生まれの作曲家。
今年の6月の日本公演でも日本初演されるようです。 

本人による解説によれば、
音楽に精通していないほとんどの聴衆は彼の作品を、
それがとても半音階的という理由で、セリエル・ミュージックや十二音技法による
音楽と勘違いするようですが、そこにはセリエリズムも12音技法もなく、
彼はそうした作曲方法をとったことは一度もないそう。

彼自身は半音階の和音テクスチュアにとても魅力を感じているけれども、
その音楽はとても美学的な意味で「新古典主義的」とのこと。 

ワーニックの弦楽四重奏曲第9番は2つの楽章に分かれていて、
どちらも、いとも簡単にかりそめの価値や利益を促す、
あきれるほどに簡略化されたポピュリズム的なカルチャーへの反応だそう。

「Assertive, Aggressive」と付けられた第1楽章は、その名の通り、
独断的で攻撃的で揺らぎない強さがあります。

冒頭のトーン・クラスターから展開する複数の鋭いモティーフによって作られた楽章で、
かなり高度に展開された、ソナタ形式とも考えられうる構造を持っています。

 「“per una selva oscura…”」と付けられた第2楽章は、悲歌のようなもので、
第1楽章の記憶を思い起こさせながらも、果てしなく続く繰り返される
音の鼓動によって、喪失感をもたらします。
そして最後にチェロのソロが希望をほとばしらせて閉じられます。
2本の異なる弦の上で同じ音を弦を交互に変えて延々と弾いていく奏法が
オスティナートのように続いていくのですが、
弾く弦の違いによる音色の差異が生まれとても耳に残ります。
現代音楽にしてはとても聴きやすい曲。 

クロスニックは見た目とってもおじいちゃんになってしまったのですが、
どの曲でも独特のかすれのある音色が際立って
かつての彼の演奏が容易に思い起こされます。

ワーニックの作品は、ヴァイオリン2人がパート譜で演奏しているのに対して、
ヴィオラとチェロはスコアで演奏。
譜面がめくりやすいようにクロスニックは楽譜にピンクの付箋を貼っていたりして
なんだか可愛いらしい。

そしていよいよ後半のシューベルトの弦楽五重奏曲 ハ長調 D956
共演はチェリストのアストリッド・シュウィーン。 

シューベルトの生涯最後の室内楽作品であるとともに、
彼の弦楽五重奏としては唯一の作品。
死のわずか3ヶ月前に書かれた傑作です。

弦楽五重奏曲には、弦楽四重奏にヴィオラを加える「ヴィオラ型」と、
弦楽四重奏にチェロを加える「チェロ型」の2タイプあり、
モーツァルトやベートーヴェンはヴィオラ型を好み、
ボッケリーニやシューベルトはチェロ型を好みました。

ちなみにブラームスは若い頃にチェロ型を試みようとして不完全に終わり、
後年になってヴィオラ型で2曲の弦楽五重奏曲を残しています。

内声の充実を求めたヴィオラ型、厚く深みのある響きを求めたチェロ型。
作曲家によって好みが異なるのはとても興味深いです。

シューベルトのハ長調の作品といえば、交響曲「グレイト」が有名ですが、
「グレイト」に屈託のない明るさとか、華やかさに満ちているのに対して、
この弦楽五重奏曲は、心が引き裂かれるような切なく美しいメロディーが
連ねられているとても内面的な音楽。

全曲を通すと1時間近くかかるのですが、
ジュリアード弦楽四重奏団とアストリッド・シュウィーンによる演奏は、
まったく長さを感じさせない集中力と躍動感に溢れた演奏。

終楽章の最後はジェットコースターのようにスリリングな勢いに身を任せてしまって、
お客さんも思わず笑っちゃうほど。

終演後は聴衆すべてがスタンディングオベーション。 

でもコンサートはそれだけで終わらず。
終演後、42年間このカルテットに所属し今シーズンで退任するチェリスト
ジョエル・クロスニックを表彰してジュリアード音楽院からゴールドメダルが
贈られるというイベントが。 



後任は、その直前にジュリアード弦楽四重奏団と一緒に
シューベルトの弦楽五重奏曲ハ長調D956を演奏した、
アストリッド・シュウィーンAstrid Schweenと発表されました。

映画「25年目の弦楽四重奏」では歳をとったチェリストが
ベートーヴェンの弦楽四重奏曲 第14番を演奏する途中で
若い女性チェリストに交代するけど、ジュリアード弦楽四重奏団は、
その直前に一緒に演奏していたチェリストが後任ですよ!という発表で、
ドラマティックでなおかつ粋な演出。

アストリッド・シュウィーン。ジュリアード弦楽四重奏団初の女性奏者で、
初のアフリカン・アメリカンでもあります。

とてもチャーミングな笑顔でスピーチするクロスニック。 

会場にはロバート・マン(95歳?!)、ジョエル・スミルノフ、
サミュエル・ローズらジュリアード弦楽四重奏団の旧メンバーの姿も。

もちろんクロスニックの現在・過去の生徒もたくさん来ていて
あたたかい拍手を贈っていました。
いかにクロスニックが愛されているかが伝わってきました。 

今年の6月に予定されている日本公演はクロスニックのラストアピアランスだそうです。


---------- 
2016年2月22日 ジュリアード弦楽四重奏団  @リンカーンセンター Alice Tully Hall 
第1ヴァイオリン:ジョセフ・リン 
第2ヴァイオリン:ロナルド・コープス 
ヴィオラ:ロジャー・タッピング 
チェロ:ジョエル・クロスニック  

モーツァルト:弦楽四重奏曲 ハ長調 K.465「不協和音」 
ワーニック:弦楽四重奏曲 第9番 (ニューヨーク初演) 
シューベルト:弦楽五重奏曲 ハ長調 D956 (チェロ/共演:アストリッド・シュウィーン)


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2016年2月22日月曜日

バッハ21世紀の響き? フィリップ・クイント&マット・ハーシュコヴィッツ「バッハXXI」


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2016年2月18日
フィリップ・クイント&マット・ハーシュコヴィッツ・トリオ 「バッハXXI」 

もはやフィリップ・クイントをクラシック音楽の演奏家だと認めない人も
多いかもしれないですが、彼は1974年生まれのロシア出身のヴァイオリニストで、
モスクワ音楽院でアンドレイ・コルサコフに学び、
9歳にしてコルサコフのオーケストラでソロ・ヴァイリニストとしてデビュー。

その後ジュリアード音楽院へ進学。2001年に発売したデビューCDがグラミー賞に
ノミネートされ、一躍注目を集めます。
2010年よりストラディヴァリウス協会より貸与された「ルビー」を使用。 

クイントはストラディヴァリウスのヴァイオリンをタクシーに置き忘れて
紛失した演奏家としても有名ですけど。
(正直者のタクシードライバーだったおかげでヴァイオリンは手元に戻り、
クイントはお礼にニューヨークのタクシードライバーたちのための特別なライブをニューアーク空港で開いたというおまけつき。) 

ちょうど、彼は先日のバレンタイン・デーに動画をYoutubeにアップしていて、
String Magazineの編集部にピックアップされていました。

Youtube: Valse Triste




彼はロマンティックなアレンジを好むみたいですね。 

2月18日に、リンカーンセンター デイヴィッド・ルーベンシュタイン・
アトリウムコンサートで行われた公演は、
ピアニスト&アレンジャーのマット・ハーシュコヴィッツと彼のトリオとの
ジャズコンサート。

タイトルは「バッハXXI」。
「バッハXXI」は「バッハ21世紀の響き」という大仰にも見えるほどのテーマ。
クイント氏はこのテーマを企画したハーシュコヴィッツ氏に
「21世紀のバッハになるつもりなの?」と冗談まじりに尋ねると、
ハーシュコヴィッツ氏の返事は
「いやいやとんでもない、バッハが墓から幽霊になって現れてくれたら
嬉しいけどね」と。 


ハーシュコヴィッツ氏のアレンジは、彼自身も述べていましたが、
ベースの部分ではバッハの音を一音たりとも変えたり、除いたりしていなくて、
構造はそのまま。

でもその上に流れる音楽はジャズだったり、ラテンだったり、ユダヤ音楽だったり、
ときどき現代音楽っぽいアレンジも。

よくあるジャズアレンジじゃん、と思うかもしれないし、
ぼーっと聴いているとそう聴こえる感じもするのですが、
実際はかなり凝っていて、ベースはそのままでという制約が
ある状態で、時代的には中世から現代まで、ジャンルや国も異なる
かなり多様なエッセンスを詰め込んでいます。

彼が言っていた中でひとつ面白いなと思ったのは、

「同時代にも後世においてもバッハの解釈は様々で、私の考えでは、
19世紀の作曲家たちはバッハをとてもロマンティックな作曲家だと考えていたんだ。
たとえば、ブゾーニ、リスト、ラフニノフ…
皆バッハの影響を受けて演奏したり作曲したり編曲したりしているけど、
彼らはバッハからロマンティシズムを引き出していたんだよ。
そして私の解釈では、バッハはとてもロマンティックだったんだ。」

ということ。

ハーシュコヴィッツ氏は彼独特の21世紀のやり方で、バッハから
ロマンティシズムを引き出して、とてもロマンティックなアレンジで
バッハを演奏していたというわけ。

プログラムは、オールJ.S.バッハで、
・無伴奏チェロ組曲第1番ト長調 BWV.1007より プレリュード
・カンタータ第208番『狩のカンタータ』よりアリア『羊は憩いて草を食み』
・主よ、あわれみたまえ(マタイ受難曲より)
・ヴァイオリン協奏曲イ短調 BWV.1041より 第2楽章 アンダンテ
・2つのヴァイオリンのための協奏曲ニ短調 BWV.1043より 第1楽章 ヴィヴァーチェ
・ゴルトベルク変奏曲より アリア
の6曲。 

ヴァイオリン協奏曲イ短調 BWV.1041より 第2楽章 アンダンテ
が変わっていて、ブラジルの熱帯雨林にいるみたいな響き。 

2つのヴァイオリンのための協奏曲ニ短調 BWV.1043より 第1楽章 ヴィヴァーチェは、
ゲストヴァイオリニストとして、ララ・セント・ジョンが登場して2人で演奏。

ララ・セント・ジョンは4歳の時にはすでに「神童」扱いされていた
カナダ生まれのヴァイオリニスト。
バッハを得意としているけれども、かなり大胆なバッハ。
彼女はツアー途中でニューヨークにたった1日だけ滞在してクイントの
コンサートに出演してくれたよう。

2人の掛け合いは、演奏というか、遊びというか、バトルのようでも。
偉大な音楽の権威というイメージのバッハではなくて、
もっと純粋に音楽を楽しみ遊びながら表現している感じ。
ちなみにこの曲の演奏でヴァイオリニストの弓の毛がキレまくる、っていうのは
初めて見ました… 最後はプログレッシヴ・ロックみたいに激しいから。

Youtube:Matt Herskowitz Trio with Philippe Quint and Lara St. John Play Bach's Double Concerto




 

そして最後にゴルトベルク変奏曲よりアリア。
ジャズが基本だけど、アクセントはタンゴ風。
アメリカの20世紀の現代音楽作曲家エリオット・カーターみたいな響きも。

すべての曲が2015年にリリースされたCDに収録されていて、
下記のサイトでは録音の様子をみることができます。
In-Studio:Matt Herskowitz Trio with Philippe Quint Bring Jazz to Bach

 聴衆は「バッハって書いてあったから来たらジャズだった」というお客さんから、
「ジャズライブだと思って来たらクラシック音楽コンサートみたいに
席に座って聴かなきゃいけないコンサートだった…」
「ララ・セント・ジョンって誰?」って言っている人までいろいろ。

後ろのクラシック音楽愛好家とおぼしきおばちゃんは、
「ヴァイオリンにマイクをつけるのを今すぐやめさせなさいよ!彼らには必要ないわ!」
と係員に怒りをぶちまけていたけど…

なにはともあれ、かなりクラシック音楽に忠実で洒落たアレンジのジャズを、
安定したテクニックと音楽性を持ち合わせた音楽家の演奏で、
しかも無料で聴けるわけだから、いろんな人が来る。

ジャズライブだと思って来ていた隣のロシア人の女の子は
1曲ごとに曲名をiPhoneで調べていたようだし、
これをきっかけにバッハの音楽を聴いてみる人が出てくるんだったら、
クラシック音楽界には良い効果?

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2016年2月18日 リンカーンセンター デイヴィッド・ルーベンシュタイン・アトリウム
「バッハXXI」
ピアノ:マット・ハーシュコヴィッツ
ヴァイオリン:フィリップ・クイント
ヴァイオリン(ゲスト):ララ・セント・ジョン
マット・ハーシュコヴィッツ・トリオ

J.S.バッハ:
無伴奏チェロ組曲第1番ト長調 BWV.1007より プレリュード
カンタータ第208番『狩のカンタータ』よりアリア『羊は憩いて草を食み』
主よ、あわれみたまえ(マタイ受難曲より)
ヴァイオリン協奏曲イ短調 BWV.1041より 第2楽章 アンダンテ
2つのヴァイオリンのための協奏曲ニ短調 BWV.1043より 第1楽章 ヴィヴァーチェ
ゴルトベルク変奏曲より アリア
  

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ちょっと中性的?! 中国人チェロ奏者 イークン・シュウ Yi Qun Xu


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2016年2月19日
イークン・シュウYi Qun Xuチェロリサイタル

昨日聴講した、エッシャー弦楽四重奏団によるマスタークラスの受講団体の中で、
ジュリアード音楽院の弦楽四重奏団でチェロを弾いていた
イークン・シュウYi Qun Xuさん。
その翌日にリサイタルがあったので聴いてきました。

中国生まれで、アントニオ・ヤニグロ国際チェロコンクール第1位(2008年)
ASTA国際ソロコンクール第1位(2010年)などを受賞。
いまはジュリアード音楽院の学部生で、オライオン弦楽四重奏団メンバーの、
ティモシー・エディの元でチェロを勉強中。

しかし弦楽四重奏のマスタークラスで
ヤナーチェクの「クロイツェル・ソナタ」を弾いて、
翌日にソロリサイタルってハードな学生生活。 

まだ二十歳前後の若い中国人の女の子だけど、
マスタークラスのときにすごく芯の強そうなところがとっても印象的でした。
外見を含めてとても個性的なんですよ、これが。 
妙に惹かれて聴きに行ったら、いい意味で驚かされました。

黒のパンツスーツ。 化粧っ気ゼロ。
ボーイッシュなショートカットを七三分けにしてハードムースで固めた子が出てきて
チェロを弾くわけです。
身体の線は細いから女の子ってわかるけど、とても中性的。 
男の子になりたかったのかな。
余談ですが、チェロを弾くときのフォームは「女性を抱くように」というのが
理想的だと言われていたりします。
男性チェリストが休憩するときにチェロの肩に手を回すしぐさは
ほんとうに恋人を慈しんでいるみたい。

曲目は、ベートーヴェンのチェロソナタ 第4番 作品102-1
チャイコフスキーの「ロココ風の主題による変奏曲 作品33」
休憩を挟んでブラームスのチェロソナタ 第2番 ヘ長調 作品99

ベートーヴェンのチェロソナタ 第4番は、
会場に行く途中に寄った郵便局で手間取ったせいで第3楽章からしか聴けず。
アメリカの郵便局ほどいらいらするところはありません。
たった1通の配達記録付きの郵便物を送るのに、
40分以上列を作って待たされるんだから。

チャイコフスキーのロココ風の主題による変奏曲は、
弾き込んだ安定感がまだなくて、高音域の音程が不安定な部分も見られたけど、
プログラム後半のブラームスのチェロソナタ 第2番の演奏にびっくり。

華奢で中性的な雰囲気の子が出てきたのに、
そのチェロから奏でられる音楽は、
チェロであることを忘れてしまうような、
肉声で語るような濃厚などっしりしたブラームス。 

チェロソナタ第2番は、ブラームスがお気に入りの避暑地のひとつ、
アルプスの景観も美しいスイス・トゥーン湖畔ホーフシュテッテンで書かれた曲。
トゥーン湖畔に滞在するようになったのは、1886年以降なので
50歳後半、ブラームス後期の作品。

ブラームスはそもそも彼にトゥーン湖畔を勧めた、
ベルンに住む詩人ヴィトマンを週末毎に訪ね、室内楽に興じていました。

ブラームスのチェロソナタの面白いところは、聴き比べてみると
若いころに都会で書かれた第1番の方がどこか田舎くさくて、
晩年に田舎で書かれた第2番の方が、都会的な雰囲気を持っていること。

第2番は、全般的に内面的で重々しい雰囲気の作品の多いブラームスにあって、
珍しく軽快で明るい性格を持つという作品。
といっても内容的な深さに欠けるということではなく、
晩年に向かう老成した巨匠による書法はますます洗練されて、
結果的には伝統的な形式にこだわらず、かなり自由な表現で書かれています。

ブラームスの音楽を多くの若い演奏家が苦手とするのは、
彼の内面性が大人にならないと理解し難いようなものであることと、
一見明るさに溢れていてもその奥にある一筋縄ではいかない
彼の心の内を感じ取る難しさが理由のような気がします。

だからたまに若手演奏家のブラームスの良い演奏に出会えるととても嬉しい。

イークン・シュウさんの演奏は、
この演奏にすべてをかけているような集中力と緊張感に満ちていて、
思わず手を握りしめて聴いてしまいました。

やたら技術力が高いけど音楽的には面白味に欠ける中国人若手演奏家
も少なくないのですが、彼女は自分の表現方法を
(特定の作品については)すでに持っています。

若い演奏家の演奏っていいなと思うのは、
若いならではの必死さが音楽をとてもいい方向に持っていっている瞬間に出会えるとき。

聴衆はせいぜい30人くらいしかいなかったのですが、
終わった瞬間「ブラボー!」があちこちから飛び出しました。 

その瞬間にほろりとこぼれた笑顔にまだ初々しい少女の面影があって
ほっこり。

きっと数ヶ月、数年単位で彼女の音楽は劇的に変わっていくと思うので、
またいつか彼女の演奏を聴いてみたいです。


 -------- 
2016年2月19日 
イークン・シュウ チェロリサイタル 
@ジュリアード音楽院 Morse Recital Hall 

ベートーヴェン:チェロソナタ 第4番 作品102-1 
チャイコフスキー:ロココの主題による変奏曲 作品33 
ブラームス:チェロソナタ 第2番 ヘ長調 作品99


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2016年2月19日金曜日

弦楽四重奏の楽しみ方 エッシャー弦楽四重奏団 マスタークラス


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2016年2月18日
エッシャー弦楽四重奏団 マスタークラス 

from Escher Quartet website

ニューヨークを拠点に活動するエッシャー弦楽四重奏団による
マスタークラスがチェンバー・ミュージック・ソサイエティ
The Chamber Music Society of Lincoln Center(CMS)で行われたので
どんな人が聴講しに来るのか、
という興味もあってちょっと覗いてみました。

場所はジュリアード音楽院に隣接するビルの10階ローズ・スタジオ。 
100人ほど収容可能なこじんまりとした会場に入ると、
おおぉ… アジア人がいない。平均年齢めちゃくちゃ高い。 

知り合いの弦楽四重奏メンバーが、
弦楽四重奏のコンサート開いてもお客さんがシニア世代ばかりでね… 
とよくつぶやいているのを聞くけれど、まさにそう。
学生ひとりもいません。

人種の多様性を少しだけ広げ、平均年齢を少し下げるのに貢献してみました。 

ざっと眺めてみるとお客さんには、上品なユダヤ人の方々多し。

さらによく見ると、他の室内楽のコンサートに行ってもよく見かける
同じ面々がちらほら。 

どこに行っても同じ室内楽ファンに出会ってしまう、というのは
ニューヨークでも、東京でも、名古屋でも同じなのかも。
コアな室内楽ファンの人数というのは都市の大きさに関わらず、
ある一定数に留まるのかな? 

さて、今日のマスタークラスの講師はエッシャー弦楽四重奏団
2005年結成のニューヨークを拠点に活動するアメリカの弦楽四重奏団。
ツェムリンスキーの弦楽四重奏を全曲録音(2012-14年)したときに
話題になったのでご存知の方も多いかも。

ツアーの記録を見る限りでは、北米とヨーロッパツアーが中心で、
日本にはもしかしてまだ来演したことがないかも?

会場のCMSのレジデント・アーティストということで、
このマスタークラスが実現したもよう。 

ウェブサイトを見るとトップページの写真はなぜか
中国系の食料雑貨店の前で撮影されたもので
お店の名前が入っててなんだか宣伝っぽい? 

さて、本日の受講団体は2団体。
どちらも学部生によって結成されたとても若い弦楽四重奏団。

ジュリアード音楽院で学ぶ弦楽四重奏団と、
ノースカロライナ大学の音楽学校North Carolina School of the Arts
で学ぶ弦楽四重奏団です。 

ジュリアード音楽院の学生が先に受講することになっていましたが、
順番を入れ替えて、
先にノースカロライナ大学の学生による弦楽四重奏団が
受講することになりました。 

クァルテット名がないようなので、
ここでは仮にノースカロライナ大学のクァルテットをNCQ、
ジュリアード音楽院のクァルテットをJQとします。(長いので。) 

NCQが持ってきたのは、なんと20世紀イギリスを代表する作曲家、
ベンジャミン・ブリテンの弦楽四重奏曲 第1番 ニ長調 作品25。
極めてレアです。

2013年にブリテンの生誕100年記念によってブリテンが一躍注目を浴びるまで、
生演奏に触れる機会はあまりなかったと思います。

エッシャー弦楽四重奏団ですら、
数年前まで弾いてみようと思うことがなかったという。 

第二次世界大戦中に、
反戦家だったブリテンは兵役を逃れて
イギリスからアメリカに渡っていたのですが、
その間に書かれた作品(1941年)。

一度聴いたら忘れられないほどの印象的な冒頭に始まるのですが、
しばらく聴いていると洒落たタッチというか、
軽妙な雰囲気も多くて、ジョークみたい。

コープランドとかアイヴスといった、
20世紀アメリカを代表する現代作曲家の影響を受けているのでは、
という部分もあります。 

この曲のもっとも難しいのは、高音で極度の緊張を要求する、その冒頭部分。
ほぼ全員が二十歳の学生で構成された弦楽四重奏団が取り上げるには、
技術の面でも表現力の面でもかなりハードルが高い曲です。 
エッシャーQはブリテンを録音してないので、ベルチャQの録音をご参考にどうぞ。
BRITTEN, B.: String Quartet No.1 in D Major, Op.25

そのほかの部分も、幅広い音色の違いやコントラストを要求します。
思ったとおり、エッシャーQによる指導は、
テクスチュアの違いやカラーの表現方法を中心としたもの。
「ベルベット」「氷」「瞑想」「動揺」とか、
わかりやすい具体的な表現でイメージが伝わるように指導。 

アメリカっぽいなと思ったのは、常に褒めながら音楽作りをしていくところ。
「better… much better…great!」などと繰り返し褒めながら少しずつ直して、
だんだん音色が変わっていきます。 

短い時間で習得するのは難しい課題ですが、
マスタークラスが終わることには、
色彩がとても豊かになって、
複雑なテクスチュアの曲だということが随分わかるように聴こえてきました。
化学変化のよう。

若い弦楽四重奏団は単に多様な音色の出し方を知らないだけなので、
それを教えてもらうだけで、
平坦な音楽が色彩豊かな音楽に変わっていきます。
逆に言えば、受講者が結構高いレベルの弦楽四重奏団だと、
そうでない弦楽四重奏団ほど劇的に変わるわけではないので、
聴講者にとっては違いを聴き分けるのがちょっと難しいよね、という感じ。
後半に演奏したJQの方は後者にあたるかも。

面白いなと思ったのは、エッシャーQの第1ヴァイオリンのアダムさんが
「ソロ演奏ではある部分で第1ポジションを選ぶか第2ポジションを選ぶか、
といったポジションの違いは個人の出したい音に依っているけれども、
弦楽四重奏では、グループ全体の音色のために決めなければならない時がある」
と言っていたこと。

実際、ヴィオラの子がポジションを変えて演奏したら
とたんに音色が他のメンバーとマッチしたので、
会場が一気に湧きました。 


2団体目のJQが受講曲に選んだのは、
レオシュ・ヤナーチェクの弦楽四重奏 第1番 「クロイツェル・ソナタ」。 
チェコの中でもボヘミアよりもより東のモラヴィア地方に生まれたヤナーチェク。
そのせいか、彼の音楽は、
ボヘミアのスメタナやドヴォルザークとはちょっと違って、
野趣とでも言うべき民族色がくっきりと現れています。

弦楽四重奏曲第1番は、ベートーヴェンのヴァイオリンソナタ
「クロイツェル」を物語の重要な小道具として用いたトルストイの小説
「クロイツェル・ソナタ」のあらすじを、なぞるように作曲されたもの。

1923年の作。同時代の作曲家の一歩も二歩も先を行く、
あまりにも現代的な響きを持つ特異な作品です。 

トルストイの原作では、猜疑心深い老人が、
ベートーヴェンの「クロイツェル・ソナタ」を自分の若い妻と、
ヴァイオリニストが親密な雰囲気で演奏し談笑しているのを見て
不倫の仲にあると思い込み、殺害するに至る心理が
モノローグとして語られます。
そして「恋愛の原動力となる性欲は人間生活の悪」とする持論が展開されます。

けれども、ヤナーチェクは結婚に縛られ殺されてしまった物語のヒロインに
むしろ同情と共感を寄せていました。
そしてこの物語の悲劇的な結末に対するトルストイに
疑問を投げかけるかのように、この作品を書きます。
したがって、このような心理的で特異な音楽が生まれたのです。

実際、この曲の背景には、当時すでに60歳を過ぎていたヤナーチェク自身が
夫のある身である38歳年下の女性、カミラ・シュテッスロヴァーに
熱烈な恋慕を寄せていたという事情があります。
彼が生涯に彼女に送った手紙は720通以上とか。
その彼女への恋文が、有名な弦楽四重奏曲 第2番「内緒の手紙」となるわけ。

曲の内容はともあれ、
まず、 JQの演奏は正直二十歳の子たちとは思えない
かなりレベルの高いものでした。
経歴を見ると、すでに国際コンクール受賞歴を持っている子もいるし、
皆スカラシップやフェローシップを受けていて、
楽器もG.P.マッジーニやらP.グァダニーニやら、
名器を貸与され使用している子がほとんど。
ソロでも今後の活躍が期待できそう。 

そして見た目にも興味深くて、
第1ヴァイオリンとヴィオラはアフリカン・アメリカン、
第2ヴァイオリンは白人、チェロは中国人。

3人はスーツなのに第2ヴァイオリンの白人の女の子は
一人だけ真っ赤なセーターを着て登場。
そしてヴィオラのアフリカン・アメリカンの男の子は
ドレッドヘアーです!!!

うーん、こうした若い弦楽四重奏団が今後アメリカには増えていくんだろうな、
と思うととても興味深いです。 

さて、エッシャーQのメンバーも、
まずJQの演奏が期待以上に良かったらしく
「すごく上手いよ! でもこの曲は決してアグレッシブに弾くべきじゃないんだよ」
と言って、さらに完成度の高いものにすべく、
極めて具体的なプロとしての様々なテクニックを伝授していきます。 

弓の使い方ひとつでキレのよい音楽になり、客席にも大きなどよめきが。
指導に対する反応も早くて、即座に音色が変化していくので、
エッシャーQも教えがいがあるというもの。 

楽譜の版についても、アドバイスが。
JQが使っていた版は、ボヘミア弦楽四重奏団の第2ヴァイオリン奏者だった
ヨゼフ・スークの解釈が加えられた版だったよう。

1975年以降、スメタナ弦楽四重奏団のヴィオラ奏者、
ミラン・シュカンパが原典に還ろうと研究を重ねた
新校訂版を用いる団体も増えてきています。

新校訂版も見てみると、ヴァイオリンの解釈が変わるよ、
と勧めるエッシャーQ。
校訂者の演奏上の書き込みは解釈の妨げになる場合もある
と伝えたかったようです。

カルテットの音楽作りの裏側をつぶさに観察できる点で、
こうしたマスタークラスは演奏以上に面白いなと思います。

弦楽四重奏曲は一般的に長いし、聴き方や楽しみ方がわからない、
という場合には、マスタークラスを覗いてみると、
どうやって音楽を作っていくのかがわかり、
楽しむ方法のきっかけが見つかるのではと思います。 

さて、エッシャー弦楽四重奏団は、
この冬リンカーンセンターで開催されている
ベートーヴェンの弦楽四重奏曲演奏会シリーズに出演することになっていて
明日2月19日はリンカーンセンターのAlice Tully Hallで
ベートーヴェンの弦楽四重奏曲の後期の大作たち、作品132、130、133を
演奏することになっています。

そしてその2日後には、デンマーク弦楽四重奏団が
ベートーヴェンの弦楽四重奏曲 作品131、135、130(抜粋)を、
同じベートーヴェン弦楽四重奏曲演奏会シリーズのトリで演奏する予定。
が、どちらも完売。
ベートーヴェンの後期の弦楽四重奏曲は人気が高い...



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エッシャー弦楽四重奏団によるマスタークラス 
@リンカーンセンター チェンバー・ミュージック・ソサイエティー(CMS) 

受講者
ノースカロライナ大学  
第1ヴァイオリン: Avital Mazor  
第2ヴァイオリン:Bennett Astrove  
ヴィオラ:Peter Ayuso  
チェロ:Gustavo Antoniacomi 

受講曲 ブリテン:弦楽四重奏曲 第1番 ニ長調 作品25


ジュリアード音楽院  
第1ヴァイオリン:Randall Goosby  
第2ヴァイオリン:Mariella Haubs  
ヴィオラ:Jameel Martin  
チェロ:Yi Qun Xu

受講曲 ヤナーチェク:弦楽四重奏曲 第1番 「クロイツェル・ソナタ」



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2016年2月18日木曜日

Meetupを使って日本の歌を少しだけ広めてみた!


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こんにちは、MUCHOJIです。
初めて当ブログをご訪問の方は、「はじめに」をお読みください。
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今日はMeetupを使って日本の歌をちょっとだけ広めてみた、
という個人的な体験談。

世界約180カ国で2,300万人以上が利用している
世界最大級のローカルコミュニティ・交流プラットフォーム
「Meetup(ミートアップ)」。

2002年にニューヨークで生まれたMeetupは、
サイト上で興味や関心のあるトピックを入力すると、
自分と同じ興味を持つ仲間の集まるコミュニティに参加できる、
プラットフォームサービスで、いまではあらゆるトピックに関する
リアルなコミュニティが21万件以上存在するそう。

Meetupが生まれた場所なだけに、
ニューヨーク市では8人に1人が登録しているらしい。 
というわけで私も登録してみました。

で、何のコミュニティに入ったかというと、

英語を学ぶ会?

ノー。

私が登録したのはPoetry Writingのコミュニティ。
詩を書くコミュニティ。

なんで?

それはある目的のためなんです。

以前にも紹介したことがあるので、私の父が英語マニアで、
日本の童謡や唱歌、流行歌を密かに英語に翻訳しているのを
ご存知の方もいらっしゃると思います。

わりときちんと作ってあって、英語の韻もちゃんと踏んであるし、
毎回その単語を選んだ理由とか、解釈とか、
歌の隠された意味を記した立派な"報告書"が添付されている。 

そしてそれを父は毎日歌っている。
掃除機をかけながら、自転車に乗りながら…
そう、いまや音楽教師の母親や、音楽マニアの兄弟や、音楽学が専門の私以上に、
家族内での一番の音楽家は父なのだ。

英語で童謡を歌いながら自転車でさっそうと去って行くおじさんとして
ご近所さんではちょっとした有名人(笑) 

さて、その父親の悩みは近くにネイティヴスピーカーがいないので、
辞書的にはわからない表現に悩んだときに尋ねる相手がいないこと。

そして、英訳した日本の歌を外国人に披露する機会がないこと。 

というわけで、ニューヨークに住む私がその役をかってでたのですが… 

私がMeetupで見つけたコミュニティは
ニューヨークで詩作を生業としている人、
あるいは詩作を趣味としている人たちが集まるPoetry Table。

もとジャーナリストの女性がホストとなり、
自宅を開放していてそこに詩の愛好家が集まります。
実際に行って見ると、彼女はアフリカや中東の美術品の
コレクターでもあるのか、美術館のような贅沢な居間。

まずひとりずつ自分の詩を披露し、お互いにコメントします。
そのあと30分間無言で新しい詩を書いて、最後にもう一度それを発表。 



こんな機会もあろうかと、
実は日本人が来たとなったら絶対話題に上るだろうという内容を
あらかじめ下調べしておきました。
予想通り、クロサワのシネマとか、バショウとかブソンのハイクをどう思う?
と意見を求められ、よしキタ〜!って感じ。 

さて、このハイソな雰囲気の場所で、こともあろうか、
私は「リンゴの唄」と「牧場の朝」を英語で披露したのでした。
しかも読み上げたのではなく、歌ってしまったという。

かなり恥ずかしいです。だって、
「リンゴ可愛いや 可愛いやリンゴ〜♪」を
「Oh, dear how cute you are, how lovely you are!」て歌うんですから!

正直、この日の午後をすべてこの歌の練習に費やしました…
なぜなら、日本語では短くて済む内容が、
英語に訳すと文字が多くなるので、
日本の歌の英訳を歌うはかなり大変なのです。

1音節に1音をあてるように訳してはあるものの、
フレーズによっては早口言葉状態。
音楽的にはまだまだ課題の多い英訳です。 

さて、私は歌への反応が何よりも恐ろしかったわけですが、
みなさん優しい方々だったのでにっこり微笑んで受け入れてくれました。 

なにより本日の一番の成果は、そこにいた詩人の一人が、
即興作詩をして、その詩の中に、私の歌のことと、
それがリズムを持っていることが芭蕉と蕪村の俳句を連想させた、
という内容を自分の詩に入れてくれたこと。

特殊な英語力が鍛えられちゃうので、もっとそれよりやるべき基礎があるのでは
とも思うし、毎週通うには準備も復習も大変ですが、
また行ってみようかな。
歌の練習しないといけないけど。





【Soka University のコンサートホールがすごい!】

♪--------------------♪--------------------♪ こんにちは、MUCHOJIです。 初めて当ブログをご訪問の方は、 「 はじめに 」をお読みください。 -----------♪------------------♪---...